Investment

プロジェクト

Pvs230を抗原とする三日熱マラリア伝搬阻止mRNAワクチンの開発
  • 受領年
    2022
  • 投資金額
    ¥69,965,220
  • 病気
    Malaria
  • 対象
    Vaccine
  • 開発段階
    Antigen Identification
  • パートナー
    愛媛大学 ,  マヒドン大学

イントロダクション/背景

イントロダクション

三日熱マラリアは、東南アジア、南アジア、中南米、太平洋諸国で流行している主要な熱帯感染症です。その病原体である三日熱マラリア原虫は、肝内休眠型と呼ばれる肝臓内で発育を停止している時期をもつため、媒介蚊から感染した後も無症状で何ヶ月間も肝臓内にとどまっています。この肝内休眠型が眠りから覚めると、再びマラリアの症状を引き起こします(再発)。そのため、治療後も繰り返し再発を起こし、マラリア撲滅の大きな課題となっています。したがって、流行地の肝内休眠型保有者を減らす伝搬阻止ワクチンなどの新たな対策が求められています。ワクチンは多くの感染症対策において最も費用対効果の高い手段ですが、三日熱マラリアを標的としたワクチンは未だ実用化されていません。

プロジェクトの目的

このプロジェクトは、新規の三日熱マラリア伝搬阻止ワクチンをmRNAベースで開発することを目的としています。このワクチンは、三日熱マラリア原虫の有性生殖期に特異的なタンパク質であるPvs230を標的抗原とし、ヒトに強力かつ長期的な伝搬阻止免疫を誘導し、ヒトから蚊への三日熱マラリア原虫の感染を阻止することができます。

プロジェクト・デザイン

マヒドン大学と愛媛大学のマラリアワクチン開発に関する専門知識を結集し、三日熱マラリア原虫の伝搬を阻止する新しいmRNAワクチンを作製することを目指します。ワクチンの標的抗原はPvs230タンパク質で、原虫の蚊体内での受精時に発現する伝搬阻止ワクチン候補としてよく知られています。しかし、Pvs230は大きなタンパク質であるため、まずいくつかのPvs230断片に分けてワクチン効果をスクリーニングし、最も強い防御免疫を誘導するサブドメインを特定します。次に、従来のmRNAワクチンで用いられている直鎖状ヌクレオシド修飾mRNAと、新たに我々が開発した環状mRNAの両方を用いて、最も有望なワクチン候補を選定します。ワクチンの効果は、mRNAの免疫によってマウスに誘導された抗体を用いて、三日熱マラリア原虫の蚊への感染阻止活性によって測定します。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリアは、低・中所得国において人々の健康に大きな負荷をかけ続けています。WHOの「Global Technical Strategy for Malaria(2016-2030)」では、2030年までに2015年比でさらに35カ国でのマラリア撲滅を目指しています。三日熱マラリアは、1回の蚊の刺咬で、マラリアの発症を何度も引き起こすため、撲滅が困難です。そこで、伝搬阻止ワクチンは、この病気を撲滅するために不可欠です。

短期的には、マウスに強力な伝搬阻止免疫を誘導するmRNAワクチンを開発します。このワクチンをベースに、霊長類やヒトでの開発・評価を進めます。

長期的には、この伝搬阻止ワクチンとヒトから蚊への感染を阻止するワクチンを組み合わせた多価ワクチン製剤を開発し、マラリア感染サイクルを2箇所で止めることを目指します。この多価ワクチンにより、マラリア撲滅を加速させることが期待できます。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

これまで、組換えPvs25タンパク質を抗原に用いた三日熱マラリア伝搬阻止ワクチンの臨床試験が2回実施されましたが、免疫原性が低く有害事象も発生したため、開発は止まりました。このため、より優れたワクチンの開発が求められています。最近、ヌクレオシド修飾mRNA包含脂質ナノ粒子(mRNA-LNP)が、COVID-19の有効なワクチンプラットフォームとして実用化されています。そこで本プロジェクトの革新性は、確立されたmRNAワクチン技術を応用して、新規抗原Pvs230を用いた三日熱マラリア伝搬阻止ワクチンを開発することと、mRNAワクチンの安定性、免疫原性の向上、製造コストの低減が期待できる環状mRNAの有用性を実証することにあります。

各パートナーの役割と責任

このプロジェクトでは、愛媛大学がPvs230断片抗原と伝搬阻止活性測定実験のデザイン、免疫原性試験のための組換えタンパク質の生産、およびデータ解析を主導します。マヒドン大学は、プロジェクトの管理、mRNAワクチンの設計と製造、動物実験による免疫応答の評価、および三日熱マラリア原虫フィールド分離株を用いた伝搬阻止ワクチン活性の測定を担当します。

他(参考文献、引用文献など)

WHO Global Technical Strategy for Malaria 2016-2030.
https://www.who.int/malaria/publications/atoz/9789241564991/en/