Investment

プロジェクト

妊娠マラリアワクチンの臨床開発
  • 受領年
    2021
  • 投資金額
    ¥469,292,404
  • 病気
    Malaria
  • 対象
    Vaccine
  • 開発段階
    Preclinical Development
  • パートナー
    愛媛大学 ,  コペンハーゲン大学 ,  フランス国立保健医学研究所 ,  Groupe de Recherche Action en Santé (GRAS) ,  野口記念医学研究所 ,  フランス国立開発研究所 ,  欧州ワクチンイニシアチブ(EVI)

イントロダクション/背景

1. イントロダクション

妊婦がマラリアに感染すると、妊娠マラリアと呼ばれる重篤な病状となり、毎年約1万人の妊婦及び20万人の乳児が死に到っています。そのため現在開発中のワクチンに加え妊娠マラリアを特異的に予防するワクチンの開発が必要です。本プロジェクトは、これまでヨーロッパとアフリカの研究者が共同で進めてきた2つの妊娠マラリアワクチン候補PAMVACとPRIMVACの開発をさらに進めます。PAMVACとPRIMVACは、既にサルの免疫原性試験や第1相臨床試験の結果から、安全性およびワクチン作製に用いた標準株原虫に対する抗体反応が確認されています。いずれも熱帯熱マラリア原虫が感染した赤血球が胎盤に付着する際に働くVAR2CSAと呼ばれる原虫タンパク質の組換えタンパク質を抗原としていますが、流行地にはVAR2CSAに変異を有する原虫が存在することから、変異株にもこれらのワクチンが対応できるよう最適化が必要です。

 

2. プロジェクトの目的

本プロジェクトは、妊娠マラリアワクチン開発を加速するために、以下のアプローチにより実施します。

目的1:ブルキナファソで実施したPRIMVAC臨床試験参加者をフォローアップすることにより、PRIMVACワクチンに対する免疫の持続性を検討します。

目的2:マラリア流行地の被験者にPRIMVACワクチンを投与し、VAR2CSA抗原に対する特異抗体がブーストされるか検討します。

目的3:ワクチンの新規投与法であるカプシド様粒子(CLP)を用いて、動物実験によってワクチン効果の増強を検討します。

目的4:PAMVAC及びPRIMVACワクチンによって誘導される抗体がVAR2CSA変異株にも交叉反応性を有するか、検討します。

これらは、妊娠マラリアワクチン開発の次の段階である大規模な第2相臨床試験に向けての方針決定に重要なエビデンスとなります。

 

3. プロジェクト・デザイン

一般に、組換えタンパク質を抗原に用いたワクチンによって誘導される免疫では、マラリアの防御には不十分とされています。しかし、これまでに我々はPRIMVACワクチンが持続的な免疫応答を誘導できることを明らかにしました。そこで、本プロジェクトにおいては、マラリア流行地の女性におけるPRIMVACワクチンによる免疫応答の持続性と、自然に獲得されていたVAR2CSA抗原に対する免疫応答のブースト効果を検証します。また妊娠マラリアワクチンによって誘導される免疫応答の、変異株に対する交叉反応性を詳細に解析します。さらに、PAMVACワクチンの改良版として、CLPを融合したPAMVAC-CLPワクチンを作製し、その免疫原性、交叉反応性、及びその持続性を検証する前臨床開発を進めます。

以上により、PRIMVAC及び PAMVAC-CLPの前臨床評価を実施し、妊娠マラリアワクチン開発方針を樹立します。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

妊娠マラリアの予防と治療は、長期残効型蚊帳と、SP合剤の間欠的予防投薬で実施されていますが、いずれも薬剤耐性の出現により難渋しています。また多くの場合、妊娠マラリアは無症状のため、妊婦は治療を受けません。そのためSP合剤を服用する初回の妊婦健診時には、既に母体と胎児は妊娠マラリアの影響を受けています。マラリアを完全に予防できるワクチンがあれば、妊娠マラリアも予防できます。しかし、第一世代のRTS,S/AS01ワクチンや、現在開発中のワクチンでは防御効果が不十分であり、その効果も数ヶ月で減衰するため、妊娠マラリアを予防できません。そこで、妊娠マラリアワクチンを開発できれば、妊娠初期における母体と胎児の命を救うことができます。青年期の女性に対する拡大予防接種計画、すなわち風疹や子宮頸がんワクチン接種キャンペーンに妊娠マラリアワクチンを追加できれば、簡便で費用対効果の優れた対策となります。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

持続的な抗体を誘導できる可溶性組換えタンパク質PRIMVACワクチンに加えて、UCPHが開発したCLP技術を用いて、妊娠マラリアワクチン性能の向上を目指します。また、CLP技術を用いて作製した新規妊娠マラリアワクチンおよびPRIMVACワクチンが、VAR2CSA変異型抗原に対する交叉反応性も上昇させることも期待できます。さらに、妊娠マラリアワクチンの流行地変異型VAR2CSA抗原に対する網羅的解析には、愛媛大学が開発したマラリアタンパク質発現に優れたコムギ無細胞タンパク質合成系を用います。さらに、ワクチンで誘導される免疫の持続性に関するエビデンスが得られることが、妊娠マラリアワクチン開発の加速に重要です。

各パートナーの役割と責任

EVIは、研究代表者としてプロジェクトマネージメントを担当します。愛媛大学は、VAR2CSA変異型抗原タンパク質を網羅的に作製し、ワクチンによって誘導される抗体の交叉反応性を解析します。UCPHはCLP技術に関するノウハウを保有し、PAMVAC-CLPワクチン製造、薬理毒性試験および第1相臨床試験まで担当します。Insermは、PRIMVACの発明者で、PRIMVACの提供、PRIMVACの免疫原性と防御免疫の解析を担当します。GRASは、PRIMVACワクチンによる免疫応答の持続性を検証する第1b相臨床試験と、自然に獲得されていたVAR2CSAに対する抗体の、PRIMVAC投与によるブースト効果を検証する第1b相臨床試験を担当します。野口記念医学研究所/IRDは、交叉反応性を向上させるための妊娠マラリアワクチン抗原のデザインとヒトでの抗体反応解析を担当します。

他(参考文献、引用文献など)

Mordmüller B et al. Clin Infect Dis. 2019 Oct 15;69(9):1509-1516.

Sirima SB et al. Lancet Infect Dis. 2020 May;20(5):585-597.

https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02658253

https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02647489