Investment

プロジェクト

皮膚リーシュマニア症を対象としたCpG-D35併用療法の臨床開発

イントロダクション/背景

イントロダクション

皮膚リーシュマニア症 (CL) は深刻な顧みられない熱帯病です。87ヵ国で蔓延し、主に途上国の貧困層に感染が見られ、毎年60万から120万人の新規患者が世界保健機関 (WHO) により推計されています。命に関わる疾患ではありませんが、醜い瘢痕により、社会的な偏見や経済不利益を招きます。

現在のところ、CLのいずれの病型においても、満足のいく治療法はありません。推奨される治療の有効性は最適でなく、長年、時代遅れの薬に頼っています。

CpG-D35はCLの併用療法として開発されています。形質細胞様樹状細胞で発現されるToll様受容体9を刺激し、自然免疫系および獲得免疫系を活性化します。前臨床試験で実証されたように、これまでに取得したデータでは、単剤、もしくは化学療法との併用により、CpG-D35が感染を抑え、病変の治癒を早めることが示されており、CL患者のケア改善につながることが期待されています。

 

プロジェクトの目的

本プロジェクトはGHIT Fundの投資による継続案件であり、以下を目的としています。

  1. 健常被験者におけるCpG-D35皮下単回投与のプラセボ群との比較 (単回投与漸増試験)、およびL. major感染被験者におけるCpG-D35反復投与のプラセボ群との比較 (反復投与漸増試験) による、安全性、忍容性、薬物動態 (PK) および薬力 (PD) の検証
  2. CpG-D35原薬の効力および品質向上のための医薬品原体 (API) 製造工程の改良
  3. 後期臨床試験用の、高容量、低コストで使い勝手の良い皮下投与製剤の開発
  4. CpG-D35の品質コントロール、および安定性試験で使用するCAL-1力価アッセイの更なる最適化

 

プロジェクト・デザイン

単回投与漸増試験は英国の単一施設で実施され、無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験により、健常被験者へのCpG-D35皮下単回投与後の安全性と忍容性を検証します。またPK/PD、およびPDマーカーとしての血漿中のサイトカインレベルの変化などを調べます。

安全性の懸念がなければ第I相bの反復投与漸増試験に進みます。トルコの単一施設で実施される無作為化二重盲検プラセボ対照比較・用量漸増反復投与試験により、L. major感染で病変を有する患者でのCpG-D35の安全性、忍容性、および免疫原性を検証します。また1) PK/PDの検証 2) 患者の免疫応答の分析 3) PDマーカーとしてCXCL10の使用 4) 反復投与後の病変治癒までの時間の検証を行います。

API製造工程の改良のため、カップリング・洗浄過程の最適化、他の硫化試薬への変更検討、実証用バッチの準備を行います。より高濃度での液剤製造の実現を目指し、より少量で凍結乾燥を行っても容易に現行の臨床用液剤を再現できるよう検討するとともに、等張性確保のため、異なる添加剤を用いたスクリーニングを同時に行います。またCAL-1力価アッセイを改良します。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

CLはWHOの指定する20の顧みれない熱帯病 (NTDs) のひとつです。国連の持続可能な開発目標 (SDGs) 達成に向けたNTDsへの注力とステークホルダーの連携を目指す「WHO NTDsロードマップ2021-2030」でも述べられています。

CL治療で利用できる薬は限られており、いずれも深刻な副作用が指摘されています。五価アンチモン (スチボグルコン酸ナトリウム、アンチモン酸メグルミン) は1940年代から使用されており、毒性や投与の難しさ、多くの蔓延地域で有効性に対する懸念があるにも関わらず、依然、すべての病型の治療で推奨されています。

前臨床試験データより、CpG-D35と化学療法の併用は、CL患者の病変部の再上皮化を早め、瘢痕化を最小限にし、再発率を減らし、薬剤耐性リスクを減らすことも期待されています1,2,3。更にCpG-D35と抗寄生虫薬の併用療法は、難治性CL患者 (広範または複数の病変、標準治療への抵抗性、再発例、またはL. braziliensisL. tropica感染により、標準治療の有効性が期待出来ない (治癒率が<60%)、または複数回の治療が必要など) に役立つことが期待されています。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本プロジェクトで提案するアプローチは、現在、推奨されているCL治療法とは明らかに異なります。リーシュマニア原虫の感染制御に必要な免疫応答促進のため、新たに開発されたD型CpGと、化学療法の併用により、寄生虫のみに焦点を当てた既存の単剤治療や併用療法を超えた大きな前進が期待できます。

これまでの化学療法によりリーシュマニア原虫の大半を殺すことで感染を軽減し、宿主の免疫応答を促進することで、残りの原虫を除去します。宿主による免疫応答作用を促進し、寄生虫の制御と感染者の臨床転帰を改善します。

非常に限定的な免疫刺激は、寄生虫の除去に必須のTh1型応答につながる自然免疫活性を促進し、病変の修復を早める可能性があります。前臨床試験で示されたように、ヒトにおいても併用療法により、病変部の再上皮化を早め、瘢痕化を最小限にし、再発率・再感染率を減らし、また薬剤への耐性化を軽減することが期待されています1,2,3

更にCpG-D35を治療法に加えることで、最適な治療選択肢を提供し、患者の利益と最終的には疾患制御に貢献していきます。

各パートナーの役割と責任

DNDiは全体責任者としてプロジェクトを管理し、最適な受託機関 (CRO) の選定と調整を担います。

単回投与漸増試験は専門家の助言のもと、CROによって実施されます。反復投与漸増試験は、DNDi、東京大学、その他の専門家の助言のもと、精通したCROにより管理・監督された病院の試験サイトにて実施されます。東京大学は試験サイトの選定に関する技術的・専門的な支援と、被検者の免疫マーカーの解析・解釈を担当します。

Ajinomoto Bio-Pharma Services, GeneDesign (GeneDesign)はオリゴヌクレオチドに関する専門性を活かし、継続してCpG-D35製造工程の改良を行います。第I & II相試験に適した製剤開発、治験薬供給は、非経口製剤を専門に扱う医薬品受託製造開発機関 (CDMO) に委託します。

CAL-1力価アッセイの改良は、専門家の助言のもと、Intertek社で実施されます。

DNDi、東京大学、ジーンデザインの代表責任者、および専門家で構成される委員会を設置し、定期的な会議等を通じて、プロジェクトへの助言や進捗管理、必要なリソース確保を実現します。

他(参考文献、引用文献など)

1. Flynn B, Wang V, Sacks DL, Seder RA, Verthelyi D. 2005. Prevention and treatment of cutaneous leishmaniasis in primates by using synthetic type D/A oligodeoxynucleotides expressing CpG motifs. Infect Immun;73(8):4948-54.

2. Verthelyi D, Gursel M, Kenney RT, Lifson JD, Liu S, Mican J, Klinman DM. 2003. CpG oligodeoxynucleotides protect normal and SIV-infected macaques from Leishmania infection. J Immunol; 170(9):4717-23.

3. Miranda-Verastegui C, Tulliano G, Gyorkos TW, Calderon W, Rahme E, Ward B, Cruz M, Llanos-Cuentas A, Matlashewski G. 2009. First-line therapy for human cutaneous leishmaniasis in Peru using the TLR7 agonist imiquimod in combination with pentavalent antimony. PLoS Negl Trop Dis; 3(7):e491. doi: 10.1371/journal.pntd.0000491