Investment

プロジェクト

マラリアワクチン候補NPC-SE36 / CpGのフェーズII臨床試験の準備

イントロダクション/背景

イントロダクション

SE36は、主に流行地域の幼い子供を対象に原虫血症/臨床症状を軽減させる赤血球期マラリアワクチンの候補であり、マラリアによる罹患率と死亡率を減らす効果が期待される。マラリア原虫生活史の各段階はいづれもワクチンの標的となり得るが、赤血球期は病気を発症し、重症化を引き起こすものであるため、公衆衛生的な重要性がある。発症予防またマラリア流行を低減するためには、赤血球期ワクチンが単独またはマルチコンポーネントワクチンの成分として必要である。

 SE36組換えタンパク質と水酸化アルミニウムゲルを混合したBK-SE36ワクチンの開発初期段階の臨床試験において、副反応は許容される程度であり、予期しない安全性上の問題は認められず、免疫原性が認められた。また、ワクチン群ではマラリア感染によるマラリア発症のリスクが低く、ワクチンレスポンダーではマラリア感染回数が減少していること、マラリア発症のリスク低減が実証された。 さらに、CpG-ODN(K3)アジュバントを製剤に追加することにより、日本人の成人でより強力な免疫応答を示した。流行地域におけるこの製剤型の安全性と免疫原性を確認する第Ib相試験は、現在、ブルキナファソにおいて成人から1歳の子供を対象に進行中である。現時点では予期せぬ安全性上の懸念を示すものはない。本プロジェクトはこれら先行する臨床試験に基づいて、概念実証のための第IIb相臨床試験の開始前に必要な準備を進めるものである。

 

プロジェクトの目的

新しく生産する大規模バッチのSE36タンパク質を水酸化アルミニウムワクチンに吸着させたNPC-SE36ワクチンの品質テスト、新しいCpG-ODN(K3)アジュバントGMPロットを製造、さらに、第IIb相臨床試験の実施サイトを選択しプロトコルを準備する。 新たな製剤の開発がうまくゆけば、GMPで生産されたワクチンの完全な評価が可能になり、複数地域における概念実証試験に使用することができる。 さらに、第IIb相臨床試験を実施するための実施場所を選択し、第IIb相プロトコルを適切に設計することによっては、マラリア流行地域におけるNPC-SE36の安全性と有効性試験する。

 

プロジェクトデザイン

このプロジェクトの目的は次のとおりである。1)NPC-SE36の新しいGMPロットの非臨床試験を実施して、適格性と従来品との同等性を示し臨床試験と対象国での輸入に適することを示す。 2)臨床試験のアジュバントとして、CpG-ODN(K3)の新しいGMPロットを供給する。 3)第IIb相臨床試験サイトを選択し、臨床試験書類を作成する。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

過去20年ほどでマラリア対策が大幅に改善されたにもかかわらず、マラリアは致命的な病気のままであり、世界保健機関(WHO)によると、2018年には推定2億2,800万件、40万5千人が死亡している。

 

予防手段としてのマラリアワクチンは、マラリア対策の主要な課題である殺虫剤と薬物治療の両方に対する耐性原虫の増加に対処するのに理想的である。したがって、有望なワクチン候補のさらなる臨床開発へのサポートをはじめとして、効果的なマラリアワクチンの開発研究への長期的なサポートは極めて重要であり、世界的な疾患対策の最優先事項である。このように、マラリアワクチンの開発は、WHOおよびマラリアワクチン基金グループよって明示された優先研究ニーズの1つであり、マラリア発症に対して少なくとも75%の保護効果を持つ第2世代ワクチンの開発を進め、2030年までに認可されることを求めている。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

これまでのところ、マラリアに対して認可されたワクチンはない。現在最も開発が進んでいるマラリアワクチンはRTS,Sである。中程度の防御効果ではあるがRTS,Sの開発によってマラリアワクチンが可能であるという重要な概念を実証した。世界の保健にはマラリア発症軽減するワクチンが重要である。世界の健康コミュニティは、より効果的な第2世代のワクチンが緊急に必要であり、できれば全体的な有効性が高く、実施のためのワクチン接種の回数が少ないものを求めている。

 

将来的には、非常に効果的なマラリアワクチンは、マラリア原虫のライフサイクルのさまざまなステージからの抗原を組み合わせる必要があると予想されている。 SE36などの赤血球期抗原は、マラリア原虫が人間の血液中に存在し、重篤な症状や死に至る臨床徴候を引き起こすステージをターゲットとしている。 SE36は許容可能な安全性プロファイルを持ち、免疫原性があり、赤血球期マラリアワクチン候補抗原が持つほとんどの課題を克服し、ウガンダでの追跡調査で許容される結果を示した。本プロジェクトは、SE36の使用に適した大量の治験薬を提供し、臨床試験プロトコルを開発し、第IIb相の概念実証試験を開始する前に試験場所を特定するという、臨床開発全体にとって不可欠である。

各パートナーの役割と責任

このパートナーシップは、マラリアワクチン開発に長年の経験と関心を寄せているドイツ、日本、ブルキナファソの主要機関を結集したものである。ドイツの欧州ワクチンイニシアティブ(EVI)がプログラム活動の全体的な調整と管理を担当し、また、プロトコルの開発と関係書類の準備を担当し、パートナーシップを主導する。ワクチンの科学的開発者である大阪大学微生物病研究所(RIMD)は、新しいワクチンロットの品質管理試験を主導し、毒物学的安全性試験、及び、新しいCpG- ODN(K3)のGMPロット製造をコーディネートする。開発パートナーおよび臨床スポンサーとしてノーベルファーマ(NPC、日本)は非臨床試験のために、新しい製造業者からの新しいGMPグレードのNPC-SE36バッチを供給する。また、RIMDと共に、新しいCpG-ODN(K3)ロットのGMP製造を行う。 NPCは、規制当局に関する協議やサイト訪問によってその評価を主導する。ブルキナファソのパートナーとして、Groupe de Recherche Action en Santé(GRAS)は、第IIb相臨床試験のプロトコルと研究書類の準備に参画する。 GRASは、臨床試験で10年以上の実績があり、また、アフリカのさまざまな医療研究センター/組織とのネットワーキングに携わっており、アフリカでの試験場所の選択と評価プロセスを支援する。

他(参考文献、引用文献など)

Horii T, et al. Evidences of protection against blood-stage infection of Plasmodium falciparum by the novel protein vaccine SE36. Parasitol Int. 2010: 59(3):380-386. doi: 10.1016/j.parint.2010.05.002.

Palacpac NM, et al. Phase 1b randomized trial and follow-up study in Uganda of the blood-stage malaria vaccine candidate BK-SE36. PLoS One. 2013:8(5):e64073. doi: 10.1371/journal.pone.0064073

Tougan T, et al. TLR9 adjuvants enhance immunogenicity and protective efficacy of the SE36/AHG malaria vaccine in nonhuman primate models. Hum Vaccin Immunother. 2013:9: 283-90. doi:  10.4161/hv.22950

Yagi M, et al. Antibody titres and boosting after natural malaria infection in BK-SE36 vaccine responders during a follow-up study in Uganda. Sci Rep. 2016: 6:34363. doi: 10.1038/srep34363.

Tougan T, et al. Molecular camouflage of Plasmodium falciparum merozoites by binding of host vitronectin to P47 fragment of SERA5.Sci Rep.2018:8:5052. doi:10.1038/s41598-018-23194-9.

最終報告書

1. プロジェクトの目的

赤血球ステージマラリアワクチン抗原としての有望性が示されているSE36タンパク質は、さらなる臨床開発のため、SE36 の精製プロセスを効率化する研究が進行中である。 また、免疫寛容を克服し抗体応答を高めるため、cVLP技術を探索する。さらにBK-SE36/CpG 接種者の抗体応答の持続性を評価する。

 

2. プロジェクト・デザイン

(1) SE36 の新しい製剤の調製、(2) CpGのGMP製造、および (3) 大規模製造の探索、(4) SE36 -cVLP の開発、(5) 第 2 相臨床試験プロトコルの準備、(6) 臨床 CRO の選定、(7)SE36 / CpGを接種した5〜10歳の子供から32 か月後の血清を収集し、SE36 抗体持続を測定。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

新しい GMP CpG(K3) アジュバントバッチは、有効期間3年間であるが、安定性を最大5年間に延長するための安定性試験を実施中である。 新しい GMP (NPC-SE36)ワクチンバッチは、カナマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドと水酸化アルミニウムゲルの新しい製品を使用して製造された。小規模バッチ分析では、製品の物理化学的特性が従前のBK-SE36ワクチン製品の特性と同等であることが示され、免疫原性試験により、両ワクチンの効力の近似性が確認された。 3回のGMP生産(30L)が成功裏に完了し、製造の再現性が確認された。ただし、規制当局 (PMDA) の検査と出荷を目的とした臨床試験バッチのリリースは、COVID-19 のパンデミックとヨーロッパの地政学的状況の影響を受けるタイムラインと原材料、および機器の納入遅延の影響を受けている。

一方、培養条件の最適化と封入体からの精製工程により、SE36の高い収量と、高純度が得られた。さらに、SE36タンパク質にタグを付加した改変タンパク質を構築、精製の後コペンハーゲン大学と共同でcVLPと結合しマウスでの免疫原性試験を実施中である。

本コンソーシアム内での集中的な議論の後、第2相フィールド試験のデザイン、目的、およびサンプルサイズについて合意に達し、最終的なプロトコルの概要が作られた。 また、スポンサーは第2相臨床試験を実施するCROを選定した。

BK-SE36/CpG 第 Ib 相試験参加者の 5~10 歳の小児コホートの追跡調査では、免疫応答の長期持続性が評価された。 最終ブースター投与から32か月後、子供の83%が有意な抗SE36IgG抗体を持っていたのに対し、対照群では27%であった。ワクチン接種から長い時間が経過しても免疫応答のレベルが持続することは自然感染によるブースト効果によって説明できる。