Investment

プロジェクト

抗結核活性を有する新規天然化合物のヒット・トゥ・リード研究
  • 受領年
    2018
  • 投資金額
    ¥119,244,000
  • 病気
    Tuberculosis
  • 対象
    Drug
  • 開発段階
    Lead Identification
  • パートナー
    第一三共RDノバーレ株式会社 ,  The Global Alliance for TB Drug Development
  • 過去の案件

イントロダクション/背景

イントロダクション

現在結核治療に用いられている薬剤は40-50年ほど前に見つかったものが多く、現在に至るまで治療法はほとんど変化していない。既存薬剤の効果がある結核患者の場合においても、平均して6ヶ月間複数の薬剤を毎日服用する必要がある。一方、薬剤耐性を持つ結核患者の場合の状況は一層悪く、治療は少なくとも18ヶ月続ける必要があり、その期間中は薬効が弱く毒性を持つ既存薬剤を用いる必要がある。薬剤耐性を持つ患者の治癒率は現在わずか54%と推定されている。そのため治療期間が短縮でき薬剤耐性のヒト型結核菌に対しても治療効果をもたらす、実効性のある新しい結核薬が緊急に必要とされている。

 

プロジェクトの目的

治療期間が短縮でき薬剤耐性のヒト型結核菌に対しても治療効果をもたらす、実効性のある新しい結核薬に繋がるリード化合物の創出

 

プロジェクト・デザイン

今回のプロジェクトは、第一三共RDノバーレ、TBアライアンス及び結核予防会結核研究所が協力し、GHIT Fundに支援され実施したスクリーニングプログラムに端を発している。第一三共RDノバーレが保有する放線菌や真菌などの微生物を用いた天然物ライブラリーとなる3万個の抽出サンプルと600個の単離された天然化合物を利用し、ヒト型結核菌に対する殺菌作用を評価するスクリーニングを結核予防会結核研究所で実施した。この3つの研究機関の緊密な協力により、ヒト型結核菌への作用を基に活性本体が単離・構造決定された。複数の天然化合物がヒット化合物として選抜され、さらなる薬理評価の結果、ヒット化合物から選択された2つの化合物シリーズについて、微生物の醗酵生産による誘導体出発物質の生産、誘導体出発物質からの誘導体展開、新規作用メカニズムの解明を含む研究計画が立案された。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

結核により毎年世界中で約160万人の人が命を落している。投与期間が短くかつ薬剤耐性結核菌に対しても効果を示す薬剤を開発することが、そのような高い死亡者数を低減させる一つの方法である。今回の第一三共RDノバーレとTB アライアンスとの共同研究はこの目的を達成できるかもしれないユニークな試みである。TB アライアンスは、

公衆衛生上のニーズはあるが十分な利益が得られないため民間部門が投資しにくい治療分野の研究開発活動を推進する製品開発パートナーシップ(PDP)という形態を取る組織である。この協業により、日本企業が持つ優れた天然物化学に関するノウハウが、世界中のアカデミア研究者と膨大なネットワークを築くTB アライアンスを介して活用されることになる。共同研究を通じ、薬効と安全性の観点から更なる最適化研究に進めることができるリード化合物候補を24ヵ月後に獲得することが期待される。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

結核菌に対するスクリーニングからオリジナルなヒット化合物を生み出すもとになった天然物ライブラリーは、生物多様性に富む日本各地から、30年以上の年月をかけて収集された6万株の微生物から選抜して構築されている。この天然物ライブラリーは第一三共RDノバーレのオリジナルなライブラリーであり、現在の形の天然物ライブラリーが構築されてから、ヒト型結核菌に対してスクリーニングされることはなかった。第一三共RDノバーレにおける長年の継続的な天然物化学への取組みの中で蓄積された専門知識は、世界の健康に貢献するために本プロジェクトでも活用され、リード化合物候補の獲得に寄与することが期待される。

各パートナーの役割と責任

この研究計画では、第一三共RDノバーレは誘導体展開に必要となる誘導体出発物質を微生物の醗酵生産と精製により合成し提供する。TBアライアンスと第一三共RDノバーレは誘導体合成の設計を担当し、医薬品開発受託機関(CRO)にて誘導体合成を行う。合成された化合物のヒト型結核菌に対する薬理活性はイリノイ大学で評価する。この共同研究に期待される結果は、微生物によって合成された誘導体出発物質からの誘導体展開より、更なる研究段階に進むことができるリード化合物を24ヶ月間の共同研究期間中に見つけ出すことである。

最終報告書

1.プロジェクトの目的

スクリーニングプロジェクト(S2014-232)で特定された2シリーズの化合物を対象としています。シリーズAは既知のシリーズを構造改変した化合物であり、シリーズBは新規化合物です。マウス感染モデルでのin vivo試験で活性を示すことにより、リード化合物を同定することを目的としています。

 

2.プロジェクト・デザイン

シリーズAでは、過去に報告のある化合物の欠点を克服できる新しい類縁体をデザインしました。シリーズBでは、化合物が新しい化学種であるため類縁体の構造活性相関を調べることを計画しました。また、新規類縁体の設計に役立つ作用機序の研究も計画しました。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

シリーズAについては、マウス急性感染モデルでのin vivo試験で有効性を証明することができました。プロジェクトの実施期間は終了しましたが、この化合物についてマウス慢性感染モデルでのin vivo試験をするために追加の化合物を準備中です。シリーズBについては、約80種類の新規類縁体をデザインし、その多くがin vitro試験で強力な活性を示しました。これらの化合物は、新規の作用機序で活性を示すことが判明し、その作用機序の研究を継続しています。活性の強い類縁体のいくつかは、in vivo試験へ向けて、その安全性とPK特性を調べました。その後、1つの類縁体について、マウス急性感染モデルでのin vivo試験を実施しましたが、有効性は観察できませんでした。今後は、少し条件を変えて再度in vivo試験を行う予定です。天然物は、その複雑な構造のために誘導体展開において困難を伴いますが、新規抗結核薬の開発に適した新しい化学種や予期せぬ標的を提供してくれることを学びました。