Investment

プロジェクト

MMVと武田薬品による新たな抗マラリア薬としてのリード化合物探索プログラム
Project Completed
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イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリアは毎年2億人以上が感染し、2016年には感染による死者は推定44万5千人に達している(1)。マラリアを撲滅させるには、耐性株対策、原虫感染時、そして形態変化時や肝臓休眠体に有効な新しい薬剤の創製が必要です(2)。プロジェクトチームは現在、マラリア原虫の生活環の中の赤血球期において効果を発揮する3つのヒット化合物シリーズの研究に取り組んでいます。最も注力しているシリーズは武田薬品の自社研究パイプラインから提供されたものです。その他の二つのシリーズは、GHIT Fundのスクリーニングプラットフォームにおいて赤血球期及び肝臓休眠期の抗マラリア原虫作用を有することが確認されたヒットシリーズです。このスクリーニングはMMVが提携するアメリカのカリフォルニア大学サイディエゴ校のElizabeth Winzeler教授とオーストラリアのグリフィス大学ドラッグディスカバリー研究所のVicky Avery教授らによって実施され、武田薬品が保有する2万個の化合物ライブラリーに対して赤血球期及び肝臓休眠期の抗マラリア原虫作用が調べられました(3)(4)(5)

 

プロジェクトの目的

このプロジェクトでは、3つのヒット化合物シリーズを基にリード化合物の探索を行います。20203月までにGHIT/MMVで設定されているリード化合物最適化段階に進む条件を満たし、in vivo病態モデルでの効果を示す化合物を少なくとも1つ創製することを目指します。

 

プロジェクト・デザイン

最初の段階では、リード化合物探索プロジェクトのために選択されたヒット化合物シリーズの中から有望な化合物に対して、マラリア原虫の形質変換(生活環)の各ステージに対する作用のプロファイリングを実施します。並行して、新規誘導体合成と構造活性相関研究を展開し、その抗マラリア活性と毒性の指標となる細胞障害性を評価します。また物理化学的性質、安定性そして薬物代謝指標も検討します。その後、有望な化合物についてげっ歯類における薬物動態試験を実施し、ヒトマラリアの評価モデルにおいて有効性を検証します。最適な化合物構造の探索研究を進め、GHIT Fundの次の研究ステージに進める際の基準となる医薬品候補のリード化合物を見出すことが目標です。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリア撲滅には有効な新薬が不可欠です。Artemisininを含む数種の薬剤の組み合わせが多くの国では現時点で標準治療法となっていますが、さらなる改善が可能です。例えば単回投与で有効な治療方法や、より安価で、より安全性が高く、より有効な治療方法、またマラリア蔓延国において薬物の安定性が高い薬剤の創製が期待されています。有効なワクチンがない現状においては、新薬の創出が患者数の拡大防止に必須です。さらに、ビル&メリンダ・ゲイツ財団と世界保健機関が支持するマラリア撲滅アジェンダにおいても、蚊から人への伝染を防ぐ薬剤や肝臓での休眠期マラリアに有効な薬の開発が要請されています。残念ながら現在開発中の薬剤は、上記の用件を満たしていないばかりでなく、増加しつつある既存薬へ耐性を示すマラリアに対して有効となる新規メカニズムを備える化合物が非常に少ないというのが現状です。MMVは広範なネットワークを駆使し、マラリアのコントロールにとどまらず根絶に繋がる次世代抗マラリア薬に必要な候補化合物プロファイルを設定しました(7)。武田薬品、MMVそしてGHIT Fundによる本共同研究プロジェクトでは下記の要件のうち少なくとも一つを満たす化合物を創出することに注力します。すなわちⅰ)症状を速やかに軽減するために迅速な抗マラリア原虫作用を有する、ⅱ)長期的に作用を発揮し、他剤併用時にマラリア原虫の完全駆除治療が可能で、再発防止効果がある、ⅲ)三日熱マラリア原虫と卵形マラリア原虫の休眠体からの再発を抑制する、ⅳ)感染者のマラリア原虫の生殖母体(gametocyte)をターゲットにした、あるいは、人から媒介する蚊への移行を阻止して感染拡大を予防する、ⅴ)感染地域における再感染を予防する効果を有する。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本プロジェクトで取り組む化合物シリーズは、化学構造(新規作用機序)もしくは薬剤標的分子の新規性、マラリア根絶に関係する原虫の形質変換のステージ(特に赤血球期と肝臓休眠期)に対する有効性プロファイル、そしてMMVの研究開発戦略の未充足部分にどの程度フィットするか、という点で革新性を考慮し選択されたヒット化合物シリーズです。今後検討される化合物の中でGHIT FundおよびMMVが設定した基準(8)を満たし、かつその時点でMMVが実施している他のプロジェクトと差別化された化合物、すなわち類似薬のない革新的なリード化合物のみが次のステージに移行します。

各パートナーの役割と責任

プロジェクトチームは武田薬品とMMVの合成化学者と生物学の専門家から構成され、武田薬品が本プロジェクトを主導します。武田薬品の役割はMMVの専門家と協力して、ヒット化合物シリーズのプロファイリング、医薬品合成化学の方針、および精査試験に進める化合物の選択に対して科学的なアドバイスを提供することです。また武田薬品は医薬品の研究開発に対するこれまでの知見を活かして、薬物動態、物理化学的プロファイルそして安全性薬理に対してもアドバイスを行います。MMVは本プロジェクトに対して戦略的なインプット、薬物探索およびマラリア研究の専門性を提供します。

他(参考文献、引用文献など)

(1)       World Health Organization (WHO). WORLD MALARIA REPORT 2017. (2017). DOI:ISBN: 978 92 4 156552 3

(2)       Wells, T. N. C., Huijsduijnen, R. H. Van, Voorhis, W. C. Van, van Huijsduijnen, R. H. & Van Voorhis, W. C. Malaria medicines : a glass half full ? Nat. Rev. Drug Discov. 14, 424–442 (2016).

(3)       Meister, S. et al. Imaging of Plasmodium liver stages to drive next-generation antimalarial drug discovery. Science 334, 1372–7 (2011).

(4)       Duffy, S. & Avery, V. M. Development and optimization of a novel 384-well anti-malarial imaging assay validated for high-throughput screening. Am. J. Trop. Med. Hyg. 86, 84–92 (2012).

(5)       Lucantoni, L. & Avery, V. Whole-cell in vitro screening for gametocytocidal compounds. Future Med. Chem. 4, 2337–2360 (2012).

(6)       Wassermann, A. M. et al. Dark chemical matter as a promising starting point for drug lead discovery. Nat. Chem. Biol. (2015). doi:10.1038/nchembio.1936

(7)       Burrows, J. N., Duparc, S., Gutteridge, W. E., van Huijsduijnen, R. H., Kaszubska, W., Macintyre, F., Mazzuri, S., Möhrle, J. J. & Wells, T. N. C. New developments in anti-malarial target candidate amd product profiles. Malar. J. 16:26 (2017). DOI: 10.1186/s12936-016-1675-x 

(8)         Katsuno, K. et al. Hit and lead criteria in drug discovery for infectious diseases of the developing world. Nat. Rev. Drug Discov. 14, 751–8 (2015).

最終報告書

1. プロジェクトの目的

このプロジェクトでは、3つのヒット化合物シリーズを基にリード化合物の探索を行い、2020年9月までにGHIT/MMVで設定されているリード化合物最適化段階に進む条件を満たし、in vivo病態モデルでの効果を示す化合物を少なくとも1つ創製することを目指します。

 

2. プロジェクト・デザイン

最初の段階では、リード化合物探索プロジェクトのために選択されたヒット化合物シリーズの中から有望な化合物に対して、マラリア原虫の形質変換(生活環)の各ステージに対する作用のプロファイリングを実施します。並行して、新規誘導体合成と構造活性相関研究を展開し、その抗マラリア活性と毒性の指標となる細胞障害性を評価します。また物理化学的性質、安定性そして薬物代謝指標も検討します。その後、有望な化合物についてげっ歯類における薬物動態試験を実施し、ヒトマラリアの評価モデルにおいて有効性を検証します。最適な化合物構造の探索研究を進め、GHIT Fundの次の研究ステージに進める際の基準となる医薬品候補のリード化合物を見出すことが目標です。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

プロジェクトチームは最も先行しているケミカルシリーズを優先して構造最適化研究に取り組みました。プロジェクトの初期段階では、代表化合物を用いてマラリア原虫の形質変換(生活環)の各ステージに対する作用のプロファイリングを実施し、構造最適化によって目指す化合物のプロファイル(Target Candidate Profile, TCP)を以下の2つに決定しました。1)血液ステージでのマラリア原虫増殖阻害作用(TCP1)。2) 肝臓ステージでの化学防御(TCP4)。

代表化合物は、良好な物理化学的特性、安定性、細胞障害性および体内動態特性を有したため、ヒトマラリア感染モデルマウスを使用し、4日間連続経口投与(50mg / kg, qd)の実験を行ったところ、対照群と比較して99.8%以上の抗マラリア活性を示しました。

プロジェクトの第2段階では、先行シリーズの安全性リスクの改善に注力しました。ヒトのオーソログに対して阻害活性を示さずマラリアのオーソログに対して阻害活性を示す化合物を指向し構造最適化を進めました。目的の化合物群を生成することができた後、代表化合物について、物理化学的特性、安定性、細胞障害性および体内薬物動態特性を評価しました。次いで取得した様々なプロファイリングデータを基に、現行のケミカルシリーズはターゲットとするプロファイルを肝臓ステージの化学防御(TCP4)にフォーカスすることを最終段階において決定しました。本プロジェクト(H2018-101)は2020年9月に完了しましたが、肝臓ステージにフォーカスした後継プロジェクト(H2020-101)が2020年10月に開始されました。次のプロジェクト(H2020-101)では、引き続きH2018-101で特定された先行ケミカルシリーズで、MMV / GHIT初期リード基準を満たす候補分子を創製してリード最適化段階に進みます。

このプロジェクトは、COVID-19パンデミックの影響を受けました。プロジェクトに携わるほぼ全ての研究施設は、各国の封鎖中に閉鎖する必要がありましたが、プロジェクトチームは可能な限り早く各自の作業を再開し遅延を最小限に抑えました。また、GHITの支援によって後継プロジェクト(H2020-101)へスムーズに移行することができました。