Investment

プロジェクト

顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases)創薬ブースター II
Project Completed
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イントロダクション/背景

本プロジェクトは、2014年に投資された'顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases)創薬ブースター'の継続案件になります。

 

 

イントロダクション

顧みられない熱帯病創薬ブースター(ブースター)は、二つの熱帯病に対する新たな治療薬を見出すため、創薬のスピードアップとコスト削減を目指した試みとして2015年に開始されました。一つは、98ヶ国の3億5,000万人に感染のリスクがあるリーシュマニア原虫が引き起こすものであり、もう一つは、主に南北アメリカ大陸の1億人に感染のリスクのあるクルーズトリパノソーマによるものです。DNDiが主導するブースターコンソーシアムにより、高品質なライブラリーの探索とヒット化合物の最適化を高速かつ効率的な方法で並行して行うことができます。ブースターコンソーシアムは、GHIT Fundの投資による日本の3社(エーザイ株式会社、塩野義製薬株式会社、武田薬品工業株式会社)とアストラゼネカ、およびセルジーンで構成されており、韓国パスツール研究所がすべての化合物のスクリーニングを行っています。

 

プロジェクトの目的

ブースターIIには、次の2つの目的があります。

目的1:リーシュマニア症およびシャーガス病に有効な新規化合物の発見:

リーシュマニア症およびシャーガス病を引き起こすドノバンリーシュマニアおよびクルーズトリパノソーマに対して、有望なヒット化合物(群)をそれぞれ少なくとも5つまで迅速に同定していく計画です。このプロセスでは、動物での薬効試験の計画に役に立てたり、創薬化学における最適化の観点から動物試験の計画に有益な方法を提供したりするために、十分解析された構造活性相関(SAR)情報を有する化合物群を提供します。

 

目的2:既存のブースター(ブースターI)で得られたリード化合物の評価完了:

従来のブースターIによって見いだされたヒット化合物群(4-5化合物群)のうち少なくとも1つの化合物群が、動物での薬効試験に進むための研究を完了し、リード化合物最適化プロセスに入る計画です。

 

プロジェクト・デザイン

今後1年間、ブースターIIは少なくとも10回の反復スクリーニングを実施します。反復スクリーニングの1サイクル目は、各製薬パートナーの「in silico」によるバーチャルスクリーニングと、それに続く標的原虫に対する実際の効力試験から成り立っています。反復スクリーニングを開始する際の化合物は以下の2種類の起源のものを用います。

l  ドノバンリーシュマニアまたはクルーズトリパノソーマに対する効力を持つ少なくとも5種の新しいシード化合物(それぞれ1〜2回の反復を伴う)。

l  ブースターIでの反復スクリーニング中に「改良ヒット」として同定された分子(1および2年目のブースター中に見出された化合物など)。

 

最終的には、それぞれの原虫に対し1ないし2種の十分なin vivo活性を持ったヒット化合物群を見出すことが期待されています(ブースターIにおいてリード化合物最適化にまで進んだこれまでのヒット化合物群を含む)。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

ブースターはリーシュマニア症またはシャーガス病の新たな治療薬を開発するために、より効果的な創薬アプローチを提供します。

内臓リーシュマニア症の既存の治療薬は有効性が一定でない上に深刻な毒性を有しています。経口投与の治療薬は一つのみで、残りは苦痛を伴う静脈内あるいは筋肉内注射が必要です。さらに各流行地域で薬物作用の有効性が異なります。理想的には、有効性の維持または改善、忍容性の改善、および耐性の出現の回避または遅延を可能にし、使用地域を選ばない現地に適した簡便な短期間の経口併用療法が必要です。

シャーガス病で唯一認知されている既存の単独療法は、長期間の治療を必要とする上に効果が一定でなく、深刻な副作用で20-30%が治療を中断します。そのため効果的で忍容性があり、経口投与で短期間の治療を可能にし、単独療法での耐性の発生リスクを減らすための併用療法の開発をも可能にする新しい薬剤クラスの治療薬が必要です。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

ブースターは各製薬パートナーが集積する数百万の高品質で薬物と類似した構造の低分子で構成される複数の化合物コレクションを同時に検索し、標準化されたin vitroアッセイでそれらを迅速に試験し、化合物群の強固な構造活性相関(SAR)を構築できます。各製薬パートナーによるin silicoスクリーニングの異なる科学的アプローチの組み合わせにより、伝統的なヒット・トゥ・リードで合成される場合と比較して潜在的な原虫活性を有する化合物を、より広範かつ多様にスクリーニングできます。ブースターコンソーシアムは最初の18ヶ月間で複数の製薬パートナーによるin silicoスクリーニングがもたらす明確な利点を示しました。1回目の反復スクリーニングを経て新しいケミカルスペース領域を特定し、2回目、3回目の反復を介してそのケミカルスペースを研究することで、標的とする両原虫に対する新しいヒット化合物群の同定に成功し、リード最適化に進むことを目指していきます。

各パートナーの役割と責任

武田薬品工業株式会社、塩野義製薬株式会社、およびエーザイ株式会社は、各シード化合物に対し、各社が保有する化合物ライブラリーをin silicoによりバーチャルスクリーニングします。その後、化合物プレートを準備・輸送し、DNDiのスクリーニングセンターで効力試験が行われます。また各製薬パートナーは、ヒット化合物群の候補となった自社起源の化合物に関する追加の内部情報を提供するだけでなく、反復スクリーニングから得られた結果を分析する際にも情報を提供します。

DNDiはプロジェクト全体の運営を管理するとともに、実績のあるスクリーニングセンターを介して化合物の試験を行い、スクリーニング結果に対して計算化学や創薬化学の観点から解析結果をまとめます。

他(参考文献、引用文献など)

ブースターコンソーシアムの結果は、EFMC ISMC会議(英国マンチェスター、2016年8月)にてポスター発表されました。

最終報告書

1.プロジェクトの目的

顧みられない熱帯病創薬ブースターは、リーシュマニア症およびシャーガス病の新たな治療薬を見出すため、創薬のスピードアップとコスト削減を目指して2015年に開始されました。ブースターIIでは各疾患に対しそれぞれ少なくとも5種の有望なヒット化合物を同定し、動物を用いたin vivoでのPOC試験や化合物最適化に資する広範かつ詳細な構造活性相関(SAR)を提供します。またブースターIで得られたリード化合物の評価を完了し、少なくとも1種の化合物群がリード最適化に進む計画です。

 

2.プロジェクト・デザイン

ブースターIIでは少なくとも10回の反復スクリーニングを実施します。標的原虫に対するある程度の効力を持つ少なくとも5個の新しいシード化合物(それぞれ1〜2回の反復を伴う)、またはブースターIで「改良ヒット」として同定された分子を出発点とし、製薬パートナーのin silicoによる仮想スクリーニングとそれに続く標的原虫に対する効力試験を反復します。ブースターI、IIを通し、各原虫に対し1~2種の優れたin vivo活性を持ったヒット化合物群を見出します。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

ブースターは2015年の開始以来、17個のシード化合物に対し計35回の反復スクリーニングを実施し、9個のシード化合物より11種の新たなヒット化合物群を見出しました(2個のシード化合物ではそれぞれ2種のヒット化合物群を同定)。そのうち、3種ではシャーガス病の原虫に対し、8種ではリーシュマニア症およびシャーガス病の両原虫に対し、効力が示されました。5種ではブースターのプロセスにより構造活性相関(SAR)が構築され、更なる研究が進められています。

また4種のヒット化合物群では動物を用いたin vivoでのPOC試験で使用する化合物(群)を特定しました。そのうち1種ではシャーガス病に、別の1種ではリーシュマニア症に対しin vivoでの有効性が示されましたが、いずれもリード最適化に進むための十分な有効性ではありませんでした。そのためブースターIIIでは、4種すべての化合物群に対し更なる最適化研究を進め、in vivoでの有効性を高める、または十分な有効性を示す化合物群を同定していく計画です。

 

ブースターIIではin vivoでのPOC試験への適格性を有する2種の化合物を直接特定することができましたが、通常のヒット・トゥ・リードと同様、POC試験での有効性を保証するには至りませんでした。POC試験への分子を特定する以前に、必要に応じて更なる構造活性相関(SAR)を構築する必要があり、この最適化のためにはブースターのプロセスから得られた情報が必須であることが示されました。

またブースターにより、開発難易度の高い化合物群の優先度を下げ、成功確率の高い化合物群を優先することが適宜可能になりました。このような判断は、ブースターのプロセスで得られた構造活性相関(SAR)とヒット確率を解析し、対象化合物(群)の構造改変や最適化の容易さを評価することで可能になりました。

ブースターは経験を積み重ね、有望なヒット化合物群を生み出すことができたばかりか、日本の製薬パートナーによる惜しみない化合物等の現物出資の協力により、同定したヒット化合物群の最適化も進めることができています。

更に、どのようなシード化合物の特性が出発点として相応しいかに対する知見も得られ、今後のブースターでのより適切なシード化合物の選定が可能になりました。