Investment

プロジェクト

LAM測定による結核の高感度・迅速POCTキット開発

イントロダクション/背景

現在、HIV感染者の多くが適切な診断と治療を受けられないために、結核で亡くなっています。世界保健機関(WHO)は、2015年と比較して2025年の結核による死亡率を75%削減することを目標に掲げており、この戦略の中で、HIV感染者など、結核に罹患する可能性の高い人々における結核の適正な診断技術の開発は極めて重要な要素になると謳われています。 この目標達成のためには、HIV感染者の結核を検査する高感度なポイント・オブ・ケア・テスト(POCT:患者の近くで検査を行い、その場で迅速に診断ができる検査システム)が必要です。 既存の結核検査システムは、大きな検査装置や、煩雑な操作が必要で、医療インフラの整備が不十分な地域での検査に適していません。また、HIV感染者の多くで、検体として結核検査に一般的に使用される喀痰の採取が難しいという問題があります。 そのため、HIV感染者の結核診断に適した、尿や血といった比較的採取が容易な検体を用いた、高感度・迅速なPOCTキットが強く求められています。

本プロジェクトでは、尿を検体とし、主に結核が重症化しやすいHIV感染者の結核を検査する、高感度・迅速なPOCTキットの開発を目指します。このような検査キットの実現により、早期の結核治療が可能となり、結核による死亡率の低減と感染拡大の抑制につながります.

本プロジェクトでは以下のことに取り組みます。

1) LAM(リポアラビノマンナン)を検出する検査キットに適した抗体の選択と評価。LAMは結核を検出するためのバイオマーカーとして、血液、尿、喀痰などを検体とし、広く研究されている物質です。非常に安定であり、また結核罹患者において長期間検出可能という特長があります。

2) 選択した抗体を用いた、富士フイルムの技術による、高感度・迅速なPOCTキットの開発。

3) 結核に罹患しているHIV感染者/非感染者から検体を収集し、それらの検体を用いて、開発したキットの性能評価を実施する。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

結核はHIV感染者の主要な死亡原因であるにもかかわらず、しばしば、適切な診断がなされていません。理由として、まずHIV感染者の多くで、現行の診断法で必要な喀痰の採取が難しいこと、そしてHIV感染者の結核の症状は多様で、診断が非常に困難なことが挙げられます。これら課題の解決のため、本プロジェクトでは、喫緊に求められている、喀痰の代わりに尿や血を使った、HIV感染者の結核POCTキットを提供します。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

現在、簡便、迅速、安価で十分な性能を持った結核診断用のPOCTキットはありません。WHO及び各国の結核の専門家によると、次世代の結核検査システムに求められる最優先課題として、喀痰を用いないPOCTの開発が挙げられています。 本プロジェクトは、HIV感染者における結核の適正な検査技術の開発の大きな一歩だと考えています。我々のPOCTキットがHIV感染者の結核の早期診断を実現して、HIV感染者の結核罹患率と死亡率を減少させると期待しています。もしHIV感染者だけではなく、HIV非感染者や小児の結核検査に広く使用可能な性能を実現できた場合には、現状の結核診断システムが劇的に変化することは間違いありません。このような成功を収めた場合、シミュレーションでは10年間で結核罹患率を16%減少させ、死亡率を39%減少させるという結果が得られています(1)。

 

(1) Sun, A. Y. et al. Modeling the impact of alternative strategies for rapid molecular diagnosis of tuberculosis in Southeast Asia. Am. J. Epidemiol. 178, 1740–1749 (2013).

各パートナーの役割と責任

富士フイルムは、検査キット試作品の開発と最適化、生産に責任を持ち、独立した評価に必要な検査キット試作品の提供を行います。FINDはプロジェクト全体の取りまとめを行い、プロジェクトの目標設定とマネジメント、進捗の管理と報告、参考資料の収集と提供、必要に応じて新規パートナーの開拓にも責任を持ちます。FINDは、試薬及び検体の提供、開発品の仕様設定、対照となる測定法の決定を行います。そしてWHOに指定された結核及び肺疾患協力センターで独立した評価を実施し、得られたデータの統計的分析を行います。 

最終報告書

1. プロジェクトの目的

世界的に、多くのHIV感染者(PLHIV)が適切な結核(TB)の診断と治療を受けられないために亡くなっています。

富士フイルムとFINDは2015年より、尿検体を用いた結核の高感度・迅速POCTキット開発に取り組み、このような患者の早期診断・治療、死亡率減少、そして感染防止の実現を目指しています。

 

2. プロジェクト・デザイン

(a) 多数の抗体から、測定対象であるリポアラビノマンナン(LAM)の検出ための最も優れた候補を探しました。

(b) 富士フイルムの革新的な銀増幅技術を用いて、高感度・迅速POCTキット開発を行いました。

(c) 患者の尿検体を収集し、開発キットの性能を評価するための試験を実施しました。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

(a) 最も優れた候補抗体ペアの選定

まず、FINDは、最も優れた抗体を見つけるために、高感度な研究用測定法で1000以上のモノクローナル抗体ペアを評価しました。驚くべきことに、多くのペアは精製LAMに対して高い反応性を示したが、患者尿検体中のLAMにはほとんど反応せず、LAM抗原の構造及び反応性に違いがあることが示唆されました。従って、選定には結核患者の尿を使用することが重要でした。最も優れた抗体ペアは、フェムトモルの測定感度及び、高い臨床感度と特異性に達しました1

 

(b) FUJIFILM SILVAMP TB LAMの設計開発

次に、装置と長時間を要する研究用測定法を、POCTキットで実現する検討を行いました。富士フイルムは、写真の現像プロセスで用いる銀塩増幅技術2を初めて尿検体測定に応用すると共に、電源不要な診断カートリッジの設計開発を行い、設備が不十分な環境での使用に対応しました。FUJIFILM SILVAMP TB LAM(FujiLAM)はおそらく世界で最も高感度なイムノクロマトキットであり、尿中の非常に低濃度のLAMを測定できます。

 

(c) 診断精度の評価

最後に、FINDは南アフリカでの患者の保管サンプルを用い、独立した試験を実施し、FujiLAMの診断精度を評価しました。約1000のHIV感染者の検体を評価した結果、現在利用可能なPOCTキットと比較して、FujiLAMは28%以上多くの結核患者を検出しました。FujiLAMは特異性を維持しながら優れた診断感度を実現し、HIV感染者の迅速な結核診断を変える可能性があります3

次のステップでは、低中所得国のHIV感染者の結核診断検査で使用される事を目標に、FujiLAMの上市と、WHO推奨取得に向けた大規模な前向き試験を計画しています。

  

参考文献

1Sigal, G. B. et al. A novel sensitive immunoassay targeting the MTX-Lipoarabinomannan epitope meets the WHO’s performance target for Tuberculosis diagnosis. J. Clin. Microbiol. accepted, (2018). Available at https://doi.org/10.1128/JCM.01338-18

2Wada A, Sakoda Y, Oyamada T, Kida H. 2011. Development of a highly sensitive immunochromatographic detection kit for H5 influenza virus hemagglutinin using silver amplification. J Virol Methods 178:82–86. Available at https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21911008

3Broger, T et al. Novel high sensitivity tuberculosis point-of-care test for people living with HIV. Under review. Available at https://ssrn.com/abstract=3254479 (Comment: this manuscript is currently under peer-review and on a pre-print server. We recommend to wait with linking this paper until it has been accepted by the journal)