Investment

プロジェクト

MMVとエーザイによる新規抗マラリア剤新リード化合物の新創出活動
  • 受領年
    2016
  • 投資金額
    ¥75,000,000
  • 病気
    Malaria
  • 対象
    Drug
  • 開発段階
    Lead Identification
  • パートナー
    エーザイ株式会社 ,  Medicines for Malaria Venture (MMV)

イントロダクション/背景

本プロジェクトは、2015年に投資された'MMVとエーザイの協働による新規抗マラリア剤リード化合物の創出'の継続案件になります。

 

イントロダクション

マラリアは今でも生命を脅かし、2015年の死者は約43万人、その70%はアフリカの5歳以下の子供たちと推定されています (1)。アルテミシニン併用療法が広く使用されていますが、アルテミシニンが効かない耐性原虫が出現しています(2, 3)。十分な予防効果を示すワクチンはまだなく、薬がマラリアに対し、最も効果的な手段です。MMVは、目指すべきクスリ像TPPと化合物像TCPを定め、今後の抗マラリア薬の姿を提唱し、新規薬剤創出をリードしています(4)。一方、エーザイは、複数の抗マラリア薬プロジェクトを実施しています。本プロジェクトは、MMVとエーザイが実施した約2万化合物の抗マラリア活性スクリーニングから見出した二つの活性化合物群を新しい薬の種とし、エーザイの創薬科学とMMVのマラリア研究の専門性を融合し、動物モデルで効果を示す新規リード化合物の発見を目指します。

 

プロジェクトの目的

GHIT Screening Platformのにおいて、2万化合物のエーザイ化合物のスクリーニングでから見出した二つの活性化合物群をから、創薬の出発点としますて二つの活性化合物群を選びました。これのヒット化合物群に化学修飾を施し、新たな化合物を合成し、次の研究、究段階-リード化合物最適化研究-に入るリード化合物を見出すことが、本プロジェクトの目的です。その研究過程をhit-to-lead (HTL)研究と呼び、リード化合物は、動物モデルでマラリアを治す(in vivoコンセプト証明)能力を持つ化合物のことを言います。我々は、リード化合物を見出すために、1) 活性を上げるように、創薬化学を駆使し、高活性の新しい化合物をデザイン・合成し、2) 構造活性相関を理解し、化合物の抗マラリア活性を亢進させ、3) マラリア原虫の生活環への作用を追及し、4) 既存抗マラリア剤と交差耐性を示さず、良好な体内動態や物理化学的性質を示す化合物を見出し、5)狙うべきTCPに合致する化合物プロファイルを定め、7)リード化合物およびそのバックアップ化合物群を見出します。

 

プロジェクト・デザイン

HTL研究のゴール-リード化合物の創出-に到達するためには、抗マラリア活性に重要な化合物構造を把握する必要があります。ヒット化合物群の類縁体を合成し、抗マラリア活性を測定し、活性発現に重要な化学構造を把握します。次に、溶解性や代謝酵素に対する安定性を測定します。良好な溶解性と安定性を有する化合物は、動物を使ったin vivo活性試験、体内動態試験や初期安全性試験に進みます。以上の試験はエーザイにて実施します。この段階まで進んだ化合物は、MMVの協力研究機関にて化合物の特性を見極める高次の種々の試験(殺原虫活性、ヒト化SCIDマウスを用いた薬効試験、異なった生活環の原虫に対する活性、既存薬との交差耐性試験、MOA探索試験等)を実施します。化合物の合成と種々の評価を繰り返し、化合物に改良を加え、1.5年後に、設定クライテリアを満たし、感染動物モデルで効果を示すリード化合物創出を目指します。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリアは、いまだに多くの命を奪っている感染症です。20世紀には抗マラリア剤によりマラリア治療が劇的な進歩を示しましたが、既存抗マラリア剤に対する耐性の出現が、新たな人類への脅威となっています。我々のヒット化合物群は、新規の化学構造を有し、かつ新規作用機序を有するので、アルテミシニン既存抗マラリア剤と交差耐性を示すリスクは低いと考えられます。探索的な試験ですが、実際、既存の抗マラリア剤と交差耐性を示しませんでした。また、ヒット化合物群は、速い殺原虫作用を示します。新規作用機序を有し、複数の生活環のマラリア原虫に活性を示す可能性のある化合物を提供することにより、既存薬に耐性を示すマラリアを含め、その治療および予防に、新たな選択肢を提供できると考えています。我々のリード化合物が、多くの子供達の命を救う新しい抗マラリア剤の創出につながることを期待しています。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本プロジェクトから見出されるリード化合物は、新規作用機序を有し、複数の生活環のマラリア原虫に活性を示すと考えられます。スクリーニングより選んだ2つのヒット化合物群は、既存抗マラリア剤とは異なる新しい化学構造を持ち、新規の作用機序を有することが示唆されています。また、ヒット化合物群は、既知抗マラリア剤と交差耐性を示さず、加えて速い殺原虫作用を示します。さらに、複数の生活環のマラリア原虫に活性を示します。マラリアにおいては、薬剤耐性の問題に加えて、肝細胞で休眠する三日熱マラリアの再発の問題があります。再発阻止にはプリマキンしか利用できません。ヒット化合物群は肝臓存在型の原虫の生育を阻止するため、三日熱マラリア原虫の肝臓での再増殖を阻止する可能性があります。種々の検討を経なければなりませんが、マラリアの治療および予防に、新たな選択肢を提供できることを期待しています。

各パートナーの役割と責任

エーザイは、マラリア治療の新規候補化合物を提供するために、MMVと共同して本プロジェクトを推進していきます。エーザイは、その高い創薬技術基盤を活用し、新規抗マラリア剤化合物を合成するとともに、それら化合物の抗マラリア活性の初期評価、物理化学的評価、体内動態評価、初期安全性評価を行い、リード化合物の創出を図ります。MMVは、抗マラリア剤の創薬に関する専門知識や戦略的な助言を提供し、エーザイと共同して、本プロジェクトを進めます。さらにMMVは、その協力研究機関とプロジェクトチームを連携させ、プロジェクトで見出された候補化合物のより詳細な各種抗マラリア活性データを取り、プロジェクトの意思決定をサポートします。

他(参考文献、引用文献など)

1. WHO World Malaria Report 2016. http://www.who.int/malaria/publications/world-malaria-report-2016/report/en/

2. Yeung S, Socheat D, Moorthy VS et al. Artemisinin resistance on the Thai-Cambodian border. Lancet 2009; 374: 1418-9.

3. Hawkes M, Conroy AL, Kain KC. Spread of artemisinin resistance in malaria. The New England journal of medicine 2014; 371: 1944-5.

4. Burrows JN, Duparc S, Winston E. Gutteridge WE et al. New developments in anti‑malarial target candidate and product profiles. Malaria journal 2017; 16: 16.

最終報告書

1. プロジェクトの目的

マラリア治療に新薬を提供するため、Series-2及びSeries-3の二つのヒット化合物群のhit-to-lead (HTL)研究を行い、新リード化合物を見出し、リード最適化研究に導くことが目的です。二つのヒット化合物群は、エーザイ化合物ライブラリーの2万化合物のスクリーニングから見出されました。

 

2. プロジェクト・デザイン

ヒット化合物の構造活性相関を理解し、活性・溶解性・代謝安定性が向上するよう新化合物を合成しました。種々の生活環のマラリア原虫への効果を調べ、既存薬と交差耐性を示さず、各TCPに合致するリード化合物を見出しました。加えて、作用標的を特定するため、耐性変異株を取得し、変異部位の解析を行いました。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

GHIT Screening Platformのスクリーニングから見出した二つのヒット化合物群に対して、HTL研究を行いました。このHTL研究過程で、Series-3の活性に向上が見られなかったため、Series-2のHTL研究を優先しました。Series-2のHTL研究において、スクリーニングヒット(IC50, 600 nM)から最も高活性の化合物(IC50, 0.4 nM)まで約1,000倍抗マラリア活性を向上させ、赤内期及び肝臓期の熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、ネズミマラリア原虫に強力なin vitro活性を示し、既存抗マラリア剤と交差耐性を示さず、熱帯熱マラリア原虫SCIDモデルにおいて

Series-2からリード化合物を見出し、プロジェクト目標を達成し、成功裏に本HTLプロジェクトを完了しました。今後リード最適化研究開始の可能性を探っていきます。

さらに、Series-2の標的分子を特定するために、リード化合物に対する耐性変異株を取得し、その耐性変異を解析しました。変異解析から、二つの酵素が、Series-2の標的分子候補として示唆されており、今後も研究を続け標的分子を特定していきます。