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受領年2016
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投資金額¥20,499,000病気Tuberculosis対象Drug開発段階Target Validationパートナー理化学研究所 , International Centre for Genetic Engineering and Biotechnology
イントロダクション/背景
イントロダクション
結核は結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる疾患であり、全世界人口の3分の1が(潜伏感染を含め)結核菌に感染している。毎年、全世界で960万人が結核を発症し、150万人がこの病気で死亡する。残念なことに現状のBCGワクチンの効果は限定的であり、また、ほんのわずかな新規抗生物質しか開発パイプラインに乗っていない。より深刻なことは、現在使用されている抗結核薬に対する耐性菌の出現率が警戒レベルにまで増加していることである。結核菌はいくつかの宿主細胞因子を搾取し利用することにより、宿主のマクロファージ細胞内で生き延びている。しかしながら、結核菌が持続感染するためにどのようにマクロファージ細胞の遺伝子発現を操っているのかは、まだよくわかっていない。
プロジェクトの目的
本プロジェクトの目的は、結核菌がマクロファージ細胞に侵入し、生存、増殖するために重要な役割を果たす宿主の遺伝子、情報伝達経路やメカニズムを解析し、結核治療のための宿主側の創薬ターゲットとして同定することにある。
プロジェクト・デザイン
我々はすでに、結核菌感染による宿主遺伝子発現の変化を、マウス骨髄細胞から分化させたマクロファージ細胞(BMDM)を用いて大規模に測定したデータを取得している。このデータを詳細解析することにより、結核菌の侵入、生存、増殖に関わりがあると考えられる宿主遺伝子を抽出する。選択した遺伝子は文献検索によってその機能を調べるとともに、結核菌をヒト単球細胞から分化させたマクロファージ細胞(MDM)に感染させて、ヒトマクロファージ細胞でも同様の発現変化が起こることを確認する。有望な遺伝子については、結核菌感染時における遺伝子の宿主障害作用、宿主保護作用を調べる。自作するレンチウィルスを用いたshRNAによる遺伝子ノックダウン法を用いて、結核菌に感染させたBMDM/MDMにおけるノックダウン遺伝子の結核菌増殖や宿主保護的免疫作用などの生物学的意義を調べる。
本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?
我々の戦略では、(宿主遺伝子に対する創薬ターゲットを用いるため、通常の抗結核薬において)結核菌の適応によって生じる耐性菌の出現は、ほぼ起こらないと考えられる。また、通常の抗生物質による治療とともに併用が可能である。これによって、既存の抗生物質に対する耐性菌の出現を遅らせることが可能であり、治療が失敗に終わる頻度を下げることが可能であると考えられる。
本プロジェクトが革新的である点は何ですか?
本プロジェクトの革新性は、我々が持つ独創的な遺伝子発現測定技術deepCAGE法に拠る(1, 2)。この技術を用いて、結核感染での宿主マクロファージの遺伝子発現を詳細解析する。我々は、マクロファージの古典的及び別経路活性化での遺伝子発現ダイナミクス解析 (3)、転写因子Batf2がIrf1とともに、古典的活性化、LPS刺激、結核感染で起こるマクロファージ炎症反応を制御すること (4)、結核はマクロファージを別経路活性化して免疫から逃れていること (5)、を報告している。これら業績から、我々は宿主遺伝子を標的として結核菌の免疫反応回避を打ち消すことに思い至った(6)。現に、結核菌が宿主コレステロール合成経路を利用しており、スタチンを用いて同合成経路を阻害すると結核感染から保護できることを示した。これは、結核菌を死滅させるための食胞の成熟とオートファジーの亢進が起こるからである(7)。これらの結果は宿主を対象とする創薬標的の原理の正しさを示している (8) 。
各パートナーの役割と責任
1. 日本側研究者: 理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター
・結核菌感染BMDMを用いた大規模な宿主遺伝子発現データの解析
・結核菌感染ヒトMDMを用いた大規模な宿主遺伝子発現データの作成
・結核菌感染ヒトMDMを用いた大規模な宿主遺伝子発現データの解析
・遺伝子ノックダウン実験のためのレンチウィルスコンストラクトの作成
2. 南アフリカ側共同研究者: International Centre for Genetic Engineering and Biotechnology (ICGEB)
・結核菌感染BMDMを用いた大規模な宿主遺伝子発現データの解析
・結核菌感染ヒトMDMを用いた大規模な宿主遺伝子発現データの解析
・レンチウィルスによる遺伝子ノックダウンを用いた、結核菌の感染や増殖に影響を与える宿主遺伝子のin vitroでの評価
他(参考文献、引用文献など)
1. Arner, E., Daub, C.O., Vitting-Seerup, K., Andersson, R., Lilje, B., Drablos, F., Lennartsson, A., Ronnerblad, M., Hrydziuszko, O., Vitezic, M., et al. 2015. Transcribed enhancers lead waves of coordinated transcription in transitioning mammalian cells. Science 347:1010-1014.
2. Forrest, A.R., Kawaji, H., Rehli, M., Baillie, J.K., de Hoon, M.J., Haberle, V., Lassman, T., Kulakovskiy, I.V., Lizio, M., Itoh, M., et al. 2014. A promoter-level mammalian expression atlas. Nature 507:462-470.
3. Roy, S., Schmeier, S., Arner, E., Alam, T., Parihar, S.P., Ozturk, M., Tamgue, O., Kawaji, H., de Hoon, M.J., Itoh, M., et al. 2015. Redefining the transcriptional regulatory dynamics of classically and alternatively activated macrophages by deepCAGE transcriptomics. Nucleic Acids Res 43:6969-6982.
4. Roy, S., Guler, R., Parihar, S.P., Schmeier, S., Kaczkowski, B., Nishimura, H., Shin, J.W., Negishi, Y., Ozturk, M., Hurdayal, R., et al. 2015. Batf2/Irf1 induces inflammatory responses in classically activated macrophages, lipopolysaccharides, and mycobacterial infection. J Immunol 194:6035-6044.
5. Guler, R., Parihar, S.P., Savvi, S., Logan, E., Schwegmann, A., Roy, S., Nieuwenhuizen, N.E., Ozturk, M., Schmeier, S., Suzuki, H., et al. 2015. IL-4Ralpha-dependent alternative activation of macrophages is not decisive for Mycobacterium tuberculosis pathology and bacterial burden in mice. PLoS One 10:e0121070.
6. Guler, R., Roy, S., Suzuki, H., and Brombacher, F. 2015. Targeting Batf2 for infectious diseases and cancer. Oncotarget 6:26575-26582.
7. Parihar, S.P., Guler, R., Khutlang, R., Lang, D.M., Hurdayal, R., Mhlanga, M.M., Suzuki, H., Marais, A.D., and Brombacher, F. 2014. Statin therapy reduces the mycobacterium tuberculosis burden in human macrophages and in mice by enhancing autophagy and phagosome maturation. J Infect Dis 209:754-763.
8. Guler, R., and Brombacher, F. 2015. Host-directed drug therapy for tuberculosis. Nat Chem Biol 11:748-751.
最終報告書
1.プロジェクトの目的
結核菌の侵入、生存、増殖に利するヒトマクロファージ細胞の遺伝子・情報伝達系・メカニズムを、宿主を標的とした創薬のために同定する。すなわち、宿主の防御機構に注目して、宿主免疫を高めるための、また、病原体の回避メカニズムの一部として病原体が乗っ取った宿主ファクターを抑えるための宿主創薬標的を同定する。
2.プロジェクト・デザイン
我々の持つ独創的技術、deepCAGE、によって得た結核感染マウスマクロファージの遺伝子発現データを活用する。発現変動遺伝子を解析し結核菌の感染、生存、増殖に関わると考えられる宿主遺伝子を、既確立のレンチウィルス発現撹乱系によって評価する。有望な標的候補についてヒト細胞やKOマウスを用いたさらなる評価を行う。
3.プロジェクトの結果及び考察
結核菌を感染させたマウスマクロファージの遺伝子発現データ(本プロジェクト中に論文発表、Sci Rep. 8, 6758, 2018)を用いて、劇的に発現変動する遺伝子を抽出した。deepCAGE 法を用いて結核感染ヒトマクロファージの発現データも取得した。評価対象遺伝子の選択法を確立し、ランク付けをした。CMPK2とRSAD2を優先度の高い候補として調べたところ、shRNAノックダウンによって結核菌増殖が中程度に抑えられた。これら遺伝子は活性型結核の患者で発現量が劇的に高いことも分かった。次に、発現変動する遺伝子の中で特異的な阻害剤が存在するDAXX2 とCXCL4、別目的の薬が存在するIGF1についても調べた。DAXX2阻害剤ベルベリンはヒトおよびマウスマクロファージで結核菌増殖抑制を示した。ベルベリン投与したマウス肺では炎症性のサイトカイン・免疫細胞の減少を伴う炎症抑制が観察され、その効果は抗生物質rifampin/isoniazidと相加的であった。脾臓においても抗生物質の病原体排除能力を高めた。このことからベルベリンは宿主を標的とした結核治療において、抗生物質の補助薬候補であると判断した。CXCL4をanti-PF4抗体処理すると、感染後期で結核菌増殖が抑えられることも見出した。IGF-1は発現ノックダウンおよび阻害剤tyrphostinによって結核菌増殖抑制が観察された。より特異的な阻害剤PPPを用いると、ヒトマクロファージでの結核菌増殖抑制が顕著に観察された。PPPの結核治療補助薬としての可能性をさらに調べる予定である。まとめると、結核に対する上記した宿主創薬標的は有望であり、さらなる機能解析を行うために次期のGHITグラントへの応募を計画している。
Investment
プロジェクト
結核菌感染に対する宿主側創薬ターゲットの探索