Investment

プロジェクト

フェノタイプアッセイおよびメカニズムベースのヒット化合物からの結核に対するリード化合物創出プロジェクト

イントロダクション/背景

イントロダクション

結核の治療薬は40-50年ほど前に見つかったものが多く、その数も非常に限られている。既存薬の効果がある結核患者の場合においても、少なくとも6ヶ月間毎日服用する必要がある。薬剤耐性を持つ結核患者の場合は、さらに長期間服用が必要となる。そのため治療期間が短縮でき薬剤耐性の結核菌に対しても治療効果をもたらす、実効性のある新しい結核薬が緊急に必要とされている。そのような新規薬剤候補を見出すために、武田薬品工業株式会社(武田薬品)とTBアライアンスは共同でスクリーニングプログラムを実施した。その結果、二つのヒット化合物が同定された。一つは武田薬品の化合物ライブラリーを用いて、結核菌に対する殺菌作用を評価するフェノタイプスクリーニングから見いだされたヒット化合物です。もう一つは武田薬品の内部ポートフォリオから、結核菌のある特定の酵素を阻害するか検証するメカニズムベーススクリーニングから見いだされたヒット化合物です。本リード化合物創出プロジェクトでは、見いだされた二つのヒット化合物の抗結核活性とプロファイルを向上させて、治療薬候補を見出すことを試みます。

 

プロジェクトの目的

本プロジェクトの目的は結核菌に対しての活性を向上させつつ、ヒトに対しては安全なリード化合物を創出することです。いくつかのリード化合物については、経口薬かつ適切な用量で世界中の結核患者に対して有効であることを証明していく予定です。

 

プロジェクト・デザイン

以上の目的を達成するために、それぞれのヒット化合物に対して多くの類縁化合物が合成されて評価されます。いくつかの類縁化合物は結核の病態モデル動物で評価されます。化合物デザイン、合成、評価というプロセスを繰り返して、最終的なプロファイルを満たすリード化合物を創出する計画です。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

全世界で毎年150万人以上の方が結核により亡くなっています。結核患者数と結核による経済的損失を減らすために、効果が高く安全でかつ入手可能な価格の新規結核薬が必要です。さらに既存薬に対して剤耐を持つ結核菌を根絶するためには、これまでにない新しいメカニズムを持つ医薬品が必要です。我々が取り組む二つのヒット化合物は新しいメカニムズを備えていると考えられています。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

フェノタイプスクリーニングから見いだされたヒット化合物は、結核菌を殺すための新規メカニズムを備えていると考えられる新規化合物構造を持つものです。今後そのメカニズムを解明することで、さらに構造の異なる化合物を創出することが可能となるでしょう。メカニズムベーススクリーニングから見いだされたヒット化合物は、この酵素に対する初めてのアプローチとなります。この酵素は様々な細菌で構造情報が明らかになっているため、今回の結核菌におけるプロジェクトにおいてそれらを有効活用し計算化学の手法を用いて新規類縁化合物のデザインを行っていきます。

各パートナーの役割と責任

武田薬品の科学者は新規類縁化合物をデザインし、医薬品研究開発における専門性を発揮してステージが円滑に進むように導きます。TBアライアンスは類縁化合物の合成と評価のために、アカデミア研究者と委託研究組織のネットワークを活用します。デザインと評価については武田薬品とTBアライアンスが共同で進めていきます。

最終報告書

1. プロジェクトの目的

本プロジェクトの目的は、H2015-201で見いだされた2つのヒット化合物シリーズ、 A)表現型スクリーニングからのヒットシリーズとB)結核菌の蛋白質生合成に関与する既知酵素の阻害剤スクリーニングからのヒットシリーズから見いだされた化合物群について、マウスでの有効性を証明することにより開発可能なリード化合物を見出すことです。

 

2. プロジェクト・デザイン

シリーズAについてはマウス結核感染モデルで投与可能な安定性を有する誘導体を合成し、作用機序解明のための評価を行いました。シリーズBについては、主に標的酵素の構造情報に基づいてデザインした化合物を合成し、標的酵素に対する阻害活性及び細胞系における抗結核菌作用を確認しました。選ばれたいくつかの有望な化合物は、マウス結核感染モデルを用いた薬効試験にて、その有効性を確認する予定でした。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

シリーズA誘導体は細胞アッセイでは強力な活性を示しましたが、代謝的に不安定な性質を持つことが分かりました。より安定な誘導体を見出すために数々の誘導体を合成しましたが、生物活性および安定性を両立した化合物を見出すことはできませんでした。このため、既知の結核菌酵素を標的とするシリーズBの誘導体合成に注力しました。標的酵素の既知構造に基づいて誘導体をデザインすることによって、酵素アッセイで強力な活性を示す一連の誘導体を見出しました。さらに長い検討の結果、全細胞アッセイで活性を示す誘導体を見出すことができました。著者らの知る限り、これらの誘導体はこの標的結核菌酵素に対して阻害活性を示す最初の化合物シリーズです。今後、本プロジェクトで見いだされた誘導体から更なる誘導体を合成し、結核の病態モデル動物で活性を示すリード化合物が見出されることが期待されます。結核菌における菌への浸透および菌内での保持を計ることができればより有効的にプロジェクトが進展すると思われます。