Investment

プロジェクト

結核とマラリアを中心とした感染症に対するPOCTの感度を改善するためのLFAプラットフォームの開発
  • 受領年
    2018
  • 投資金額
    ¥100,000,000
  • 病気
    Tuberculosis
  • 対象
    Diagnostic
  • 開発段階
    Concept Development
  • パートナー
    旭化成株式会社 ,  Biopromic AB

イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリア、結核および他の多くの感染症は、撲滅に向けた様々な活動、施策が実施されているにもかかわらず道半ばといった状況です。それら撲滅戦略において現在では、特に流行地域での早期発見を目標とした診断手法の拡大もしくは改良の必要性が増してきています。

ポイントオブケア検査(POCT)は、ベッドサイドで、あるいは患者自身によってさえも検査可能な、迅速、正確かつ簡便に診断することを可能にしましたが、POCTとして現在利用可

能な感染症はごくわずかであり、それらは撲滅を目指す感染症に対する実際の需要のほんの一部でしかありません(感染症診断薬に対するWHO TPPより)。

POCTにおける最大の課題は、試料中に対象とする抗原が非常に低濃度であっても、容易かつ正確に診断できることです。簡易診断法のひとつであるLateral Flow Assay (LFA)は、対象とする感染症にもよりますが、現在1~5ng/mlを超える分析感度を達成しています。一方で、結核およびマラリア患者の場合は、検体中の抗原濃度は通常100pg / ml以下であることを考慮すると、上記目標の為にはより高感度のLFAシステムを開発が必要なことは明らかです。

 

プロジェクトの目的

本プロジェクトの目的は、現在の業界標準から最大50倍の抗原検出感度の向上を目指した新しいLFAプラットフォームを開発することです。

 

プロジェクト・デザイン

LFAにおいてこのような高い分析感度を達成するためには、LFAシステムの複数の構成要素の大幅な改良および統合が必要です。この目標を達成するために、プロジェクトにおける以下の3段階で、両社によって開発された5つ以上の技術を組み合わせ、最適化します。

(1) まず、高感度プラットフォームのTPPの開発の為、両社の技術の評価とそれらを組み合わせる為の検討を行います。両社がもつ固有の技術の複数を組み合わせた製品とするために、個々の技術のバランスを考慮した最適化アプローチが必要になります。

(2) フェーズ1で得られるプラットフォームの構想をベースとして、実際にプロトタイプ作成を見据えた技術的実現可能性を検討します。

(3) この最終段階では、LFAプロトタイプ作製とその初期試験を実施します。具体的には、実地検査での使用を見据えた現実的なプロトタイプ・プラットフォームの構築を目指します。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

効果的なワクチンとは別に、グローバルヘルスの課題への解決策として、本プロジェクトでは結核とマラリアのための迅速で、安価でそして高感度な簡易診断手法の構築を考えています。高価な測定・診断機器を必要とせずに、場所を問わず結核やマラリアの検査を可能とすることは、感染症診断法の開発における究極の目標です。

特に、結核患者および無症候性マラリア患者の場合、活動性の症例を早期に発見することがそれらの撲滅への鍵となります。なぜなら、結核については、現状のPOCTで診断可能な抗原を持つ痰サンプルを採取できるようになるのに数ヶ月要します。その期間に結核が他者へと感染し拡大してしまうのです。したがって、高感度のPOCTは世界的に不可欠なものであると考えます。また、私たちの長期的な目標は、このプロジェクトのグローバルヘルスへのアプローチと同じ方法で、他の疾病を診断することを可能にするプラットフォームを確立することです。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

このプロジェクトでは、以下に記載するパートナーである両社がもつ新技術を組み合わせることにより、革新的なLFAプラットフォームの構築を達成できると考えます。

  • NanoActTM(着色セルロースナノ粒子): NanoActTMはLFA用標識粒子用の高着色セルロースナノビーズであり、金コロイドや着色ラテックスなどの既存の標識粒子よりも感度、安定性、再現性が向上しています。
  • 不織布パッド - 連続長繊維不織布で作られた新しいセルロース製orPET製の不織布パッドです。多くの短繊維材料と比較して糸くずが大幅に減少する、流量や吸液量が増加するなどLFA向けパッドとして様々なメリットを有します。
  • 粒子表面コーティング技術:独自技術によりコーティングされたナノ粒子にmAbを特異的に固定化することができる新しい抗体感作技術です。 得られたmAb−粒子コンジュゲートは安定でありそして抗原捕捉効率の点でも優れています。
  • シグナル強化 - ラテラルフローメンブレン上のシグナル粒子の視認感度を大幅に増加させるテクノロジーを使用します。

各パートナーの役割と責任

旭化成株式会社とBiopromicの両方がそれぞれのもつ技術を新規のLFAプラットフォームに取り入れて検出感度の向上を目指してプロジェクトを進めます。

旭化成は、着色セルロースナノ粒子NanoActTMだけでなく、各種パッド類の部材提供も主に担当し、Biopromicが抗体感作技術構築とシグナル増強を担当します。 さらに、旭化成はLFAのプラットフォームの構築と最適化を担当し、Biopromicは必要な抗体を開発し提供します。

最終報告書

1. プロジェクトの目的

現行の結核(TB)の診断のための検査手法は、時間とコストがかかり、かつ低感度により結核感染を正しく判定・対処できず、感染が広がります。マラリアも同様の状況と言えます。このような背景から、迅速で感度が高く正確で、かつ手頃な価格のラテラルフローアッセイキット(LFA)を開発することがプロジェクトの目的です。

 

2. プロジェクト・デザイン

【結核】我々は、検体処理方法、および高感度モノクローナル抗体に関するBiopromic独自の技術と、旭化成独自の標識粒子(NanoAct™)とを組み合わせて、結核用の超高感度LFAキットを開発しました。

【マラリア】スパイクされた尿検体と血液検体の両方でHRP2とLDHバイオマーカーを検出するために、新しい検体処理方法も開発しました。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

【結核】このプロジェクトでは、LAM分子内のさまざまなエピトープをカバーする、異なる特異性を持つ12以上の異なる抗体を使用して、TB-LAMテスト用に50以上の異なるLFAプロトタイプを開発しました。すべてのプロトタイプは、ネイティブのLAMをスパイクした尿を用いた試験で高感度を示しましたが、臨床サンプルでLAMを検出するプロトタイプはごくわずかという結果となりました。これは、LAMがフラグメントとして尿中に排泄されたことを明確に示しています。プロトタイプの1つ(感度50 pg / ml)は、HIV感染のない結核患者の臨床サンプルのテストに使用され、これにより72%の感度と92%の特異性が得られました。この研究では、Alere TBのDetermine(Abbott)をベンチマークとして使用し、その感度は2%、特異性は100%でした。

本結果より、TB + / HIV-サンプルを用いた評価におけるBiopromic-旭化成プロトタイプの感度は、Alere TBテストの結果よりも優れていると言えます。プロジェクトは尚進行中で、最新のプロトタイプは、以前のプロトタイプの5倍の感度(10 pg / ml)まで到達しています。

我々はこのプロジェクトから、RDTテストを生成するための最適な抗体の選択は、ネイティブのLAMスパイクサンプルではなく、臨床サンプルのテストに基づく必要があることを学びました。またLAM検出抗体自体の品質と性能は、LFAテストの感度の最大化に寄与しました。

【マラリア】81個中6個のHRP2ベースのプロトタイプと25個中5個のLDHベースのプロトタイプを初期評価し、結果各プロトタイプのうち2つは、陽性血液検体で有望な結果を示しました。(SD-Bioline (Abbott)をベンチマークとして採用)

またそのプロトタイプは、SD-Biolineの50 parasites / µlと比較して、20 parasites / µlを検出しました。さらに、独自のサンプル前処理技術を採用した結果、HRP2において2 parasites / µlを検出することができました。これは、SD-Biolineの25倍の感度を意味します。さらに、LDHを用いた評価では、100 parasites / µlを示しました。