Investment

プロジェクト

結核に対する表現型スクリーニングで得られたヒット化合物からリード化合物へのHit-to-Lead研究
  • 受領年
    2020
  • 投資金額
    ¥80,136,368
  • 病気
    Tuberculosis
  • 対象
    Drug
  • 開発段階
    Lead Identification
  • パートナー
    アステラス製薬株式会社 ,  The Global Alliance for TB Drug Development
  • 過去の案件

イントロダクション/背景

イントロダクション

本Hit-to-leadプロジェクトは、TBアライアンスとアステラス製薬が共同で実施した結核菌に対する化合物探索プロジェクトの後継となるプロジェクトです。化合物探索プロジェクトではアステラス製薬が有する化合物ライブラリーを用いて化合物探索を行い、Hit-to-lead研究へ進めるための候補化合物を同定しました。本、Hit-to-leadプロジェクトでは、GHIT fundからの支援のもと、TBアライアンスおよびアステラス製薬が連携しそれら化合物について更なる研究を行い、次の最適化研究につながる化合物を特定することを目指しています。

 

プロジェクトの目的

TBアライアンスとアステラス製薬は、化合物探索プロジェクトで約20,000化合物の探索を行い、その中から異なる化学構造を有する2種の候補化合物シリーズを特定しました。本Hit-to-leadプロジェクトではそれら化合物の新しい類縁体を合成し、構造活性相関や薬物動態、安全性情報の解析・収集を行います。こうして得られた研究データをもとに、マウスを用いた動物実験に進むべき候補化合物の創製を目指します。予定している研究を実施することにより、次の最適化研究につながるリード化合物を特定することを目指しています。

 

プロジェクト・デザイン

2つの化合物シリーズの構造が類似した新しい化合物の合成を行い、試験管内で結核菌に対する活性を評価します。有望な新しい化合物については薬物動態および毒性評価を行います。薬物動態および毒性評価にて優れた結果を示した候補化合物については、マウスを用いた動物実験を行い、期待している効果があるかどうかの評価を行う予定です。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

結核は世界各地で問題になっている感染症で、結核感染により世界中で多くの人々が亡くなっています。世界保健機構(WHO)は、世界人口の約4分の1を占める18億人の人々が結核菌に感染していると推定し、昨年は、1000万人の方が結核菌に感染し、140万人の方が命を落としています。結核は、咳やくしゃみにより結核菌が飛散することで空気感染します。結核は、経済発展に悪影響を与え、家族、地域社会、さらには国全体を巻き込む貧困をもたらす原因となります。特に、女性、子供、HIV/AIDS感染者は、結核感染の高いリスクを負っています。現在、既存の結核治療薬に対し耐性を持つ結核菌が出現しており、その治療がますます困難になっています。昨年は約50万人の結核患者が薬剤耐性結核菌に感染したといわれています。

こうした状況により、結核患者を治療し世界から結核を撲滅するためには新たな結核治療薬の開発が必要となります。私たちのプロジェクトでは、将来的に効果的な結核治療薬開発につながる新規化合物を特定することを目指しています。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

2つの化合物シリーズは、現在開発が進められている化合物も含めこれまでの化合物にはない構造を持っており、異なる作用機序を示す可能性が高いと考えています。これは薬剤耐性菌に対する治療薬という点において重要と考えています。本プロジェクトでは、これら2つの化合物シリーズの作用機序を研究し、新しい結核菌治療薬の創製の可能性を検討します。

各パートナーの役割と責任

TBアライアンスは類縁体化合物の合成、結核菌に対する活性評価、生体での化合物の動態データの取得をコーディネートします。アステラス製薬は、新規類縁体化合物のデザインの支援や得られたデータの解釈を支援します。本プロジェクト実施に関わる決定はTBアライアンスとアステラス製薬が連携し行います。

最終報告書

1. プロジェクトの目的

アステラス製薬の化合物ライブラリーより同定したヒット化合物(AとB)を母核として2021年4月1日よりHit-to-lead 研究を開始した。本研究では、ヒット化合物から次の最適化研究に適した母核を1つ選定することを目的とする。母核 A の課題は、抗結核菌活性と他標的との作用乖離、母核 B の課題は構造活性相関の把握に設定した。

 

2. プロジェクト・デザイン

誘導体は CRO にて合成し、抗結核菌活性を評価する。母核A では適切な誘導体を用いて他標的との作用乖離も評価する。また、代表的な誘導体を用いて作用機序の解明も行う。さらに、周辺誘導体から薬物動態および毒性評価で優れたプロファイルを示した候補化合物を用い、マウスを用いた動物実験にてin vivo薬効を確認する。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

各母核の誘導体として約 100 化合物を合成した。母核 A に関しては、抗結核菌活性(Mtb)と他標的との作用分離が比較的容易であることが判明した。母核  B では、構造活性相関があまり明確ではなく、抗結核菌活性の向上が困難である事が判明したことから、母核 Aに着目し更なる合成展開研究を行ったところ、母核 A誘導体から、Mtbに対してin vitro 阻害活性を持ち、良好な薬物動態を示す化合物を複数見出した。そこで、これら誘導体から2つの化合物を選択し、In vivo POC確認のためにマウス動物モデルの評価を実施したが、今回の条件下では薬効を確認することはできなかった。また、これらの化合物を用いて作用機序の解明を行ったところ、可能性の高い標的として従来よりよく知られている標的が示された。この標的に関しては既に多くの先行研究が行われており、臨床開発品も存在した。なお、作用機序の解明は、Mtb の野生型株を母核A の代表的な誘導体に暴露することによって生じた新しい株の全ゲノム配列決定によって行った。

以上の結果より、母核 A誘導体の標的は、先行開発品があり、多くの先行研究が行われている標的の可能性が高く、現時点から最適化研究を進める魅力に欠けること、リード候補化合物でPOC確認試験となるマウスでのin vivo薬効ができなかったことも鑑みて、本研究は現時点での研究段階での終了が妥当と判断した。