Investment

プロジェクト

新規マラリアATP4阻害剤である(+)-SJ000557733の前臨床および臨床開発
  • 受領年
    2014
  • 投資金額
    ¥376,892,206
  • 病気
    Malaria
  • 対象
    Drug
  • 開発段階
    Preclinical development
  • パートナー
    エーザイ株式会社 ,  Medicines for Malaria Venture (MMV) ,  セントジュード 小児研究病院

イントロダクション/背景

グローバルヘルスの大きな問題であるマラリアでは、長年使用されてきた医薬品への耐性に加えて近年使用が開始されたアルテミシニンにも耐性を持つマラリアが報告されており、新しい医薬品が必須となっている。ここでは、複数の薬剤(早く病源体を体内から除去するもの・長く効果が持続するもの・感染拡大や再発を防止するもの)を単回投与することで治療と長期の予防を実現することが重視されている。

本研究では、新規標的に対して化合物を開発することで、早く病源体を体内から除去すると共に感染の拡大防止を目指している。具体的には、1-2回の経口投与により血中マラリア原虫を100万分の1に減少させること、G6PD欠損の場合を含めて安全に投与でき耐性出現傾向が低いことを目標としている。

このために、我々は化合物ライブラリーからPfATPを標的として抗マラリア活性を示す化合物を見出し、臨床研究に進める価値のある化合物として(+)-SJ000557733(以下(+)-SJ733と略)を創出した。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

(+)-SJ733はMMV が2013年に策定した目標に合致し、複数薬剤による単回投与の中で迅速な抗マラリア活性を達成するという基準を満たすことでグローバルヘルスの課題解決に必須な新規マラリア治療を実現できる。(+)-SJ733はノバルティス社のKAE609で臨床的な妥当性が示されているPfATP4を標的とし、極めて迅速なマラリア原虫の除去が可能な一方で薬効量の40倍程度まで毒性は見られないことから標的妥当性と安全性が極めて高い化合物である。 

(+)-SJ733は素晴らしい治療効果に加えて、実際の使用で特に重視されるマラリア以外の治療薬剤との薬物相互作用が無く高い認容性を示すことができる。(+)-SJ733のリスクとしてはヒト特有の薬物動態のために単回投与ではなく3日間までの投与延長が必要になる可能性が残る。結論として、(+)-SJ733は近年東南アジアで耐性が報告されているアルテミシニンに代わる薬剤として、または複数薬剤による治療で迅速なマラリア除去を行う薬剤として位置付けられる価値ある化合物である。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本申請では多様な化合物ライブラリーからPfATP4阻害によりマラリア治療を可能とする新規化合物を見出した。ここでは、既に臨床的に妥当性が示されている標的(PfATP4)に対して完全に新規な化合物を見出した。(+)-SJ733の研究が進めば、PfATP4に作用する化合物としては2番目のものとなる。我々は化学、薬理、臨床研究を統合して、安全で明確な効果を持つ化合物を医薬品とすることを目指している。

各パートナーの役割と責任

エーザイは、薬物活性成分と試験対象となる製薬製品について、製品化のプロセス開発を担当します。その際にはこれら臨床グレード製品を製造するため、関連する研究機関との契約交渉も担当します。エーザイはまた、GLP毒性試験特にイヌを用いた実験を担当し、薬物活性成分の毒性学的評価をコーディネートします。最後に、CMCとINDの毒性学部分の作成について援助します。

St. Judeは、生じるすべての問題への対処について計画し、達成を確保しながら、プロジェクトを全般的に管理します。St. JudeはINDの構成についてのコーディネートとFDAへのIND出願について責任を持ちます。St. Judeはローカルの臨床サイトでフェーズ1aスタディを実施し、適切な許容投与量が決まり次第フェーズ1bスタディを開始することについて責任を持ちます。

MMVはINDをレビューしその作成と出願を援助します。許容投与量が決まり次第MMVは、ヒトへの投与モデルを用いてQIMRで完了させる予定のフェーズ1bスタディを監督し、QIMRと共同してプロトコールを決定し、オーストラリア国の規制当局へそれら情報を提出するコーディネートを行います。

最終報告書

1. プロジェクトの目的

マラリア治療に対する併用療法の速効性薬剤成分としてのSJ733の可能性を証明します。

 

2. プロジェクト・デザイン

このプロジェクトでは、まずSJ733の臨床製剤をcGMP下で開発・製造し、GLP前臨床試験におけるSJ733の安全性や生物学的利用能を示すとともに、健常人を対象としたフェーズ1a試験、及び熱帯熱マラリア原虫を感染させた被験者を対象としたフェーズ1b試験を実施します。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

臨床開発候補化合物であるSJ733は、セントジュード小児病院、エーザイ、MMV及びケンタッキー大学からなるアカデミアと非営利団体の研究者のコンソーシアムによって創出されました。今回の助成金では、前臨床及び早期臨床試験がサポートされました。キログラム単位のSJ733塩酸塩を合成するプロセス及び合成された活性成分をcGMP下でカプセルに封入する製剤処方が開発されました。GLP毒性試験、体内動態及び安全性薬理試験は、ラット及びイヌの動物モデルを用いて実施され、SJ733が全ての用量で高い忍容性及び経口生物学的利用能を示し、用量制限毒性がメトヘモグロビンの産生であること、また、SJ733が高い治療指数を有し、迅速に効果を示すことが示唆されました。

これらのデータを用いてSJ733の米国IND申請及びPh1a試験が成功裏に実施され、1,200 mgまでの単回及び反復投与全例において重篤な副作用や用量制限毒性は認められず、AUCは600 mg投与において飽和が認められるまで比例的に上昇しました。これらのデータに基づいてマラリア原虫感染試験であるPh1b試験が開始され、SJ733は迅速な殺原虫活性を示し、投与後48時間で感染赤血球を約100万分の一に減少させました。さらに、生殖体原虫の形成も阻害しました。

SJ733はマラリア原虫に必須のイオンチャンネルであるPfATP4の新規阻害剤であり、前臨床試験において、経口吸収性及び高い忍容性、血液期原虫及び生殖期原虫の両方に対する作用、強力で非常に迅速な殺原虫効果を示しました。Ph1a試験においても、高い経口生物学的利用能を示し、ヒトにおける忍容性が高いことが示唆され、Ph1b試験ではSJ733を用いた併用治療が有効であることが示唆されました。これらのデータに基づいて、最適な併用薬の選別と臨床でのPOCを得るためのPh2a試験の準備が進行中です。