Investment

プロジェクト

東京大学創薬機構化合物ライブラリーからの新規抗マラリア剤リード化合物の創出

イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリアは世界中で年間約45万人もの死者を生む重要な感染症です。特にアフリカの子供や妊婦の感染が多くの死亡の原因となっています。十分な効果をもつワクチンは未だに確立していません。また、現在使用されているすべての薬剤に対する耐性が既に出現しており、新しい薬剤の開発が待たれています。

 

プロジェクトの目的

東京大学とMedicines for Malaria Venture (MMV)は、2018-2020にGHIT Fundの資金提供を受け、日本国内のアカデミアの保有する化合物ライブラリーを用いて、熱帯熱マラリア原虫の増殖を阻害する化合物を探索しました。この探索研究の結果、東大創薬機構の保有する21万化合物から有望な候補ヒット化合物を発見しました。本プロジェクトでは、探索により発見された3ヒット化合物に関して、構造の最適化を行い、これまでにない構造と作用機序をもち、安全性に優れたリード化合物を創出することを目指します。

 

プロジェクト・デザイン

本プロジェクトでは、東京大学とMMVが協働して、上記候補化合物の構造展開、薬効・安全性評価などを実施し、リード化合物を創出します。同時に、リード化合物がどのようにマラリア原虫を殺滅するのか、その分子機構を解明します。マラリアはヒトの複数の臓器・組織・細胞(肝臓・赤血球)と媒介昆虫(蚊)の中で複数のステージで存在しますが、リード化合物がどのステージに有効かを明らかにし、新しい作用点をもつ、複数ステージに有効性を示す薬剤の開発に繋げます。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

既存のマラリア薬に対して次々と耐性が発生する現状を克服するために、新しい作用機序をもつ薬剤の開発が常に求められてます。本プロジェクトにより薬剤耐性マラリアに有効な新しい作用機序をもつ抗マラリア剤リードを創出することが期待されます。理想的には、小児・妊婦に利用が可能な薬剤、再発を予防する薬剤、蚊による伝播を阻止する薬剤、治療だけでなく予防にも利用可能な薬剤などが発見されることが期待されます。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

これまでのマラリア薬創出を目指すプロジェクトは主に国内外の製薬企業の保有する化合物ライブラリーを出発材料としていたのに対し、本プロジェクトは国内のアカデミアが保有する化合物ライブラリーを用いた初めてプロジェクトです。

各パートナーの役割と責任

東京大学は、名古屋工業大学と協働し、ヒット化合物の合成展開を実施します。更に、順天堂大学・愛媛大学等の日本国内の共同研究グループとともに、得られた化合物のマラリアに対する有効ステージの検証、作用機序の解明を行います。MMVは得られた化合物の物理化学的性質、安定性、体内動態、薬剤耐性原虫への薬効などを評価すると同時に、既存の薬剤の作用機序と重複するかの検討を行います。

最終報告書

1.プロジェクトの目的

東京大学創薬機構DDIの保有する21万化合物から熱帯熱マラリア原虫の増殖阻害を指標に得られた7つの有効化合物(ヒット)を基点として、構造展開により物性、安全性、ADME等の最適化を行い、抗マラリア新規リード化合物を獲得することを目的とした。更にヒットの作用機序とマラリア原虫の耐性機構を解明することを目指した。

 

2.プロジェクト・デザイン

東京大、名古屋工大、Medicines for Malaria Ventureにより実施した。化合物の設計・合成はMMVと名工大、寄生虫に対する薬効、安全性試験は東大、物理化学的解析、交差耐性、初期ADME、薬剤体内動態などはMMVにより実施された。新規化合物の薬剤作用機序・耐性機構の解明は東京大学が実施した。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

DDIライブラリーから発見された7種のヒット(#1-#7)うち、主にヒット#1−#5の構造を展開した。ヒット#5は開始時点で、薬剤感受性・耐性両方の熱帯熱マラリア株の赤内型ステージ原虫に対して良好な活性を示し、毒性を示さず、中程度の即効性を示した出発化合物であった。ヒット#5から200程度の誘導体を合成して、リードとして求められるバランスの取れた高い活性、物理化学的性状、ADME等の特徴を兼ね備えた化合物の獲得を目指した。マラリア原虫はヒット#5に対して、既知の薬剤耐性機構によって耐性を獲得できず、ヒット#5は新規の標的を持つことが示唆された。しかしながら、抗マラリア活性、透過性(生物学的利用能)、代謝安定性などに関して、開発を進める初期リード化合物としてMMVの定める必要要件を満たす化合物を発見することができなかった。残りの6種類の化合物に関しても、毒性、代謝安定性、合成の複雑さなど様々な理由により開発を中断した。#3-#5に関しては、薬剤耐性マラリア原虫の作出と全ゲノム解析により薬剤耐性機構を明らかにした。#4に関しては、生化学的手法により標的となる新規タンパク質を同定し、今後の新規創薬標的として提示した。本プロジェクトは日本と海外のアカデミアと海外プロダクトデベロップメントパートナーとの研究開発交流を推進するとともに、国内アカデミアの創薬能力の強化にも大きく貢献した。