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プロジェクト

抗マラリア原虫作用から見出した抗マラリア薬の精査
Project Completed
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イントロダクション/背景

マラリアは毎年2億人以上が感染し、2013年には感染による死者は推定58万4千人に達している(そのうち78%の死者は5歳以下の子供である)。マラリアによる死者を減らす努力は、多くの医療関係者により続けられているが、マラリアを撲滅させるには、媒介する蚊の駆除対策、効果的なワクチン開発とともに、耐性菌対策、原虫感染時や形態変化時や肝臓での休眠体(マラリア原虫Plasmodium vivax種とPlasmodium ovale種)に有効な新しい感染症薬の創製が必要である。特に、WHOが推奨している治療薬であるアルテミシニン(ART)誘導体に対する原虫における薬物排除機能に基づくART耐性は、緊急に対処すべき脅威で、これに有効な抗マラリア新薬の創製が必要である。このプロジェクトでは、多様な経験と知識を保有する武田の研究者によって、デザイン・構築されてきた5万個の化合物ライブラリーから、ブリスベンのEskitisのVicky Avery教授とカリフォルニア大学サンディエゴ校のElizabeth Winzeler教授のもとで実施されたBlood stage及びLiver stageの抗原虫作用を示す化合物をスクリーニングして得たヒットの中から、それぞれ3ケモタイプの化合物を中心に、マラリア撲滅を最終目的とする新規医薬品の開発候補化合物をめざしたリード化合物創製を行うことを目的としている。プロジェクトチームには、MMVのネットワークから選抜される感染症学者や薬物動態の専門家にくわえ、武田の創薬経験豊かな研究者が参画する。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリア撲滅には、有効な新薬が不可欠なツールとなる。現時点での治療方法は、Artemisininを含む数種の薬剤の組み合わせ投与が行われているが、単回投与で有効な治療方法や、より安価で、より安全性が高く、より有効な治療方法や、保存中の安定性が高い薬剤の創製が期待されている。特に、マラリア原虫の形態変化や休眠体形成の阻害に有効な新規薬剤の創製とそれを組み合わせた治療方法は、有効なワクチンがない現状においては、マラリア感染対策に大いに貢献するものと考えられる。しかしながら、このような有効な治療方法の確立や、Artemisinin耐性問題を克服できる新規作用機作に基づく薬剤の創製も、現時点では早期実現は難しい状態にある。この共同研究プロジェクトでは、このような新薬創製の早期実現を目指し、次の点のいずれかの作用を有する新薬の創製を目的としている。

1) 症状を軽減するために迅速な抗マラリア原虫作用を有する

2) マラリア原虫の完全駆除治療が可能で、さらに望ましくは、長期の再発防止効果がある

3) マラリア原虫Plasmodium vivax種とPlasmodium ovale種の休眠体からの再発を阻害する

4) 感染者のマラリア原虫の生殖母体(gametocyte)をターゲットにした、あるいは、媒介する蚊への移行を阻止して、感染を予防する

5) 感染地域における再感染を予防する効果を有する

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

前述のとおり、新規の作用機作を示す新薬の創製は、マラリア撲滅に不可欠であり、Artemisinin、クロロキン、pyrimethamine/sulfadoxineなどの治療薬に耐性をもつマラリア原虫に有効な薬剤の創製は、マラリア治療に大いに貢献すると考えられる。今回の武田、MMV、GHITの共同研究はこのような薬剤の創製を目指している。さらに、感染予防や再感染予防とともに、マラリア原虫Plasmodium vivax種とPlasmodium ovale種の休眠体からの再発阻害作用を有する新規薬剤の創製も視野に入れている。今回の提案で取り扱う化合物はこれまでのMMVのポートフォリオにはないもので、武田とMMVが協力して、ヒットtoリードの創薬研究、さらにはその後のリード最適化研究に至る、有効な新薬創製をめざした共同研究を遂行する。

 

各パートナーの役割と責任

武田薬品工業株式会社(武田薬品)はMMVとの抗マラリア薬探索の共同研究において、武田薬品が保有する化合物ライブラリーの中から20,000個を超えるスクリーニング化合物を提供した。これらの化合物について、感染初期、肝臓での休眠期および赤血球期のマラリア原虫に対する有効性についての評価試験を実施し、この中から数種のヒット化合物を見いだした。これらのヒット化合物をもとに、開発候補品を見出すためのリード化合物創出研究に向けて、ヒット化合物や周辺化合物の生物活性プロファイリングを実施していくが、武田薬品は科学的見地からの助言と医薬品合成化学に関するアドバイスを提供する。これらの活動はMMV、Eskitis InstituteおよびCDCOの科学者と協働して進めていく。さらに武田薬品は、創薬研究において蓄積してきた経験と専門性を活かして、薬物動態、物性プロファイリングおよび安全性薬理の分野においても助言を行い、抗マラリア薬の研究開発に貢献していく。

 

Medicines for Malaria Venture (MMV)のプロジェクトダイレクター であるブライス・カンポ博士(Brice Campo)は、生物学および薬理学を専門としており、本プロジェクトに対して医薬品研究およびその戦略についての助言を行う。ベノイト・ラルー博士(Benoit Laleu)は医薬品合成化学を専門としプロジェクトリーダーを務め、合成計画や化合物の抗マラリア原虫活性のデータを分析する。また、MMVは、創出された化合物および付随する実験データを用いてプロジェクトが的確な意思決定を行うことができるように、外部機関(GSK、UCSD、BPRC、Mahidol、USF、TropIQ、Imperial College、STPH、Columbia Universityなど)から有用な支援を受けることができる体制を作る役割を担う。

 

Eskitis Institute (Griffiths University)のビッキー・アベリー教授(Vicky Avery)およびCDCO(Monash University)のスーザン・チャーマン教授(Susan Charman)はMMVのパートナーであり、赤血球期マラリア原虫に対する試験管内試験および動物実験、さらには薬物動態試験に関してプロジェクト内で選択された化合物を用いたデータの取得を担当する。

他(参考文献、引用文献など)

WHO World Malaria Report:

http://www.who.int/malaria/publications/world_malaria_report_2014/report/en/

 

MMV Target Candidate profiles: Burrows, van Huijsduijnen, Möhrle, Oeuvray, & Wells, 2013

 

Asexual blood stage assay: Duffy & Avery, 2012

 

Sexual stage assay: Lucantoni & Avery, 2012

 

Liver stage assay: Meister et al., 2011

最終報告書

1.プロジェクトの目的

このプロジェクトでは、武田薬品の化合物ライブラリーからハイスループットスクリーニングにより見出されたヒットシリーズを基にリードシリーズの探索を行う。なお、GHIT/MMVで設定されているリード最適化段階に進む条件を満たし、病態モデルでの効果を示す化合物を少なくとも1種類、創製することをめざす。

 

2.プロジェクト・デザイン

まず選択されたヒットシリーズの中から有望な化合物に対して、マラリアの生活環の各ステージに対する作用のプロファイリングを行う。並行し、新規誘導体合成と構造活性相関研究を行い、その抗マラリア活性と細胞障害性を評価する。また物理化学的性質、安定性、薬物代謝指標、バックアップとなるヒットシリーズも検討する。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

本プロジェクトでは、3つのヒットシリーズと1つのバックアップシリーズにまず取り組んだが、プロジェクト開始から7ヵ月後にこれ以上の展開は困難と判断し残念ながらすべてのシリーズの研究を中止した。一方で、GHITスクリーニングプログラムにおいて取得済みであったデータの見直しから、バックアップとなる新たなヒットシリーズを幸いにも6つ見出すことに成功した。これらの6つのヒットシリーズはプロジェクト開始時には諸般の事情により選択されなかったものであったが、今回武田薬品は本マラリアプロジェクトに対して有望なヒットシリーズとして追加提供した。また別のあるヒットシリーズは、武田薬品の自社研究ポートフォリオから本プロジェクトに移管されたものである(標的分子は確定済み)。ただし、これらの計7つの中から3つのヒットシリーズについて2016年8月に合成研究を開始したばかりであったため、武田薬品とMMVは今回新たなリードシリーズ探索プロジェクトをGHIT Fundに申請しこの度承認された。すなわち武田薬品とMMVの活動は1年延長されることになり、ヒットシリーズの更なる最適化と次の研究ステージに進むための基盤となるいくつかのリードシリーズの創製が可能となろう。

 

このプロジェクトを通して、価値あるバックアップシリーズに取り組むためには、明確に設定されたリスク軽減策を持っておくことがいかに重要か明らかとなった。さらに今回、武田薬品の科学的知見を基にして自社研究ポートフォリオから1つのヒットシリーズがこの抗マラリア薬研究のために移管され、数多くの化合物が武田薬品から提供されることとなった。初期のヒットシリーズが研究中止となったために生じた遅延を挽回するために、この取り組みは非常に重要なものとなった。