Investment

プロジェクト

新規作用機序を有し多段階の生活環において効果を示す抗マラリア薬の開発

イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリアの治療および最終的な制圧は依然として困難な状況にあります。最も致死性の高い熱帯熱マラリア原虫に薬剤耐性が出現しているのが大きな理由です。それゆえに、既存の抗マラリア薬に対する耐性機構に影響されない新たなリード化合物の創出が必要です。さらに、マラリアの流行を防ぎ、脆弱な人々を守るためには予防薬と伝播を阻止する薬剤が必要ですが、現在の標準治療薬はマラリア原虫の生活環全体に対して有効性を持つものではありません。ブロード研究所はエーザイと協力し、新規標的である熱帯熱マラリア原虫細胞質性フェニルアラニンtRNAシンセターゼ(PfcPheRS)に作用する一連の抗マラリア化合物を見出しました(Nature, doi:10.1038/nature19804)。特徴的な二環性のアゼチジン構造を有するこれらの化合物は、熱帯熱マラリア原虫の血液および肝臓、伝播段階の全てに対してin vitroとin vivoの両方で良好な薬効を示します。

 

プロジェクトの目的

今回の提案は、以前のGHIT Fundの助成(G2014-107およびG2016-219)によって得られた良好な薬効プロファイルと向上した合成ルートを有する複数の化合物について研究を行うものです。これらの成果により、前臨床研究およびIND申請のためのGLP試験の完遂が見込まれ、今回の最終目標はMedicine for Malaria Venture(MMV)によって設定されたターゲットプロファイルを満たす化合物の第1相試験に備えることです。

 

プロジェクト・デザイン

本プロジェクトでは二環性アゼチジン化合物群の詳細な前臨床データを得ることを企図し、抗マラリア薬候補化合物の第1層臨床試験に備えることを最終目標としています。主要な目標は、以下の4点です。(1)候補化合物の物性科学プロファイリングおよび適切な塩型の選択(2)GLPに準拠した化合物合成(3)投与剤型の開発(4)IND申請に用いる非臨床毒性試験の実施

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

世界の公衆衛生コミュニティがマラリアによる死亡率の減少に著しい進歩を遂げている一方で、今なお年間2億1200万人を超える人々がマラリアに感染しています。2017年には、約43万5000人がマラリアにより死亡しており、その大部分(61%)は5歳未満の子供でした。マラリアの罹患率および死亡率をさらに低下させるためには、ベクター(蚊)の防除、効果的なワクチン、ならびに薬剤耐性マラリア原虫、原虫の感染や伝播段階(それぞれスポロゾイトおよび生殖母細胞)、および三日熱マラリア原虫と卵形マラリア原虫の休眠段階を標的とする新しい化学療法を含む多面的なアプローチが必要です。MMVは、成人および小児における単純性マラリアの治療のための単回投与根治および予防法(SERCaP)の開発を提案しています。理想的なSERCaPのための製品プロファイル(TPP)では、血中からの急速な原虫消失、伝播阻止活性、および休眠体活性を示すことが求められます。今回提案した研究の候補化合物が、MMVの定める少なくとも1つの候補化合物プロファイルTCPの要件を満たすだけでなく、生殖母細胞および肝臓期原虫に対する活性により、患者様に大きな有用性を提供するできることを期待しています。    

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

マラリア治療のための効果的な根絶戦略は、主にマラリア原虫の複雑な生活環と、ヒトにとって最も致死的なマラリア原虫である熱帯マラリア原虫での薬剤耐性の出現のために、分かり難いものでした。現在の抗マラリア薬の多くは、マラリア原虫の血中段階を標的としており、そこではマラリア原虫は赤血球内に寄生し、複製します。たとえ、肝臓期や伝播段階のマラリア原虫がマラリアの症状を引き起こさないとしても、予防と伝播阻止薬は、病気の流行の防止と脆弱な人々を感染から守ることに必要です。残念ながら、現在の抗マラリア薬は、マラリア原虫の全生活環を標的とするために必要な要件すべてを満たしていません。我々のユニークな二環性アゼチジン系は、新しい作用機序(熱帯熱マラリア原虫細胞質性フェニルアラニンtRNAシンセターゼ(PfcPheRS)を標的とする)を有し、血液、肝臓および伝播段階の熱帯熱マラリア原虫に対して、in vitroおよびin vivoの両方で強力な活性を示します。

各パートナーの役割と責任

ブロード研究所・エーザイのプロジェクト・メンバーは、プロジェクト計画を遂行するために、緊密に協働します。

-ブロード研究所は、本プロジェクトの指定開発パートナーです。リーダーシップ発揮、プロジェクト・マネジメントと原薬合成の最適化に貢献します。

-エーザイも、リーダーシップ発揮とプロジェクト・マネジメントに貢献します。加えて、エーザイは、安全性試験、物理化学的特性解析試験、候補化合物の調製、投与製剤の予備開発とともに、IND申請を可能とする非臨床安全性試験のモニタリングを担当します。    

他(参考文献、引用文献など)

Nature,doi:10.1038/nature19804

最終報告書

1. プロジェクトの目的

ブロード研究所の多様性志向ライブラリーから見出された二環性アゼチジン化合物群は、フェニルアラニン合成酵素を阻害することでマラリア原虫のヒトでの生活環全てに作用します。今回、バックアップ化合物の前臨床GLP試験を完了し、先行化合物より優れた場合は、優先して臨床試験に進めることを目的としていました。

 

2. プロジェクト・デザイン

本プロジェクトでは、(1)候補化合物の物性検討および適切な塩型の選択、代謝物・不純物の同定、(2)前臨床試験の実施に向けてのGLPに準拠した化合物の合成、(3)投与剤型の予備検討、(4)IND申請に用いる非臨床毒性試験の実施の4点を主要な目標といたしました。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

本プロジェクトの目標は、以前のGHIT助成プロジェクト(G2016-219)で見出された化合物について、前臨床開発およびIND申請に向けたGLP試験を完了することでした。本プロジェクトで対象とする化合物は、すでに前臨床開発を開始していた先行化合物のバックアップ化合物と位置付けられ、今後の開発にあたっては先行化合物を凌駕するin vivo薬効および安全性を示すことを判断基準の一つとしていました。しかしながら今回、プロジェクトチームでは候補となる化合物群の開発を中止することを決定しました。その主たる理由は、ヒト化マウスモデルにおける薬効および予想される安全性マージンにおいて先行化合物に対する優位性が認められなかったことによります。さらに、最近になって標的タンパク質PheRSと阻害剤の複合結晶構造を解明したことにより、より優れた阻害剤のデザインが可能になったことも、現在の化合物の開発を中止する判断の一因となりました。我々は今後、標的タンパク質との強固な親和性によって活性と選択性の向上した次世代の阻害剤を創出し、より効果的で安全な治療オプションを提供したいと考えています。これにより、先行化合物に対して優れた治療効果はもちろん、生産コストにおいても同等またはより低いコストで化合物が創出できると期待しています。