Investment

プロジェクト

4価弱毒生デングワクチンの開発

イントロダクション/背景

デング熱は4種類の血清型のデングウイルスによって引き起こされる蚊媒介性の感染症です。熱帯及び亜熱帯地域の100ヶ国以上で流行しており、毎年1億人以上が感染し、その結果、子供を中心に50万人が入院治療を必要とし、12,500人が死亡しているとWHOは推計しています。また、2010年には推計3億9000万人がデングウイルスに感染したとする新たな報告もなされています1)。デング熱患者の増加にもかかわらず、現在、有効な治療方法やワクチンは存在しません。デングウイルスは流行地の居住者のみならず、旅行者にとっても脅威であり、大きな公衆衛生上の問題となっています。これまでに遺伝子工学技術や細胞培養技術を用いた複数の4価ワクチン候補の開発が行われてきましたが、有効なワクチンはまだ存在しません。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

世界保健機関(WHO)は、デング熱に対するグローバル戦略のゴールとして、2020年までにデング熱による死亡率と罹患率を、それぞれ2010年の50%及び25%まで減らすことを目標とし、この目標の達成のためには、媒介蚊のコントロール技術、診断技術、治療優先順位選別のための経過予測システム、データに基づいた治療方法及びワクチン開発などの進歩が有用としています2)

 

マヒドン大学による4価弱毒生デングワクチンの開発は、1980年頃から行われてきました。近年、サルを用いた薬効試験において4価のバランスのとれた免疫反応を誘導できる有望な試作ワクチンの作出に成功しました。化血研はマヒドン大学の協力のもと、デング熱流行国での製造販売承認取得を目指し、このデングワクチンの開発を開始しました3)。このプロジェクトは、ワクチン開発という手段を通してこのWHOの方針をサポートできるものと考えています。

 

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

デング熱が大きな公衆衛生上の問題となっているにもかかわらず、現在、有効な治療方法やワクチンは存在しません。このプロジェクトの目標は、デング熱に対して安全で有効なワクチンを提供することです。

 

このプロジェクトにおいて開発される4価弱毒生デングワクチンは、天然痘ワクチン、ポリオワクチン、MMRワクチン、水痘ワクチン及び黄熱ワクチンなど、すでに感染症の撲滅や予防において実績のあるワクチンを開発するために用いられた、宿主域変異という弱毒ウイルス作出法を用います。このワクチンの接種によって、デングウイルスの自然感染時と同様の確実な免疫反応を誘導することにより、デング熱に対する予防効果が得られることが期待されます。

他(参考文献、引用文献など)

参考文献;

1)    Bhatt S, Gething PW, Brady OJ, Messina JP, Farlow AW, Moyes CL, Drake JM, Brownstein JS, Hoen AG, Sankoh O, Myers MF, George DB, Jaenisch T, Wint GR, Simmons CP, Scott TW, Farrar JJ, Hay SI. The global distribution and burden of dengue. Nature. 2013; 496(7446): 504-7.

2)    http://www.who.int/denguecontrol/9789241504034_executive_summary.pdf

3)    http://www.kaketsuken.or.jp/en/press-release/47.html

最終報告書

1.プロジェクトの目的

デング熱は4種類のデングウイルスにより引き起こされる蚊媒介性の感染症であり、毎年1億人以上が感染する1)。未だ有効な治療法は無い。Dengvaxia®は数か国で承認を得たが、後期臨床試験の経過観察により有効性及び安全性に関する懸念が指摘されており2) 3)、より有効且つ安全なワクチンが切望される。

 

2.プロジェクト・デザイン

我々が開発中の4価弱毒生デングワクチン(KD-382)は、天然痘、ポリオ及びMMR等、感染症の撲滅や予防において実績のあるワクチンと同様の宿主域変異という弱毒化法を用いて確立した。KD-382は全てのデングウイルス成分を含むため、自然感染時と同様の確実な免疫反応を誘導し、より高い予防効果が期待される。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

デング抗体陰性の雌雄のカニクイザルを用いたGLP非臨床試験により、KD-382の免疫原性及び防御能を評価した。1群24頭のサルに10倍段階希釈した3種類の用量のKD-382を各々1回皮下投与した。非免疫対照群として12頭のサルにウイルスを含まない媒体を1回皮下投与した。その結果、全てのKD-382投与動物が、投与後14日目には既に4つ全ての血清型に対して中和抗体陽転を示した。更に、60日目に攻撃した各血清型の親株に対して、非免疫対照群では親株によるウイルス血症が認められたが、KD-382を投与した全ての動物においては親株によるウイルス血症を完全に阻止できることが確認された。なお、投与用量に関係無く、KD-382は1回投与でバランスの良い、十分に高い中和抗体(1:>100)を誘導し、誘導された中和抗体価の高さに用量依存性は認められなかった。KD-382は全ての用量で安全に投与され、発熱、体重減少又は発疹などのデング関連症状を示唆する臨床症状は観察されなかった。更に、KD-382投与後から親株攻撃までの間に、いずれの動物においてもKD-382に由来する感染性のデングウイルスは全く検出されなかった。

つまり、当該GLP非臨床試験により、今後の臨床試験で評価予定の3種類全ての投与用量において、KD-382は安全に投与でき、1回投与で4つ全ての血清型に対してバランスの良い中和抗体応答及び完全な防御効果を誘導可能であることが示された。この結果は当該試験の主要エンドポイントを満足するものであり、デング抗体陰性のカニクイザルを用いた、反復投与毒性、安全性薬理、生殖発生毒性及び神経毒性などに関する非臨床毒性試験において既に示されたKD-382の安全性に加えて、KD-382がPhase1臨床試験へ移行すべき有望なワクチン候補であることを支持する確固たる根拠の1つとなった。

 

1)       Bhatt S, Gething PW, Brady OJ, Messina JP, Farlow AW, Moyes CL, Drake JM, Brownstein JS, Hoen AG, Sankoh O, Myers MF, George DB, Jaenisch T, Wint GR, Simmons CP, Scott TW, Farrar JJ, Hay SI. The global distribution and burden of dengue. Nature. 2013; 496(7446): 504-7.

2)       Halstead SB., Licensed Dengue Vaccine: Public Health Conundrum and Scientific Challenge. The American Journal of Tropical Medicine and Hygiene. 2016; 95(4): 741-745.

3)       Halstead SB, Russell PK., 2016. Protective and immunological behavior of chimeric yellow fever dengue vaccine. Vaccine 34(14): 1643-7.