Investment

プロジェクト

Development of ELQ300 as a long acting antimalarial
  • 受領年
    2013
  • 投資金額
    ¥56,000,000
  • 病気
    Malaria
  • 対象
    Drug
  • 開発段階
    Preclinical development
  • パートナー
    武田薬品工業株式会社 ,  Medicines for Malaria Venture (MMV)

イントロダクション/背景

ELQ-300はMedicines for Malaria Venture(以下、MMV)が有する前臨床の候補化合物です。
ELQ-300は、卓越した薬剤治療プロファイル(低用量での治療効果あるいは低用量単回投与での予防・感染防止効果)を有していることから、優れたマラリア治療薬および予防薬となる大きな可能性を有しています。なお、本化合物は低溶解性のため、GLP(Good Laboratory Practice)安全性試験や臨床での使用に向け、十分な薬物曝露を可能とする製剤化検討が必要となります。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリア治療における最優先事項は、一度の薬剤投与によるマラリアの根治治療化学的予防を可能とするような次世代の薬剤を提供することです。
最終的には、マラリアに罹患しその症状が発現した患者の治療より、むしろ集団へのマラリア感染を予防することのほうが重要です。ワクチン接種により感染を防ぐことができる疾患とは異なり、マラリアの予防や感染の抑制は、キニーネによる治療が可能となって以来、化学的予防に依存してきました。

 

抗マラリア薬はマラリア原虫の異なるライフサイクルステージをターゲットとしています。一般的に抗マラリア薬は、妊婦、幼児やHIV、結核、栄養不良を併発している過敏な患者への投与において十分に安全が担保されている必要性があります。マラリアの化学的予防における現在のゴールドスタンダードは、アトバコン・プログアニル合剤およびメフロキンによる薬剤治療ですが、いずれも理想的な治療法とは言い難い状況です。

 

ELQ-300は効果持続性を有しており、薬物耐性の発現頻度という点でより優れた「新たな」アトバコンとなる可能性を秘めています。また、ELQ-300は、長年マラリア治療および化学的予防に用いられてきた薬剤との優れた併用薬剤となりうることが期待されます。

 

マラリアの化学的予防において、薬剤の投与頻度は重要な要素となります。
化学的予防薬は、最小有効濃度を上回る血漿中濃度を長時間にわたって持続する必要があり、1ヶ月に1回の投与頻度が理想的です。また、予防薬は健常人に投与するため、非常に高い忍容性が求められることに加えて、他の薬剤との交叉耐性リスクを極力避けるため、その国で使用されているマラリア治療薬とは異なるクラスの薬剤であることも必要です。

 

ELQ-300の開発は、マラリアの化学的予防の課題に挑戦対する挑戦であり、マラリアの根絶に貢献するものと期待されます。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

MMVと武田薬品は、ELQ-300の製剤化に向けた課題に取り組むため提携することにしました。武田薬品は業界最高レベルのCMC (Chemistry, Manufacturing and Control)の専門知識・技術を有していることから、武田薬品とMMVの専門知識および技術が集結することで、シナジーが生まれ、当該課題が解決できると考えています。本パートナーシップはELQ-300の製剤化を目的としていますが、将来的には次のステップ(例えばGLP安全性試験の実施)に進み、日本の薬事規制下でのELQ-300の開発および商品化に向けた長期的なパートナーシップにまで広がる可能性もあります。


ELQ-300は、化学的予防薬として、持効性を有する抗マラリア薬であり、薬剤耐性の早期形成が報告されている上市中のアトバコンと類似した作用機序ですが、同時にアトバコン抵抗性マラリア原虫に対する活性も有しています。ELQ-300は(化学的予防薬の理想的プロファイルである)持効性を有していることに加え、薬剤耐性リスクが低いことが特徴です。また、ELQ-300は速効性薬剤との併用による単回投与治療が可能となることも期待されます。

 

2012年の第3四半期にELQ-300の前臨床開発を開始しましたが、ELQ-300の主な課題は、水および等張液への溶解性が極めて低く、in vivo 薬物動態(DMPK)試験での高用量の吸収が不可能であるという点であり、これは、治療域に達する十分な血中薬物濃度が得られない原因ともなっています.

 

本パートナーシップにおいて、ELQ-300の製剤化検討と前臨床開発を同時に行うことにより、薬剤の安全域の確立、更にはヒトでの臨床試験の実施が可能となります。具体的には、脂質ベース製剤、共溶剤、アモルファス個体分散体等での製剤化が期待されていますが、その候補製剤が安全性試験やその後の開発に必要となる薬物血中濃度へ到達しているかについて、げっ歯類・イヌを用い検討していく予定です。

最終報告書

1.プロジェクトの目的

マラリアの治療は、薬物耐性の増加も鑑みて、新たな化合物の創出が喫緊の課題とされています。MMVと武田は、ELQ300の臨床試験に許容される製剤処方を開発することを目的に、武田のCMCの専門知識を使用し製剤化に際しての困難な問題解決に取り組んできました。

 

2.プロジェクト・デザイン

プロジェクトの主目的は、安全性を担保するための十分な暴露量を確保し、前臨床/臨床開発の継続を実現するための臨床的に許容しうる製剤の開発であり、達成した際にはキロベースの生産への移行を目指していました。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

ELQ300プロジェクトは、化合物の血中曝露量の増加をもたらす適切な製剤化に至らなかった時点で、2014年に中止しました。 プロジェクト期間中に特定された生物学的利用能(BA)を増加させる可能性のある製剤処方群は、プロジェクトチームが設定した基準(BA>20%)を満たさず、No goとなりました。 医薬品の開発において、ナノ懸濁液や脂質ベース処方等の製剤は、溶解性や溶解律速による吸収性などを改善するために使用されます。しかしながら、製品原価及び最終的な治療コストは未開発国や新興国向けの医薬品においては重要な要素であり、マラリア治療薬は手頃な価格である必要があります。MMVは治療あたりのコストを1ドル未満とする目標を掲げており、治療費を増加させる製剤開発の際には考慮する必要があります。 MMVはGHIT Fundから5600万円の投資を受けました。プロジェクト終了時点での3432万945円の未消化の資金はその契約に基づきGHIT Fundに返還致しました。