Investment

プロジェクト

熱帯熱マラリア原虫と補体レギュレーターとの相互作用を阻止するワクチン標的の同定
  • 受領年
    2017
  • 投資金額
    ¥88,190,035
  • 病気
    Malaria
  • 対象
    Vaccine
  • 開発段階
    Antigen Identification
  • パートナー
    長崎大学熱帯医学研究所(熱研) ,  Antigen Discovery, Inc. ,  ペンシルベニア州立大学

イントロダクション/背景

イントロダクション

人の自然免疫応答の一部である補体系は、一連の酵素反応により病原体を攻撃します。補体系は単独でも作用しますが、病原体を攻撃する抗体の作用を増強する作用もあります。最近の研究成果から、悪性マラリアの病原体である熱帯熱マラリア原虫は、補体系を利用して赤血球に侵入するのみならず、補体調節分子を自らの周囲にまとうことで補体からの攻撃を逃れていることが示唆されています。我々は帆体系と相互作用するマラリア原虫タンパク質はワクチン開発の標的になるのではないかと仮定しました。

 

プロジェクトの目的

補体調節分子と相互作用する熱帯熱マラリア原虫タンパク質の同定とワクチン標的としての可能性の評価

 

プロジェクト・デザイン

補体調節分子と相互作用する熱帯熱マラリア原虫タンパク質は、プルダウンアッセイ、質量分析解析およびタンパク質マイクロアレイ解析により同定します。同定したタンパク質に対する組換えタンパク質を作製し、補体調節分子との相互作用を検証します。組換えタンパク質を用いて特異抗体を作製し、マラリア原虫の生存能力および赤血球への侵入能力に与える影響を評価します。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

世界では熱帯熱マラリアにより一年間で約40万人が死亡します。WHOが設定した死亡率を2020年までに40%、2030年までに90%減少させるという目標を達成するためには非常に効果的なマラリアワクチンがあれば重要なツールとなると考えられます。我々の研究は、補体に対するマラリア原虫の能力を考慮していなかった今までのワクチン戦略のギャップを埋めるもので、同定されるタンパク質は単独もしくは多価ワクチンの一部として非常に効果的なマラリアワクチンとなる可能性を持つと考えます。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

熱帯熱マラリア原虫の全タンパク質の約94%をカバーするタンパク質マイクロアレイを用いて原虫の接着分子を探索する点が本ワクチン開発に向けた本研究の新しく革新的な点です。

各パートナーの役割と責任

ホセ・A・スタウト医師(ペンシルベニア州立大学医学部)は代表者として事業全体の総括を行います。彼はプルダウンアッセイと質量分析解析によりマラリア原虫接着分子の同定を行います。また、彼の研究室は、作製した抗体がマラリア原虫の生存能力および赤血球への侵入能力に与える影響の評価も担当します。金子修医師・博士(長崎大学熱帯医学研究所)は組換えタンパク質のデザインから発現、および、それらを用いた結合アッセイを担当します。ジョセフ・カンポ博士はタンパク質マイクロアレイ解析を担当します。

最終報告書

1.プロジェクトの目的

ヒト補体制御因子Xと相互作用する熱帯熱マラリア原虫(Pf)タンパク質の同定とワクチン標的としての可能性の評価

 

2.プロジェクト・デザイン

補体調節分子と相互作用するPfタンパク質を、プルダウンアッセイ、質量分析およびタンパク質マイクロアレイにより同定する。同定したタンパク質に対する組換えタンパク質を作製し、補体調節分子との相互作用を検証する。組換えタンパク質を用いて特異抗体を作製し、マラリア原虫の増殖能力に与える影響を評価する。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

Pf部分プロテオームと完全プロテオーム(Pfカバー率約91%)の異なるバージョンのマイクロアレイを用いて、合計12回の実験を行った。組換えXは3つの業者から入手した。しかし、再現実験を通して結合に一貫性がないことが確認され、結合強度と安定性は、現在までのところ未知の実験要因に影響されていると結論づけ、このアプローチは断念した。次に、BS3リンカー付きまたは無しでビオチン化したXと生きたメロゾイトを混合しプルダウンする実験を複数回行った。4回の実験全てで、Pfギ酸亜硝酸塩トランスポーター(PfFNT)がXの存在下で同定された。PfFNTは、メロゾイト表面に存在する膜貫通タンパク質で、乳酸の膜透過を促進することが知られている。もう一つのタンパク質、Merozoite Surface Protein 9(PfMSP9)は、メロゾイト表面の多タンパク質複合体の一部であり、細胞侵入時に除かれるが、これはビオチン化Xの存在下で4回中3回の実験で見つかった。これら2分子に着目し、両者、あるいは、どちらか一方がXに結合するかどうか検討するために、mycタグを付与した分子を発現する3種の遺伝子組換えPfを作製した。1目つはPfcrtプロモーターの下でPfFNTを、もう1つはPfrhoph2プロモーターの下でPfMSP9を、そして、3つ目は陽性対照として使う予定で、H因子と相互作用することが知られているPfタンパク質Pf92(mycタグ付き)を発現する株である。共免疫沈降実験では、XがPfFNTやPfMSP9と相互作用しているかどうかについては結論が出なかった。その理由の一部は、適切な陰性対照の欠如と、Pf92と因子Hの相互作用が既報通りに再現できなかったことによる。PfFNTおよびPfMSP9の組換えタンパク質を用いて作製した抗体は、Xの関与は明らかではないものの、増殖阻害活性を示した。