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受領年2021
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投資金額¥69,817,000病気Malaria対象Vaccine開発段階Antigen Identificationパートナー北海道大学 , 自治医科大学 , 京都大学 , 富山大学 , ケンブリッジ大学 , Instituto Leônidas & Maria Deane (ILMD) and The Fundação de Medicina Tropical Doutor Heitor Vieira Dourado (FMT-HVD) , 金沢大学
イントロダクション/背景
1. イントロダクション
ヒトが罹患するマラリアは5種類あるが、熱帯熱マラリア95%、三日熱マラリア3%を占めている。研究が先行している熱帯熱マラリアは、短期間のうちに重症化し、死亡に至ることがある。一方、三日熱マラリアは症状がマイルドであり、また三日熱マラリア原虫の赤血球侵入においてレセプターとなるDuffy抗原がアフリカ人では陰性であるために感染症例が少ない、と考えられてきた。このためワクチン研究は大きく立ち遅れている。しかし近年、グルーバル化、地球規模の温暖化、変異体の出現、さらには診断技術の向上により、感染地域が東南アジア・ブラジルからアフリカへと広がってきている。南米のブラジルでは全マラリア症例の90%が三日熱マラリアへと急増しており、診断や治療の遅延により重篤な病態や死亡につながる重大事例が報告されている。アフリカでの広がりと合わせて、ワクチン開発の重要度は熱帯熱マラリアに匹敵する状況である。熱帯熱マラリアのみならず三日熱マラリアにも効果のある次世代マラリアワクチンの開発が求められているが、最も開発が進んでいる熱帯熱マラリアワクチンRTS,Sワクチンのアフリカでの第III相臨床試験の結果は、単独では満足な結果は得られていない。両方のマラリアに効くワクチン開発は遥か先との予測となっている。
2. プロジェクトの目的
我々が独自開発したワクチンプラットフォームを技術基盤として、三日熱マラリア原虫の前赤血球ステージ及び生殖ステージに作用し、長期間効果が維持できる三日熱マラリアマルチステージワクチンを開発する。さらには、1つのワクチンで熱帯熱及び三日熱両マラリアに効果的な2価ワクチンを開発する。研究開発には日本、イギリス、ブラジル、ブルキナファソの研究者が参加する大陸横断型研究コンソーシアムを組織し、実用化に向けてのワクチン基盤技術の導出・前臨床試験への移行を目指している。
3. プロジェクト・デザイン
第一段階として、三日熱マラリアワクチン開発として三日熱マラリア原虫の前赤血球ステージ抗原及び生殖ステージ抗原の両方を発現するウイルスベクターワクチンを作製する。マウスモデルを用いて異種プライムブースト免疫法により免疫し、誘導される体液性・細胞性免疫応答を解析する。また、スポロゾイト感染チャレンジにより感染防御効果(目標値>90%)、直接膜吸血法(DMFA)により伝播阻止効果(目標値>90%)を評価し、さらに免疫法を最適化する。第二段階として熱帯熱マラリア原虫と三日熱マラリア原虫両方の抗原遺伝子を導入した2価ワクチンを作製し、そのワクチン効果を霊長類モデルで検証する。特に伝播阻止効果の評価では、ブルキナファソの熱帯熱マラリア感染者血液及びブラジルの三日熱マラリア感染者血液を用いて、DMFAを実施することが特徴である。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?
2021年10月WHOは世界初の熱帯熱マラリアワクチンRTS,S/AS01の推奨使用を決定した。現在使用されている化学療法との併用で熱帯熱マラリア感染による重篤化や死亡率の軽減に期待できるが、RTS,Sワクチン単独ではその効果は限定的であり、これまで目標としてきた長期抑制やマラリア撲滅を達成できない。本プロジェクトでは、熱帯熱および三日熱両マラリアに対する感染防御・伝播阻止効果の優れた特性を持つ「第二世代」の抗マラリアワクチンを開発することが、長期的なマラリア感染対策への鍵になる期待される。
本プロジェクトが革新的である点は何ですか?
高い抗マラリア効果を長期間持続させるためには感染防御効果と伝播阻止効果の相乗効果を有するワクチンが理想である。我々は独自に開発したウイルスベクターよりなるマラリア原虫の前赤血球・生殖両ステージに対し高い有効性を長期間持続する次世代のマルチステージワクチンの開発研究を実施する。本マルチステージワクチンは、遺伝子の連続的な変異、多型、その後の病原体の逃避により、時間の経過と共にワクチンの効果が減少するリスクを克服するための複数の利点を備えており、さらに2回接種で生涯免疫を付与できる。現在途上国で実施されている予防接種拡大プログラム(EPI)ワクチンとも同時に接種できる。熱帯熱及び三日熱両マラリアに対する2価ワクチン開発にも挑戦する革新的なプロジェクトである。
各パートナーの役割と責任
(1) 金沢大学:プロジェクト統括と研究デザイン、ウイルスベクターワクチンの作製・製造、マウス免疫試験、免疫学的アッセイ、感染チャレンジテスト。金沢大学には、マラリア原虫感染蚊を用いた感染防御効果を評価できるBSL2A施設を保有している。
(2) 自治医科大学:ウイルスベクターワクチンプラットフォームの研究デザインおよび生産。
(3) 北海道大学:ウイルスベクターワクチンプラットフォームの研究デザインおよび生産。
(4) 京都大学:研究デザイン、サルモデルでワクチンの安全性・免疫応答・ワクチン効果の評価。
(5) 富山大学:研究デザイン、免疫学的アッセイ。
(6) ケンブリッジ大学(英国):研究デザイン、マウス免疫試験、ブルキナファソでの伝播阻止実験。ケンブリッジ大学には、熱帯熱マラリア原虫のガメトサイト培養および熱帯熱マラリア患者からの血液サンプル(ブルキナファソ)を使用して伝播阻止ワクチンを評価。
(7) Instituto Leônidas & Maria Deane・The Fundação de Medicina Tropical Doutor Heitor Vieira Dourado (ブラジル):世界有数の三日熱マラリアの診断・治療・疫学調査を実施している。三日熱マラリア患者からの血液サンプル(アマゾン川流域)を使用して伝播阻止ワクチンを評価。
すべてのパートナーは、データの解析・評価について共同で実施する。
他(参考文献、引用文献など)
1. WHO. World Malaria Report 2021. (2021).
2. WHO. More malaria cases and deaths in 2020 linked to COVID-19 disruptions (https://www.who.int/news/item/06-12-2021-more-malaria-cases-and-deaths-in-2020-linked-to-covid-19-disruptions). (2021).
3. Moorthy, V. S., Newman, R. D. & Okwo-Bele, J. M. Malaria vaccine technology roadmap. Lancet 382, 1700-1701, doi:10.1016/S0140-6736(13)62238-2 (2013).
4. Sherrard-Smith, E. et al. Synergy in anti-malarial pre-erythrocytic and transmission-blocking antibodies is achieved by reducing parasite density. Elife 7, doi:10.7554/eLife.35213 (2018).
5. Blagborough, A. M. et al. Transmission-blocking interventions eliminate malaria from laboratory populations. Nat Commun 4, 1812, doi:10.1038/ncomms2840 (2013).
最終報告書
1.プロジェクトの目的
ワクシニアウイルスワクチン株LC16m8(m8)とアデノ随伴ウイルス(AAV)よりなる独自のワクチンプラットフォーム(m8/AAV)を技術基盤として三日熱マラリア原虫前赤内期抗原と蚊期抗原の両方の抗原を発現する2種類のウイルスベクターワクチンを構築する。このワクチンの効果をマウスモデルおよび非ヒト霊長類モデルで検証する。
2.プロジェクト・デザイン
三日熱マラリア原虫のPvs25-PvCSP融合タンパクを発現するm8/AAVワクチンを作製する。異種m8プライム/AAVブースト免疫法により動物に接種し、感染防御および伝播阻止両効果を検証する。マウスモデルでは、免疫マウスはPvCSPを発現する遺伝子組換え「ヒト化」ネズミマラリア原虫でチャレンジ感染実験を実施する。非ヒト霊長類モデルでは、免疫サルの血清を用いて、安全性、免疫原性、ワクチンの効果(in vitroスポロゾイト中和アッセイ)を検証する。伝播阻止効果は、免疫サルの血清は、ブラジルの三日熱患者の血液を用いたメンブレン吸血アッセイで検証する。
3.プロジェクトの結果及び考察
開発したm8/AAV PvワクチンはマウスモデルにおいてPvCSP遺伝子組換えネズミマラリアスポロゾイトに対して、短期間(28日目)で100%、長期間(242日目)で60%の感染防御効果を示した。伝播阻止(TB)効果について、免疫マウスの血清は、ブラジルアマゾン地域の三日熱マラリア感染患者の血液を使用した直接メンブレン法(DMFA)で95%以上の伝播阻止活性を示した。
熱帯熱・三日熱二価マラリアワクチンは、Pfs25-PfCSPおよびPvs25-PvCSP融合タンパクを発現するようにデザインされている。マウスモデルにおいて、PfCSP/PbおよびPvCSP/Pb遺伝子組換えスポロゾイトに対して70%の感染防御効果を示した。さらに、ブラジルアマゾン地域の三日熱マラリア患者の血液を使用したDMFAでは、90%の伝播阻止効果が確認された。二価ワクチンは単価ワクチンの組み合わせよりも優れており、7ヶ月以上にわたって免疫応答を維持し、マラリアの制御と排除に有望な結果を示した。
非ヒト霊長類モデルでは、m8/AAV ワクチンが安全であり、最低6ヶ月間、抗体の高いレベルを持続した。免疫サルの血清は、高いin vitroスポロゾイト中和活性(92-99%)および、強力な伝播阻止効果(99%以上)も示した。さらに、免疫サルの血清はMpoxに対しても強い中和活性を示しており、m8/AAVワクチンプラットフォームのもう1つの利点を示した。
我々のワクチンプラットフォームが動物モデルで三日熱および熱帯熱・三日熱の二価マラリアワクチンとして持続的な免疫を誘導し、高いワクチン効果を発揮することを立証した。今後の研究は、GMP製造、GLP-Tox-studyを経て、ヒト臨床試験に進む計画を立案する。
Investment
プロジェクト
感染防御・伝播阻止両機能を発揮する三日熱マラリアマルチステージワクチンの開発研究




