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受領年2015
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投資金額¥90,823,110病気Tuberculosis対象Drug開発段階Lead Identificationパートナー第一三共株式会社 , The Global Alliance for TB Drug Development過去の案件
イントロダクション/背景
現在結核治療に用いられている薬剤は40-50年ほど前に見つかったものが多く、現在に至るまで治療法はほとんど変化していない。既存薬剤の効果がある結核患者の場合においても、平均して6ヶ月間複数の薬剤を毎日服用する必要がある。一方、薬剤耐性を持つ結核患者の場合の状況は一層悪く、注射による6ヶ月に渡る毎日の治療に加え継続的な服薬治療を少なくとも18ヶ月続ける必要があり、その期間中は薬効が弱く毒性を持つ既存薬剤を用いる必要がある。そのため治療期間が短縮でき薬剤耐性のヒト型結核菌に対しても治療効果をもたらす、実効性のある新しい結核薬が緊急に必要とされている。
今回のプロジェクトは、第一三共、イリノイ大学及びTBアライアンスが協力し、GHIT fundに支援され実施したスクリーニングプログラムに端を発している。第一三共オリジナルの7万個の化合物を利用し、ヒト型結核菌に対する殺菌作用を評価するスクリーニングをイリノイ大学のFranzblau教授のグループで実施した。この3つの研究機関の緊密な協力により、ヒト型結核菌への作用を基に選択したヒット化合物群が同定され、これらヒット化合物群から選択された3つの化合物シリーズの誘導体展開を含む研究計画が立案された。この研究計画では、第一三共インドファーマが誘導体合成を担当し、合成された化合物のヒト型結核菌に対する薬理活性をイリノイ大学で評価することにしている。この共同研究に期待される結果は、ヒット化合物群の誘導体展開から更なる研究段階に進むことができるリード化合物を21ヶ月間の共同研究期間中に見つけ出すことである。
本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?
結核により毎年世界中で約150万人の人が命を落している。言い換えれば一分間に約3名の人が命を落している。投与期間が短くかつ薬剤耐性結核菌に対しても効果を示す薬剤を開発することが、そのような高い死亡者数を低減させる一つの方法である。今回の第一三共、GHIT fund及びTB アライアンスとの共同研究はこの目的を達成できるかもしれないユニークな試みである。TB アライアンスは、公衆衛生上のニーズはあるが十分な利益が得られないため民間部門が投資しにくい治療分野の研究開発活動を推進する製品開発パートナーシップ(PDP)という形態を取る組織である。これら三者による協業により、製薬企業が持つ優れたノウハウが、世界中のアカデミア研究者と膨大なネットワークを築くTB アライアンスを介して活用されることになる。この共同研究形態は研究資源が限られている結核のような薬効分野の研究成果を最大化する様に設計されている。共同研究を通じ、薬効と安全性の観点から更なる最適化研究に進めることができるリード化合物候補を21ヵ月後に獲得することが期待される。
本プロジェクトが革新的である点は何ですか?
結核菌に対するスクリーニングからオリジナルなヒット化合物を生み出すもとになった7万の化合物は、ファルマコフォアの部分構造の概念を組み合わせることにより第一三共の化学者によりデザイン及び合成されPSL(Pharma Space Library)と呼ばれている。PSLは第一三共オリジナルな化合物であり、GHIT fundの支援によるスクリーニング以前には、ヒト型結核菌に対してスクリーニングされていなかった。PSLから同定されたヒット化合物群はいわゆるドラッグライクな構造で、誘導体展開が柔軟な特徴を持つ。他の研究機関から出された結核薬に関する文献情報に含まれるヒット化合物と今回見つけ出されたヒット化合物群を比較したところ、確実にユニークな構造であることが確認された。共同研究では、結核領域における研究経験を持つ第一三共インドファーマの研究者により新規誘導体のデザインと合成が実施される予定である。2013年に約260万人の結核患者を抱えていたと推定される世界最大の結核流行国インドにおいてこのような結核研究が実施される点も意義深いと考えている。(Reference 1)
他(参考文献、引用文献など)
Reference 1 “Global Tuberculosis Control 2014, WHO, Geneva, 2014 www.who.int/tb/publications/global_report
最終報告書
1. プロジェクトの目的
現在結核治療に用いられている薬剤は40-50年ほど前に見つかったものが多く、現在に至るまで治療法はほとんど変化していない。既存薬剤の効果がある結核患者においては、平均して6ヶ月間、複数の治療薬を毎日服用する必要がある。一方、薬剤耐性のある結核患者の場合の状況は一層悪く、注射剤や毒性が懸念される薬剤を含む治療薬の継続的な投与を18ヶ月以上の期間続ける必要がある。そのため本プロジェクトでは、治療期間を短縮し薬剤耐性の結核菌に対しても治療効果をもたらす、実効性のある新しい結核薬の創出を目的とした。
2. プロジェクト・デザイン
今回のプロジェクトは、第一三共、イリノイ大学及びTBアライアンスが協力し、GHIT Fundに支援されるユニークな体制を取っており、結核に対する新しい治療薬をもたらすことを目指した。TBアライアンスは開発途上国のための新薬開発、臨床研究、製品化に特化したProduct Development Partnership (PDP:医薬品開発パートナーシップ)と呼ばれる組織であり、民間企業の投資において特に経済面での制約から、必ずしも優先順位を高く設定できない結核の治療分野の研究開発活動に注力している。プロジェクトでは4者の協業により、製薬企業のもつ優れたノウハウが、世界中のアカデミア研究者と膨大なネットワークを築くTBアライアンスを介して活用された。このプロジェクトは、研究に利用できる資金が限られている結核のような疾患領域の研究成果を最大化する様に設計されている。プロジェクトを通じ薬効と安全性の観点から更なる最適化研究を進めることができるリード化合物候補を獲得することを目標としていた。
3. プロジェクトの結果及び考察
今回のプロジェクトは、第一三共、イリノイ大学及びTBアライアンスが協力し、GHIT Fundに支援され実施した、スクリーニングプログラムに端を発している。まず、第一三共独自の化合物から構成される7万に及ぶ化合物ライブラリーを利用し、結核菌に対する作用を評価するスクリーニングをイリノイ大学のFranzblau教授のグループで実施した。 プロジェクトに関与した研究機関の密接な協力により、結核菌に対する作用の強さによりヒット化合物群が同定され、これらのヒット化合物群の誘導体展開を含む研究計画が立案された。
新規誘導体は第一三共が合成し、合成された化合物の結核菌に対する活性はイリノイ大学で測定した。ヒット・トゥ・リード段階の協業では、まず新規誘導体の活性値(MIC値)と構造活性相関(SAR)から、3つの骨格の優先順位を上げた。その後、新たに合成された化合物の物性を注意深く分析し、研究チームは2つの骨格(シリーズ1とシリーズ5)を選択し、薬理活性、安全性及び物理化学的な性質の最適化を行った。
その結果、マウス急性肺感染モデル動物への投与でシリーズ1化合物は薬効を示すことができなかった。またシリーズ5化合物に関しては薬理活性と薬物動態を改善することが難しかった。以上の理由により研究チームは共同研究を終了することとした。
これらの結果を踏まえ、潜在的な可能性の高いヒット化合物を追加で得るために、より大きな化合物ライブラリーのスクリーニングをすることが必要ではないかということをプロジェクトから学んだ。
Investment
プロジェクト
抗結核薬のリード化合物の同定