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Project IDS2023-121
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受領年2023
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投資金額¥16,089,533病気NTD(Chagas disease)対象Drug開発段階Hit Identificationパートナー長崎大学 , Drugs for Neglected Diseases initiative
イントロダクション/背景
1. イントロダクション
シャーガス病、またはアメリカ型トリパノソーマ症は、寄生原虫クルーズトリパノソーマ(T. cruzi)によって引き起こされる感染症です。シャーガス病は、主にラテンアメリカに分布し、約1000万人以上の感染者が存在すると推定されます。しかし、グローバル化による「ヒトの移動」により、シャーガス病はヨーロッパ、オセアニア、そして日本でも感染者が報告されています。シャーガス病は、サシガメと呼ばれる昆虫が吸血の際に脱糞し、糞便中に存在するメタサイクリック型のトリポマスチゴートが傷口や粘膜から侵入することで感染します。その他に、輸血、臓器移植、母親から子ども(母子)により感染する事もあります。シャーガス病は急性期と慢性期に分けられ、急性期の症状は風邪のような症状が現れ、感染した事に気付かない場合がよくあります。治療をしなかった場合、心臓肥大や巨大結腸などの症状が現れる慢性期に進行し、死に至ることがあります。
2. プロジェクトの目的
本プロジェクトの目的は、GHIT/DNDiの抗シャーガス病治療薬の基準(1)を満たす新規で強力な抗寄生虫化合物を大阪大学の化合物ライブラリーから同定することです。
3. プロジェクト・デザイン
大阪大学・創薬サイエンス研究支援拠点の化学物ライブラリーのサブセットからシャーガス病に対し評価されていないサブセット(合計62,029化合物)を用いて、ホタル由来のルシフェラーゼを発現する組換えT. cruzi株の宿主細胞内ステージ(アマスチゴート)に対して、細胞ベースのハイスループットスクリーニング(HTS)系で評価します。得られた一次ヒット化合物は、さらに細胞毒性(ヒト細胞株)とT. cruziの主要な4種株に対する抗原虫活性を評価し、次の創薬段階に繋げられる化合物を創出します。
本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?
シャーガス病は、歴史的に薬剤開発がほとんど行われておらず、WHOにより顧みられない熱帯病の一つとして指定されています。シャーガス病の発見から100年以上経過しているにも関わらず、現在治療に使用されている薬剤はわずか2種類であり(ベンズニダゾルとニフルチモクス)、慢性期においては効果がみられないうえに、開発中の薬剤は殆どありません。その現状を解決するために、私たちはシャーガス病に対し、有効かつ安全な新規薬剤の開発に繋げられるような、新規作用機序を有する新たなヒット化合物を見出すことを目指しており、将来的には顧みられない熱帯病で苦しむ患者のクオリティ オブ ライフ(QOL)の改善に貢献します。
本プロジェクトが革新的である点は何ですか?
これまでのシャーガス病薬剤開発分野における課題として、高感度化合物評価系が無い点が挙げられます。本プロジェクトでは、T. cruziの遺伝子工学技術の進歩を活かし、ルシフェラーゼを発現する組換えT. cruzi4種株を樹立し、細胞ベースのHTSに用いることで、抗原虫活性を有する化合物の迅速かつ高精度な評価が可能となりました。さらに、本プロジェクトで評価する大阪大学の化合物ライブラリーは、シャーガス病に対し評価されていないため、抗T. cruzi活性を有する新たな化合物シリーズを見出せることが期待されています。
各パートナーの役割と責任
長崎大学とDNDiの間で、既に共同研究契約が締結されており、本プロジェクトにおいて長崎大学は、ダニエル准教授のグループにより確立されたHTSの実施、データ解析と報告書の提出を行い、DNDiはプロジェクトの調整、データ解析およびヒットの優先順位付けのサポートを行います。
他(参考文献、引用文献など)
(1) https://dndi.org/scientific-articles/2015/hit-lead-infectious-diseases-nature-2015
最終報告書
1. プロジェクトの目的
本研究の目的は、治療選択肢が限られている顧みられない熱帯病であるシャーガス病を引起す寄生虫 Trypanosoma cruzi に対する新規創薬シード化合物を同定・検証することである。多様な化合物ライブラリを用いたハイスル―プットスクリーニング(HTS)により、有効性と選択性を有し、かつ毒性の低いヒット化合物を創出する。
2. プロジェクト・デザイン
本研究は段階的なHTS戦略に基づいて実施した。化合物ライブラリ取得および一次スクリーニング条件の最適化後、HTSを実施した。化合物供給制限に対応するため、HeLa細胞を用いた単濃度毒性評価を導入し、原虫選抜的な化合物を複数 T. cruzi 株を用いて実施した。
3. プロジェクトの結果及び考察
大阪大学(OU)化合物ライブラリ由来の63,680化合物をスクリーニングした結果、1,986化合物の一次ヒットが得られた。安全性を考慮するため、単濃度(10 µM)での細胞毒性評価を実施し、非毒性と判断された860化合物について、Trypanosoma cruzi の4株(CL Brener、Sylvio-X10、Tulahuen、Esmeraldo)に対する用量反応試験へと進めた。ベンズニダゾールおよびポサコナゾールを参照化合物として用い、各株において一貫したEC₅₀値が得られ、アッセイの堅牢性と再現性が確認された。
原虫の4株すべてに対してEC₅₀≦10 µMを基準として評価した結果、403化合物が全株で活性を示し、全体のヒット率は0.63%であった。本多株評価による厳密な選抜は、株特異的あるいは弱活性化合物を除外し、広範な抗トリパノソーマ活性を有する候補化合物の優先化に有効であった。
403化合物については、OUライブラリより化学構造情報を取得し、表現型活性および細胞毒性データと統合した。整理したデータセットはDNDiと共有され、クラスタリングおよび専門的評価に基づく選抜が行われた。並行して、ルシフェラーゼ2活性阻害による偽陽性を検出する確認試験を実施し、14化合物(約3.5%)を除外した。
最終的に、ドラッグライクネス、構造的新規性、過去のDNDiスクリーニングとの重複性を基準として、15化合物を優先ヒットとして選定した。これらは7つの化学クラスに分類され、4つの複数化合物シリーズと3つの単独化合物から構成され、化学構造の多様性を有し、かつ構造活性相関解析を可能とする。
本プロジェクトは当初計画したスクリーニングおよび評価は全て完了し、シャーガス病創薬に向けた有望なヒット化合物の同定という目的を達成した。現在は次段階として、新規に開発したHT-RoKアッセイを用いた追試評価に進んでおり、3化合物からなる細胞内寄生期における、殺原虫活性クラスターを同定した。
Investment
プロジェクト
HTS (High Throughput Screening) によるシャーガス病の新薬探索




