Investment

プロジェクト

マイセトーマ治療のためのホスラブコナゾール臨床試験プロジェクト
  • 受領年
    2017
  • 投資金額
    ¥252,621,720
  • 病気
    NTD(Mycetoma)
  • 対象
    Drug
  • 開発段階
    Clinical Phase2
  • パートナー
    エーザイ株式会社 ,  Drugs for Neglected Diseases initiative

イントロダクション/背景

イントロダクション

マイセトーマ(菌腫)は、最貧地域の屋外労働者や牧夫など裸足で歩く人への感染リスクの高い、外見を損う慢性感染症です。マイセトーマベルトと呼ばれる熱帯・亜熱帯地域の主に農村部の若者が発症し、スーダンで最も流行しています。細菌性菌腫(actinomycetoma)には抗生物質が有効ですが、真菌性菌腫(eumycetoma)には十分な治療薬がありません。感染初期はほとんど症状がないため、治療が手遅れとなり、全身感染で死に至ることもあります。また、薬剤が高価なため、治療の中断により再発し、患部の切断が必要となることも多く、深刻な病状と偏見や差別を引き起こします。唯一の治療薬であるイトラコナゾールは、1日2回、最低12ヶ月にわたる投薬でも十分な治療効果は得られていません。

エーザイ株式会社(以下 エーザイ)が発見したアゾール系抗真菌薬ホスラブコナゾールは、マイセトーマ起炎菌に対する強力な抗真菌活性を示す有望な新薬です。

 

プロジェクトの目的

DNDiはホスラブコナゾールの活性体であるラブコナゾールのin vitro抗菌力試験を行い、真菌性菌腫の最も一般的な起炎菌であるMadurella mycetomatisに対し、ラブコナゾールが最も強力なin vitro活性を有することを示しました。加えて、この薬物は安全性プロファイルが良好で、毒性が低く、週1回のみの投与が可能です。DNDiの中期的な目標は、真菌性菌腫の患者の治療のために、ホスラブコナゾールを僻地での使用に適した安全で有効な抗真菌剤として開発し、届けることです。本プロジェクトの目的は、ホスラブコナゾールを評価する最初の第2相POC試験の完遂です。

 

プロジェクト・デザイン

DNDiは、スーダン・ハルツームにあるWHOマイセトーマ共同センターで、138人の成人患者を対象とする無作為化二重盲検比較試験を実施します。中等度の病変を有する患者の12ヶ月治療後のホスラブコナゾールの有効性を、標準治療薬であるイトラコナゾールと比較します。ホスラブコナゾールの用量(週200mgおよび300mg)については、各群28人の患者が3ヶ月の治療を受けた時点で中間解析を行い、有効性および安全性の観点からより優れた用量を選択します。すべての患者は6ヶ月時点で残存する病変の外科的処置を受け、治療をさらに6ヶ月間継続します。微生物学的診断はPCRによって行われます。病原体の培養を行い、治療前後の薬剤耐性について試験し、薬物濃度の測定も行います。DNDiでは、感染の早期発見と患者の試験への参加を促すため、診断法の開発やフィールドでの活動に関心のあるパートナーに対し、知見の提供やトレーニングを行います。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マイセトーマの症例報告は300年以上前に遡りますが、2016年5月にようやくWHOの顧みられない熱帯病(NTD)公式リストに追加されました。本プロジェクトではマイセトーマを対象に初めて無作為化臨床試験を実施し、長い治療期間(少なくとも1年)、不十分な治療効果、重篤な副作用、治療中断による疾患の再発とそれに伴う切断手術などの課題を解決する新しい標準療法の可能性を検討します。現在、利用できる薬剤の長期使用時の費用は手頃ではなく、保健当局と患者の両者にとって費用対効果は妥当とはいえません。従って、この試験の成果が、国および地域の疾患対策プログラムの重要な柱になることが期待されます。マイセトーマは、就労や通学を困難にし、貧困の悪循環を継続させます。マイセトーマは届出伝染病に指定されておらず、情報が不足しています。公衆衛生上の課題の大きさを評価するためには、より正確な調査と疾病データの集積が不可欠です。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本プロジェクトでは真菌性菌腫で初めて無作為化臨床試験を実施します。これまでは患者数が少なく、治療およびフォローアップ期間が様々であるなど、一定しない評価基準が用いられてきました。本試験における知見が今後の参考となることが期待されています。マイセトーマはグローバルヘルスの重要な課題です。WHOのNTD公式リストに追加されることで、疫学、感染のリスク因子、症例の早期かつ正確な特定、ならびに有効な対策プログラムを目指した新しい治療戦略を進めるための政治的な支援と認知度を得ることができました。2017年初めにWHOのNTD部門は疫学データの収集を開始し、疾病コントロールのためのロードマップが議論されています。研究ネットワークは拡大し、流行地域でもネットワークが確立されつつあります。パートナーであるハルツームのマイセトーマ研究センターはWHOの共同センターとして認知され、各種業務を提供しています。

各パートナーの役割と責任

ホスラブコナゾールはエーザイの自社開発品であり、同社が治験薬をDNDiに提供します。また、DNDiに対し安全性情報の収集と臨床薬理学における技術的なサポートを実施します。DNDiはプロジェクトの管理、臨床試験の実施、および臨床試験報告書を作成するためのデータの入力と解析を担当します。両者はデータをレビューし、協力して臨床試験報告書を作成します。意思決定に関しては、Joint Development Committee(JDC)があり、エーザイとDNDiから2人の常任代表者と追加メンバーが参加し、定期的に会議を開きます。JDCの目的は、臨床試験の進捗と結果を確認し、治験プロトコールを承認し、適切と思われる修正を提案することです。DNDiはJDCの座長を務め、会議を設営します。JDCは多数決により意思決定を行いますが、JDC内の意見が合わない場合は、DNDiとエーザイの上級役員による決定が行われます。

最終報告書

1.プロジェクトの目的

エーザイ株式会社(エーザイ)が創製し、その後爪白癬の治療薬として開発されたアゾール系経口抗真菌剤であるホスラブコナゾールは、真菌性マイセトーマの最も一般的な病原体であるMadurella mycetomatisに対する強力なin vitro活性を有します。DNDiはエーザイ、およびマイセトーマ・リサーチ・センター(MRC)と共同し、スーダンにて真菌性マイセトーマを対象とした世界初の二重盲検無作為化臨床試験を実施し、現在の治療選択肢であるイトラコナゾールに対するホスラブコナゾールの安全性および有効性を評価しました。

2.プロジェクト・デザイン

中等度の病変を有する患者の12ヶ月治療後のホスラブコナゾール(週200mgもしくは週300mg)の安全性および有効性をイトラコナゾールと比較しました。すべての患者は治療6ヶ月時点で残存する病変の外科的処置を受け、治療薬服用をさらに6ヶ月継続しました。微生物学的診断はPCRによって行われ、病原体を培養して治療前後の薬剤耐性について試験し、血漿中薬物濃度の測定も行いました。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

合計104人の患者(2017-2020年)が試験に参加したところでCovid-19の影響を受け、データ安全性モニタリング委員会(DSMB)の勧告およびDNDi科学諮問委員会(SAC)の助言に基づき、本試験を早期完了させました。

 

本試験の結果によると、両薬剤の有効率は同程度でした。プロトコルを遵守した集団でのホスラブコナゾールの有効率は300mg群で65.4%、200mg群で84.6%であるのに対し、イトラコナゾール400mg群の有効率は過去の症例報告から予想される有効性を上回る80%でした。両薬剤の有効率に統計学的な有意差は認められませんでしたが、ホスラブコナゾールはイトラコナゾールと比較して大きな利点を有しています。イトラコナゾールは1日4錠服用する必要があるのに対し、ホスラブコナゾールは週1回2錠の服用です。これにより、患者の服薬アドヒアランスと利便性が大幅に向上することが期待されます。また食事の影響を受けず、食前や食後など服用のタイミングを心配する必要もありません。他の薬剤との相互作用も限られています。HIVや結核などの併存疾患を抱え、複数の薬剤を併用している可能性のあるサハラ以南の人々にとって特に重要なことです。

 

またマイセトーマは再発する場合が多く、臨床試験に参加した患者の試験後の病変を追跡調査する観察研究も実施しました。スーダンの政情不安で予定していた75人すべての調査はできませんでしたが、51人のデータでは、再発率はホスラブコナゾール300mg、200mg、およびイトラコナゾール400mgで同程度に低い状況でした。重篤な有害事象の報告もありませんでした。