Investment

プロジェクト

青少年の結核感染を予防するホールセル追加免疫ワクチンDAR-901(DAR-PIA試験)

イントロダクション/背景

世界における結核菌の蔓延を2035年までに終結させるという国際社会の目標を達成するには、結核を予防する新しいワクチンの開発が不可欠です。現在、開発中の結核ワクチンのうち、ヒトにおいて唯一有効性が示されているものとして、結核菌と大変よく似た細菌であるMycobacterium obuense に由来する、不活化ホールセル追加接種用ワクチンがあります。このワクチンはDAR-901と名付けられ、新しい方法で製造されています。米国で実施した第Ⅰ相試験により、結核のワクチンとして現在広く適用されているBCG接種を出生時に受けた成人に対してDAR-901ワクチンを3回追加接種することが、安全であることと、免疫反応をひきおこす効果があることを、すでに確認しています。

今回行うDAR-PIA試験は第Ⅱ相試験であり、DAR-901ワクチンを、タンザニアの青少年を対象に追加接種します。他の多くの結核ワクチン試験では、結核の病気の発症を予防するかどうかを調べるのに対し、DAR-PIA試験では、より早い段階で、結核の感染そのものを予防するかどうかを調べます。我々のプロジェクトでは、まず1000人の、すでにBCGを接種した13~15歳の青少年を対象に結核の発症の有無に関わらず菌にすでに感染しているかどうかを調べる健康調査と生活環境調査を行います。結核の高蔓延国であるタンザニアの13~15歳の年齢層における結核感染の状況について、1000人の内350人はすでに結核に感染しており、650人は未感染であると予想されます。調査結果に基づき結核に感染するリスク要因について解析を行います。さらに、検査結果で結核にまだ感染していないことが明らかになった者650人を、無作為化比較試験の対象とします。DAR-901ワクチンを3回追加接種する接種群と生理食塩水を偽薬として3回接種する対照群とに、1対1に分け、試験を行います。無作為化比較試験の全ての参加者は2年間経過観察され、ワクチン接種により、結核に新たに感染する確率が低くなるかどうかを解析します。この試験の結果が成功すれば、DAR-901ワクチンの開発は、その後の最終確認試験とライセンス付与に進み、BCGの誕生から100年以上の期間を経て、新しい結核予防のワクチンの実用化への道が開けます。

各パートナーの役割と責任

東京医科歯科大学は、研究デザインの設計、実施サイトの選定と準備、参加者の募集と受付、Clinical Trial 実施チームの立ち上げ、データ収集、データ分析を行い、役割を果たします。試験に参加する青少年のスクリーニングと登録の手順書、質問紙の作成、インフォームドコンセント、インフォームドアセントの様式の作成、倫理審査受審の準備、データ収集にあたるスタッフの訓練、参加者の募集と登録手続き、データ収集の質の管理を行います。また、Clinical Trial実施に協力を得る中学校やその他の関係機関の調整、地域顧問委員会の組織化と運営を行います。さらに、ケースレポートフォームの記載事項の分析によるワクチンの安全性と効用の評価、収集データに基づくワクチンの効果に関する分析を行います。 

ムヒンビリ大学は、Clinical Trialの実施場所の研究機関として、試験の手順の決定と試験の実施において、実施サイトにおける責任を持ち役割を果たします。試験のプロトコールを作成し、倫理審査受審手続きを管理し、試験に参加する青少年の募集計画をたて、参加者の募集と登録、ワクチンと偽薬の投与、ワクチン投与後の参加者の状態の監視、地域顧問委員会の運営調整を行います。また、インフォームドコンセントとインフォームドアセントの取得、GCPのガイドラインの順守、Tスポット検査の質の管理、有害事象の報告が確実に行われるよう、責任を持ちます。さらに、試験に参加する青少年が通う中学校と適切に連携をとり、データと報告事項の記録とその保管について監視する研究監視者との連携をはかります。

ダートマス大学医学校は、研究デザインの全体の調整を行い、試験のプロトコール、検査室での手順書、Clinical Trialの実施、データ分析に責任を持ち、ケースレポートフォームと重症な有害事象の報告書様式を作成します。また、研究倫理審査機関。安全監視委員会、研究監視者と連携し、有害事象の報告、ケースレポートフォーム、重要有害事象報告書を受け取り、分析します。さらに、ワクチンの安全性と効用の評価、ワクチンの効果に関する分析を行います。

最終報告書

1. プロジェクトの目的

タンザニアの青少年における、Mycobacterium tuberculosisの感染予防を目的とした不活化ホールセル追加接種用ワクチンDAR-901の安全性と有効性を、無作為化比較試験により評価する。

 

2. プロジェクト・デザイン

結核菌感染を評価するインターフェロンγ遊離試験(IGRA)の一種であるT-スポット. TBが陰性の13~15歳の対象者を無作為に1対1の2群に分け、0、2、4か月目にDAR-901ワクチンまたは生理食塩水を皮内接種し、2か月、1、2、3年後にIGRA測定を行った。主要または副次的評価指標として新規感染(IGRA陽転化)、または持続的感染(IGRA陽性反復)までの時間をとり、有効性を評価した。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

参加者936人の検査結果に基づき、IGRA陰性とその他の基準を満たした667人が無作為化比較試験の対象となり、ワクチンまたは偽薬の初回接種を行った。2か月の時点で625人がIGRA陰性を維持し、続く2回の接種に進んだ。DAR-901ワクチンの安全性と良好な忍容性を確認した。被験者の一人に予防接種部位の皮下膿瘍が確認された。主要評価指標(p=0.90)と副次的評価指標(p=0.20)のいずれにおいても、二つの群間で有意な差は認められなかった。DAR-901を接種しIGRA陽性に転じた被験者における、結核特異抗原ESAT-6で刺激されたspot forming cells (SFCs)の中央値は50.1に対し、偽薬接種後にIGRA陽性に転じた被験者におけるSFCsの中央値は19.6であり、ワクチン接種群においてIGRA陽転者は、偽薬接種群でIGRA陽転者よりも高い反応性を示した(p=0.03)。

DAR-901ワクチン1㎎の3回接種は安全性と良好な忍容性が確認されたが、IGRA陽転化または持続的IGRA陽性化を予防する効果は認められなかった。DAR-901ワクチン接種後にIGRA陽性に転じた者は、結核特異抗原ESAT-6に対し高い免疫応答を示した。結核の発症の予防は結核菌への感染の予防とは異なる免疫応答を必要とすることから、DAR-901ワクチンによる結核発症予防効果への期待が示唆される。