Investment

プロジェクト

内臓リーシュマニア症のためのアミノピラゾール誘導体最適化プロジェクト

イントロダクション/背景

Drugs for Neglected Diseases initiative(DNDi)は武田薬品工業株式会社と提携し、内臓リーシュマニア症(VL)の治療として、経口投与を可能にし、安全かつ効果が高く、投与期間の短い現地に適した、アミノピラゾール化合物群の抗寄生虫薬を開発し、革新的なVLの治療を目指しています。

リーシュマニア症は複雑な病気であり、疾患をもたらすリーシュマニア原虫は20種を超えます。VLに罹患した患者は治療を施さなければ死に至り、毎年20万~40万例の新たな症例が認められ、2万~4万人の死亡例が報告されています。過去10年間で南アジアでのリーシュマニア症に対する治療、診断、および予防には改善が見られましたが、一方で各地域での治療に対する反応は様々です。

VLの既存治療薬には安全性、耐性、安定性、および費用の面で深刻な問題があります。これらの薬剤は耐容性が低く、長期にわたる治療を要し、投与が困難です。今回提案されたアプローチは、VLに対する既存の治療法とは明らかに異なります。今回のパートナーシップにおいては、in vitroおよびin vivoでの優れた抗寄生虫活性を示す新たな作用機序を持つ可能性があり、かつ経口投与で治療効果を示すアミノピラゾールの新規の薬剤クラスを開発する予定です。これは、既存の単剤療法や併用療法から大きく一歩前進するために、他の経口剤(すなわち、ミルテホシン、フェキシニダゾール、VL-2098、およびその他の新規薬剤候補)と併用して使用することを目的としています。このような薬剤の使用により、HIVとVLに重複感染した患者に対して非常にニーズに見合った治療を提供することもできます。この新規薬剤の安全性プロファイルに問題がなければ、カラアザール発症後に生じる皮膚リーシュマニア症(PKDL)や疾患の伝播を抑えるための無症候性の患者に対する治療、および皮膚リーシュマニア症(CL)など、内臓リーシュマニア症(VL)以外のその他のタイプのリーシュマニア症についても評価することが可能になります。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

DNDiは武田薬品工業(株)と提携して、各流行地域に特化した患者のニーズに適切に対処できる新たな治療法を開発することを目的としています。私たちは、最近VLの動物モデルにおいて概念実証を示すことができた新規化合物群のリード最適化を協力して行う予定です。このリード最適化プログラムの具体的な目標は以下の通りです:(1)初期のアミノピラゾールのリード化合物を十分にプロファイルする、(2)in vivoで必要な有効性を有するリード化合物4~6種類を特定する、(3)in vivoでの探索的毒性試験などのさらなるプロファイリングのために2~3の少数の上質なリード化合物を選択する、(4)そしてその中から目標とする候補化合物のプロファイルを満たすもっとも優れた化合物を、その後の前臨床開発に進む「最適化されたリード化合物」として選択する。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

今回のパートナーシップにより、DNDiの顧みられない熱帯病に対する創薬および開発の経験と、武田薬品工業(株)の幅広い経験、優れた能力、創薬および薬剤開発における科学的知識の深さ、すなわちこのイニシアティブを迅速に前進させるための重要な強みが一体化するのです。DNDiはリーシュマニア症のような最も顧みられない熱帯病の新たな治療薬・治療法を開発するために設立されました。武田薬品工業(株)は、「優れた医薬品の創出を通じて人々の健康と医療の未来に貢献する」という経営理念と共に、世界をリードする製薬企業です。その幅広い創薬についての経験を生かして、プロジェクトチームにアドバイスや指導を与えます。また、創薬デザインを支援することのできる200人を超える化学者や計算化学者が在籍しています。特にこれらの化学者たちは、プロジェクトチームが直面する科学的な問題を解決するために、他のプロジェクトから得られた経験を生かして創薬化学戦略、データ解析、および化合物のデザインに貢献します。例えば、高度な類似検索などの独自のリガンド情報に基づくin silicoの分子デザイン技術や、創薬デザインの化学的な可能性を広げるため、またリード化合物の付随的なオプションを特定するためにケモタイプホッピング(chemotype-hopping)法を使用することができます。さらに、吸収、分布、代謝、および排泄に関する毒性の問題を解決するため、武田薬品工業(株)が独自に所有するナレッジベースのデータベースを使用することもできます。このin silicoの技術は、武田薬品工業(株)の計算化学者により新しく構築し、カスタマイズされたもので、この技術により最適化のための様々な方向性を示すことが可能になるのです。また、武田薬品工業(株)は、安全な抗寄生虫治療薬の開発に不可欠な化合物の薬物動態、安全性評価、および探索的毒性についてのアドバイスも提供します。

最終報告書

1 プロジェクトの目的

内臓リーシュマニア症(VL)の治療として、経口投与を可能にし、安全かつ効果が高く、投与期間の短い現地に適した、アミノピラゾール化合物群の抗寄生虫薬を開発し、革新的なVLの治療を目指します。経口投与で治療効果を示すアミノピラゾール系の新規の薬剤を、VLに有効な他の経口剤と併用して開発します。本プロジェクトではLeishmania donovaniおよびLeishmania infantumに対し、in vitroおよびin vivoでの優れた抗寄生虫活性を示す新規アミノピラゾール系化合物の最適化を行います。

 

2. プロジェクト・デザイン

最先端のメディシナルケミストリーの手法を用い、想定されるリスクに事前に対処しながらアミノピラゾール系化合物を効率的に最適化し、DNDiが定めるTPP(目標とする製品開発プロファイル)を満たす化合物の開発を進めます。in vitroおよびin vivoでの抗寄生虫活性評価に加え、物理化学的な特性やin vitroにおけるADME(吸収・分布・代謝・排泄)特性、in vivoでの薬物動態、in vitroおよびin vivoでの安全性、更に原体の合成法や製剤化について慎重に評価します。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

前臨床試験に進むために必要な化合物のプロファイルを満たす最も優れた化合物としてDNDI-5561が選定されました。DNDI-5561はDNDiが定めるTPPの薬理学的、物理化学的な特性を満たしています。前臨床段階で実施される今後の試験により、DNDI-5561が臨床試験においてもTPPの必要最低条件を満たすことができる高い可能性があるかを判断します。またバックアップとして他の4つの候補化合物の評価を継続します。

本プロジェクトにおけるリード最適化の成功は、武田薬品工業、DNDi、その他のコンソーシアムメンバー(大学、企業、研究機関など)による強固なパートナーシップによるものです。DNDiおよび武田薬品工業は前臨床試験においてDNDI-5561の更なる開発を進め、その結果が良好であれば臨床試験に移行します。本プロジェクトはGHIT Fundの多大なるご支援により成り立っています。プロジェクトパートナー一同、感謝申し上げます。