Investment

プロジェクト

顧みられない熱帯病 (Neglected Tropical Diseases) 創薬ブースターで特定したS07化合物群の内臓リーシュマニア症を対象としたリード最適化および前臨床候補化合物の選定
  • 受領年
    2020
  • 投資金額
    ¥225,744,281
  • 病気
    NTD(Leishmaniasis)
  • 対象
    Drug
  • 開発段階
    Lead Optimization
  • パートナー
    武田薬品工業株式会社 ,  Drugs for Neglected Diseases initiative

イントロダクション/背景

イントロダクション

GHIT Fundの支援を受け実施した顧みられない熱帯病 (Neglected Tropical Diseases) 創薬ブースター (以下「ブースター」) では、寄生原虫を抑制する新規化合物の特定と各種試験に取り組み、最終的に内臓リーシュマニア症の動物モデルでの十分な有効性と安全性を有するS07リード化合物群の特定に至りました。この化合物群の特定は、武田薬品工業株式会社 (以下「武田薬品」) およびDrugs for Neglected Diseases initiative (以下「DNDi」) の協働による成果です。S07リード化合物群の創薬化学による構造最適化と更なる研究開発プランに基づき、本プロジェクトでは、少なくも1つの最適化されたリード化合物を前臨床候補化合物として選定することを目指します。S07化合物群は合成化学の面から扱いやすく、構造活性相関 (SAR) が解明されており、これまで実施した広範なin vitro試験でも安全性の懸念は示されていません。

 

プロジェクトの目的

本プロジェクトの目的は、DNDiが定める、内臓リーシュマニア症の前臨床候補化合物として必要なプロファイル (Target Candidate Profile: TCP) を満たす化合物を、S07化合物群より創出することです。具体的には以下を目的とします。

1. 有効性の条件を満たす候補化合物の追加

2. S07化合物群の薬物動態/薬力学 (PK/PD) に影響を及ぼす因子の研究と特定

3. 予備的な化学・製造・品質管理 (CMC) 検討による化合物の開発支援

4. 臨床試験申請 (IND) に向けた前臨床候補化合物の特定

 

以下は本プロジェクトの目的の一部ですが、GHIT Fundの支援対象外です。

1. 骨格探索による少なくとも1つのバックアップ候補化合物群の特定

2. S07化合物群の作用機序 (MoA) の更なる解明

 

プロジェクト・デザイン

S07化合物群より前臨床候補化合物を創出するため、TCPを満たす可能性のある3-5個の最適化されたリード化合物を特定し、それらの詳細な分析により2-3個の有望な候補化合物を選定し、探索毒性評価により前臨床試験に進む最適な化合物を絞り込みます。

 

3-5種の最適化されたリード化合物を特定するため、以下を実施します。

a) 既にブースターで特定されたリード化合物のプロファイリング

b) ブースターで得られた構造活性相関 (SAR) の情報をもとに、現リード化合物の構造最適化を行い、新薬候補となり得る化合物を創出

 

上記と並行し、骨格探索による化合物群の探索、デザイン、合成、分析を進め、少なくとも1つのバックアップ候補化合物群を特定します。またS07化合物群の作用機序 (MoA) の更なる評価も行います。これらはGHIT Fundの支援対象外です。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

世界の10億人に内臓および皮膚リーシュマニア症の感染リスクがあると推計されています。年間5-9万人の内臓リーシュマニア症新規症例が推計され (1)、約1万人が死亡しています (2019年5,710人)。未報告例が多いものの、インド亜大陸と東アフリカ地域で特に蔓延し、2018年に世界保健機関 (WHO) に報告された新規症例の95%以上はブラジル、中国、エチオピア、インド、イラク、ケニア、ネパール、ソマリア、南スーダン、スーダンで見られました。(1)

現在、インドではアムホテリシンBリポソーム製剤が内臓リーシュマニア症の標準治療ですが、同剤は東アフリカ地域では有効でなく、5価アンチモン剤が依然、第一選択治療法の一部として使われ、非経口の投与方法、治療期間の長さ、毒性、および価格などの理由で著しい課題を抱えています。全ての蔓延地域のいかなる医療環境でも使用できる、アンチモン剤に替わる少なくとも1つの安全で、有効で、短期治療が可能な経口薬の開発が必要です。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

毒性の強いアンチモン剤単独療法に替わる内臓リーシュマニア症の新規治療として、過去20年間、アムホテリシンBリポソーム製剤、パロモマイシン、および/もしくはミルテホシンとの併用療法が開発され、安全性と忍容性や耐性の懸念に改善が見られましたが、これらの薬剤は依然、価格が高く、投与が難しく、しばしば長期投与が必要であり、また忍容性が低く、蔓延地域の高温な気候に適していない可能性があります。

新規の作用機序を持つ化学物質群から新たな薬剤候補を見出すことが必須です。それらは単剤での可能性だけでなく、DNDiが取り組む併用剤開発の一貫としても研究を進めていきます。S07の有望なモルホリン骨格を基にした新規候補により創薬パイプラインを強化し、他に開発中の候補薬剤との新たな治療オプションを提供することで、開発プログラムの成功確率を高めていきます。

各パートナーの役割と責任

本プロジェクトは武田薬品およびDNDiのプロジェクト責任者と研究者で構成されるチームによって実施されます。各種試験は武田薬品/DNDi、研究代表者、及び各協力機関の協働により遂行されます。

-       化合物デザイン: 武田薬品、DNDi/Epichem (オーストラリア)

-       化合物合成: TCG Lifesciences (インド)、Epichem

-       スケールアップのための合成経路探索: 武田薬品、DNDi

予備的CMC検討およびコンサルティング: 武田薬品

-       化合物スケールアップ合成: TCG Lifesciences

-       物理化学的性質、薬物代謝・薬物動態 (DMPK): 武田薬品、TCG Lifesciences、CDCO/モナシュ大学 (オーストラリア)、WuXi Apptec (中国)

-       安全性評価: Eurofins Discovery (フランス)

-       毒性試験: 委託先検討中

-       in vitro及びin vivo薬効試験 (L. infantumL. donovaniおよびLeishmania交差試験): DNDiが管理調整する協力機関 - アントワープ大学Laboratory of Microbiology, Parasitology and Hygiene (ベルギー)

他(参考文献、引用文献など)

(1) Leishmaniasis. WHO Fact Sheet; Updated 2 March 2020 http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs375/en/

最終報告書

1.プロジェクトの目的

GHIT Fundの支援により実施したNTD創薬ブースターで、DNDiおよび武田薬品工業株式会社(武田薬品)は、内臓リーシュマニア症の動物モデルにおける十分な有効性を有するS07化合物群を特定しました。本プロジェクトでは、DNDiが定める前臨床候補化合物として必要なプロファイル(Target Candidate Profile: TCP)を満たす化合物を、S07化合物群より創出することを目的としました。

2.プロジェクト・デザイン

以下の2つの戦略により、前臨床候補化合物の創出を目指しました。

 - NTD創薬ブースターで特定されたリード化合物のプロファイリングを完了し、TCPを満たす可能性のある3-5種類の最適化されたリード化合物を特定する。それらの詳細な分析により最大3種類の有望なリード化合物を選定の上、探索毒性評価を行い、前臨床試験に進む最適な化合物を絞り込む。

 - バックアップ候補化合物として、これまでに得られた構造活性相関(SAR)の情報をもとに、プロファイリングを行う新たなリード化合物を創出する。

3.プロジェクトの結果及び考察

まず、S07化合物群から十分な有効性を有する候補化合物の選定を拡充することに焦点を当てました。

 - 既存のリード化合物(DNDI0003578525、DNDI0003578526)のプロファイリング

 - 特定したリード化合物の後期リード最適化

 

ハムスターでの内臓リーシュマニア症感染モデルを用いた用量範囲探索・有効性試験とin vitroでの早期安全性試験により、DNDI0003578525 およびDNDI0003578526がTCPを満たす可能性のあることが更に確認されました。一方で、改善された特性を持つ他の類縁体は見つかりませんでした。そのため2021年12月に、DNDI0003578525 およびDNDI0003578526を探索毒性評価に進む化合物として選定しました。

 

これら2つの化合物のスケールアップは合成経路を最適化しても困難を伴い、プロジェクトの進捗に遅れが発生しましたが、その間を利用して先に初期の物理化学的プロファイリング(溶解性、結晶性、熱安定性、多形性)や毒性試験の委託先選定、生体試料中薬物濃度分析法の移行、ラットおよびイヌにおける最大耐用量の決定など、探索毒性評価のための予備検討を行うことで、2022年末にマイルストーンを達成することができました。

最大耐用量の決定とラットおよびイヌにおける用量設定試験の後、両種の主要臓器でのTK/病理組織学的試験を含む探索毒性評価(14日間)を行いました。DNDI0003578526は忍容性が高く、両種で無毒性量を決定することができました。一方で、DNDI0003578525は両種のいずれも無毒性量を決定することができませんでした。

以上の検討により、DNDI0003578526が前臨床IND-enabling 試験に進む候補化合物となり得ることが明らかとなりました。これは、専門家およびプロジェクトメンバーで構成される候補化合物選定会議でのデータのレビューを経て、正式に決定されます。

リーシュマニア症のグローバルな研究開発ポートフォリオに新たな候補を加えるという本プロジェクトの成功は、すべてのパートナーが協働し、責任を果たすことで実現しました。