Investment

プロジェクト

全長CSP/SA-1マラリアワクチンの第一世代RTS,S/AS01ワクチンに対する比較検討
  • 受領年
    2020
  • 投資金額
    ¥99,973,317
  • 病気
    Malaria
  • 対象
    Vaccine
  • 開発段階
    Antigen Identification
  • パートナー
    大日本住友製薬株式会社 ,  愛媛大学 ,  PATH

イントロダクション/背景

イントロダクション

世界初のマラリアワクチンRTS,S/AS01は、部分長の熱帯熱マラリア原虫スポロゾイト表面タンパク質(CSP)を含むウイルス様粒子を抗原とし、TLR4/QS21を含むアジュバント(AS01)を用いて製剤化されています。アフリカで実施されたRTS,S/AS01ワクチンの大規模な第3相臨床試験の結果、4年間の観察期間中に幼児のマラリア発症を約40%低下させました。現在、アフリカの3ヶ国で国家ワクチンプログラムへ試験的に導入しています。より有効で効果が持続する次世代マラリアワクチンが開発されれば、公衆衛生上多大なインパクトをもたらすことができます。

 

プロジェクトの目的

本プロジェクトでは、全長CSP(flCSP)抗原と新規TLR7アジュバントSA-1で構成される新規ワクチンの有効性について、RTS,S/AS01に対する優位性を検討しflCSP/SA-1ワクチンを前臨床開発へ進めるかどうかを評価します。すなわち、アジュバント(SA-1とAS01)とワクチン抗原(flCSPとRTS,S)をそれぞれ比較評価します。具体的には、RTS,S/AS01を投与されたヒトで観察された抗体価の減衰をより適切に観察すべく、サルを用いてflCSP/SA-1とflCSP/AS01の抗体誘導の持続性を比較します。また、マウスマラリア感染モデルを用いてflCSP/SA-1とRTS,S/AS01の防御効果を比較します。

 

プロジェクト・デザイン

研究計画1. サルにおける抗体の持続性評価

TLR7アゴニストに対する反応性、およびワクチンによって誘導される機能性抗体の体内動態に係るヒト外挿性が高いと考えられるカニクイザルを用いて、SA-1またはAS01を添加したflCSPワクチン抗原の免疫原性を評価します。

 

研究計画2.1. flCSP/AS01とRTS,S/AS01ワクチンで誘導された抗体の感染防御能の評価

マウスにおける活性が既知のAS01アジュバントを用い、flCSPワクチン抗原およびRTS,Sワクチン抗原で誘導される抗体の感染防御能について、既に我々が公表済みのマウス実験モデルを用いて評価します。

 

研究計画2.2. flCSP/SA-1ワクチンの感染防御能の評価

flCSP/SA-1ワクチンのマラリア原虫感染防御能を、スポロゾイト感染マウスモデルを用いて評価します。

 

我々は、T2020-252を遂行し、flCSP/SA-1ワクチンの優位な持続的感染防御活性を示す科学的根拠に基づいて、前臨床開発に進めるかどうかを判断します。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリア撲滅に向けては、新しいツールの開発が喫緊の課題です。

全ての年齢において、蚊からヒトへの感染を防ぐ感染阻止ワクチンはマラリア撲滅を加速する鍵となります。そのためには、ワクチン接種率に加えて効果の持続性が重要なファクターであることが数理モデル解析で分かっています。したがって、本プロジェクトでは、より有効で効果が長期間持続する次世代感染阻止ワクチンの開発を目指します。さらにこれまでの動物実験では、感染阻止ワクチンに加えて、ヒトから蚊へのマラリア原虫の感染を阻止する伝搬阻止ワクチン(現在我々がG2019-205プロジェクトで開発中)を組み合わせることにより、相乗効果が期待できることが分かっています。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本プロジェクトでは、パートナーが持つ革新的な技術や経験を結集して次世代マラリアワクチン開発に取り組みます。PATHは、数十年に及ぶ世界初のマラリアワクチンRTS,S/AS01の開発経験と、それに立脚した次世代ワクチン効果の持続性向上に向けた革新的知見を有しています。大日本住友製薬は、製薬企業としての多くの医薬品開発経験と革新的なTLR7アジュバント技術を有しています。愛媛大学は、これまでの長年に及ぶマラリア基礎研究経験に基づく新たなワクチン評価法を有しています。従って、本パートナーシップは、経験と技術に裏打ちされたリスクを回避し得る革新的なアプローチであると言えます。

各パートナーの役割と責任

PATH:研究代表者として、プロジェクトマネージメント、大日本住友製薬株式会社と愛媛大学へのflCSP組換えタンパク質抗原の提供、研究データの解析を担当します。さらに、本研究の評価基準となるRTS,S/AS01ワクチンの使用に必要な契約を担当します。

大日本住友製薬株式会社:SA-1アジュバントのパートナーへの提供と、上記研究計画1のカニクイザルを用いた実験を担当します。

愛媛大学:マウスモデルを用いたワクチンの感染防御活性の評価を担当します。

他(参考文献、引用文献など)

References available in the T2020-252 application. 

WHO Global Technical Strategy for Malaria 2016-2030. https://www.who.int/malaria/publications/atoz/9789241564991/en/

WHO World Malaria Report 2020. https://www.who.int/malaria/publications/world-malaria-report-2020/en/

最終報告書

1. プロジェクトの目的

第2世代の熱帯熱マラリアワクチン開発に向けて以下の目的で本研究を行った。

- サル(NHP)において、全長CSP (flCSP)/SA-1がflCSP/AS01より抗体価が持続するか。

- 可溶性組換えタンパク質flCSPが、ウイルス様粒子(VLP) のRTS,Sと比較して、マウスマラリアモデルにおいてより強い防御効果をもたらすか。

 

2. プロジェクト・デザイン

- 抗体の持続性を評価するため、カニクイザルに flCSP/SA-1、flCSP/AS01、RTS,S/AS01を免疫し、flCSP及びNANP抗原に対する抗体価を 40週目まで測定した。

- flCSPとRTS,Sで誘導される抗体の活性を比較するため、マウス及びウサギに免疫した。flCSP/AS01又はRTS,S/AS01免疫で誘導される抗体の防御効果は、精製IgGをマウスに受動免疫し、P. falciparum CSPトランスジェニックネズミマラリア原虫(PbPfCSP)を感染させ評価した。

さらに、flCSP/SA-1およびRTS,S/AS01の防御効果は、各ワクチンをマウスに免疫した後、PbPfCSPの感染実験により評価した。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

マイルストーン 1. 技術プラットフォームIDの完成。NHP試験により、flCSP/SA-1およびflCSP/AS01によって誘導された抗体の持続性を測定・解析した。
カニクイザルにflCSP/SA-1免疫で誘導された抗flCSP抗体の半減期は、flCSP/AS01よりも長かったが、抗体価のピーク値は同等であった。RTS,S/AS01は抗体を最も高く誘導した。

マイルストーン2.抗原の特定と研究の完了。AS01アジュバントでflCSPとRTS,Sの比較を完了し、マウスマラリアモデルでflCSP/SA-1による防御免疫の誘導を証明した。
RTS,S/AS01はマウス及びウサギいずれにもflCSP/AS01よりも高い抗体価を誘導した。 RTS,S/AS01免疫マウスおよびウサギのIgGをマウスに受動免疫すると、PbPfCSP肝内感染原虫量を対照IgGに比べて有意に減少させた。 また、flCSP/AS01免疫マウスのIgGは肝内原虫量を減少させたが、flCSP/AS01免疫ウサギのIgGは抗体価が低かったため減少させなかった。また、マウスへの直接免疫により、ベンチマークワクチンであるRTS,S/AS01はflCSP/SA-1よりも高い抗体価を示し、さらにPbPfCSP感染実験においても肝内原虫量を大幅に減少させた。

結論:
本研究では、SA-1アジュバントにより誘導されたflCSPに対するIgGの半減期はAS01よりも長かった。RTS,S抗原はflCSPよりも高い抗体価を誘導した。RTS,S/AS01はflCSP/SA-1より強い防御免疫をマウスに誘導した。