Investment

プロジェクト

MMV田辺三菱製薬協働による抗マラリア剤リード化合物創製研究

イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリアは蚊により媒介される原虫感染症であり、現在、効果的な治療法や予防薬が利用可能になったものの、長年人類を苦しめている最も重要な寄生虫病である。WHOの推計では、人類の約半数に相当する32億人の人々がマラリアの危険に曝され、2015年、2.1億人が発症し、約44万人が死亡した。新規メカニズムを持つ薬剤開発は薬剤耐性を克服する上で緊急な課題であり、マラリア撲滅実現には重要な手立てとなる。本プロジェクトはマラリア原虫の各寄生段階に対し、田辺三菱の約5万の化合物ライブラリを豪州Eskitis Institue、米国University of California, San Diego、及びMMVと協力してスクリーニングを実施した。本ライブラリは田辺三菱により購入又は合成された化合物で構成されており、高品質で多様性に富みんでいる。選抜した有望な3つの化合物シリーズは他のターゲットに対する選択性も高く、誘導体展開を進めることとした。

 

プロジェクトの目的

GHIT Fundによりサポートを受けた本プロジェクトの目的は、プロジェクト開始から18か月以内に、GHIT/MMVにより設定されたリード最適化研究に更に進めるためのクライテリアを満足する化合物シリーズを創製することである。

                                                                      

プロジェクト・デザイン

第1段階として、選抜された3系統の化合物群については、標的候補薬剤プロファイル(TCPs)を決定する為、原虫の各サイクルにおける薬効を確認する。これと並行して、各3系統の合成展開を行い、in vitroでの薬効評価と細胞毒性評価を実施する。追加の1,2系統に関しても合成展開および、その物性、安定性、in vitroの薬物動態を必要に応じて確認する。得らヒットシリーズから創製された最も有望な化合物に対しては、ヒトマラリアのマウスモデルによるin vivo薬効評価と齧歯目を用いたin vivo薬物動態も評価する。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリアは途上国(特にアフリカの5歳以下の幼児)において、最も重要な疾患の一つであり、推計で年間2.1億人が発病し、約44万人が死亡する。未だ有効はワクチンが無い中、そのコントロールや予防は化学療法剤や予防薬に依存している。化学療法剤や予防薬、現在推奨されているアルテミシンベースの混合療法の各薬効成分も常に耐性機構出現に脅かされており、ビルゲーツ財団、WHOから支持されるマラリア撲滅運動でもヒト蚊間の感染や、休眠体の形成を阻害する薬剤が求められている。MMVはこれまでの活動からマラリアのコントロールのみならず根絶も考慮した5つの標的候補薬剤プロファイル(TCPs)を確立した。プロジェクトでは、5つあるTCPsの少なくとも一つを満たすような化合物創製を目指す。

1. 症状軽減目的の迅速な抗マラリア原虫作用

2. 原虫の完全駆除治療が可能で、長期再発防止効果がある

3. 三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫感染からの再発防止

4. ガメトサイトを持つ宿主から蚊への感染、伝染防御

5. 感染地域における再感染予防

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

今回選抜されたヒットシリーズは原虫の複数の生活環に作用する可能性を持ち、構造の特異性を考慮して優先付けを実施し選抜した。これらはマラリア撲滅に向けた可能性を持ち、MMVポートフォリオの隙間を埋めることができる化合物創製が期待できる。今回展開する化合物群が必要とされるクライテリアを超えた場合、また、現状のMMVポートフォリオを補完する場合、リード最適化ステージへの移行を提案する。

各パートナーの役割と責任

共同チームのメンバーに加え、MMV協力機関から寄生虫学と薬物動態の専門家も参画する。田辺三菱は、MMV、Eskitis Institue、the Centre for Drug Candidate Optimisation (CDCO)の研究者と協力し、合成展開の立案、周辺化合物の選抜、評価対象化合物の選抜などプロジェクトの方針決定に関与してきた。田辺三菱の研究開発の経験、および今回展開する化合物に関して蓄積されている社内知識は本プロジェクト遂行のためのキーファクターとなる。MMV協力機関としてAvery教授はin vitro 薬効評価を担当し、Charman教授はin vitro/in vivo 薬物動態試験を担当する。化合物合成はインドにあるCRO、TCGLSが担当する。MMVは全体をリードし、田辺三菱と協働し、マラリアの創薬研究と経験を活かし戦略立案を担当する。加えて、MMV協力機関とのパイプ役を果たし、方針決定に必要なデータ創製を推進する。

他(参考文献、引用文献など)

  1. World Health Organization (WHO). WORLD MALARIA REPORT 2015. (2015). doi:ISBN 978 92 4 156515 8
  2. Wells, T. N. C., Huijsduijnen, R. H. Van, Voorhis, W. C. Van, van Huijsduijnen, R. H. & Van Voorhis, W. C. Malaria medicines : a glass half full ? Nat. Rev. Drug Discov. 14, 424–442 (2016).
  3. Meister, S. et al. Imaging of Plasmodium liver stages to drive next-generation antimalarial drug discovery. Science 334, 1372–7 (2011).
  4. Duffy, S. & Avery, V. M. Development and optimization of a novel 384-well anti-malarial imaging assay validated for high-throughput screening. Am. J. Trop. Med. Hyg. 86, 84–92 (2012).
  5. Lucantoni, L. & Avery, V. Whole-cell in vitro screening for gametocytocidal compounds. Future Med. Chem. 4, 2337–2360 (2012).
  6. Wassermann, A. M. et al. Dark chemical matter as a promising starting point for drug lead discovery. Nat. Chem. Biol. (2015). doi:10.1038/nchembio.1936
  7. Burrows, J. N., van Huijsduijnen, R. H., Möhrle, J. J., Oeuvray, C. & Wells, T. N. C. Designing the next generation of medicines for malaria control and eradication. Malar. J. 12, 187 (2013).
  8. Katsuno, K. et al. Hit and lead criteria in drug discovery for infectious diseases of the developing world. Nat. Rev. Drug Discov. 14, 751–8 (2015).

最終報告書

1.プロジェクトの目的

抗マラリア薬発見を目指して、田辺三菱製薬所有の51,200化合物ライブラリを対象に高速スクリーニングを実施し、3系統の新規ヒット化合物群を見出した。MMVにて設定した最適化研究遂行に相応しいヒットシリーズ1~2系統に絞り研究を開始し、GHIT最適化研究基準に合致する最低、1系統の化合物群を18か月以内に創製する。

 

2.プロジェクト・デザイン

選抜したヒットシリーズに対し、抗マラリア活性、物性、薬物動態パラメーターを指標に化合物最適化を実行する。注目シリーズ及びバックアップシリーズに関して、キーとなる骨格を基に誘導体を合成し、その生物学的及び薬物動態学的性質から確立した構造活性相関を基に、動物実験でも活性を示す化合物を創製する。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

初年度では、注目したヒットシリーズに対して、抗マラリア活性、物性、薬物動態パラメーターの改善を目的に誘導化研究を進めた結果、シリーズ1は複数の誘導体が求められる抗マラリア活性を示し、良い物性や薬物動態パラメーターを合わせもつ系統であることが判明した。注目シリーズ2及び3に関しても同様の誘導化を進めたが、それぞれ、以下に示すような課題があることが判明した。シリーズ2では、オフターゲットの活性を削減する目的で誘導化を進めたが、主活性の抗マラリア活性との分離が難しいことから中断することとした。シリーズ3に関しては、物性値(特に溶解度、脂溶性)に懸念が残り、代謝安定性が非常に悪いという課題があった。結果として、シリーズ1の化合物群を最優先化合物として選抜した。

次年度では、シリーズ1に対して継続的に誘導化研究を進め、初年度を上回る薬効と物性、薬物動態パラメーターを持つ化合物を複数見出した。特に、合成ルートを改良することで、相対立体配置を制御した効率的な誘導体の合成が可能となり、より明快な構造活性相関を確立でき、結果としてマウスモデルにおいて有効な活性を示す化合物の創製につながった。各種インビトロ評価を進めることで、シリーズ1の生化学的標的が判明されつつあり、このシリーズの抗マラリア薬としての将来性が見込まれている。並行して、バックアップシリーズに関しても化合物誘導化やプロファイリングを進め、薬剤候補としてさらに2つの化合物を見出すことにも成功している。

シリーズ1の成功で、本チームは2年以内に前臨床候補化合物創製を目指したリード最適化研究の継続が実現できるようにGHIT Fundの新提案を行い、現在、評価、検討が進められている。