Investment

プロジェクト

マイコラクトンを検出するブルーリ潰瘍迅速診断キット(BU-MYCOLAC)の開発と実用化研究〜早期診断と治療効果判定への応用に向けて
  • 受領年
    2020
  • 投資金額
    ¥183,610,773
  • 病気
    NTD (Buruli ulcer)
  • 対象
    Diagnostic
  • 開発段階
    Product Development
  • パートナー
    長崎大学, Drugs and Diagnostics for Tropical Diseases, Swiss Tropical and Public Health Institute, Foundation for Innovative New Diagnostics (FIND)

イントロダクション/背景

イントロダクション

ブルーリ潰瘍は、深い皮膚潰瘍を主病変とする「顧みられない熱帯病(neglected tropical diseases; NTDs)」であり、その外見、また長期に及ぶ治療から、罹患した者やその家族に、経済的そして心理社会的な多大な影響を及ぼします。ブルーリ潰瘍の病原菌であるMycobacterium(M.) ulceranは、マイコラクトンという毒素を産生する抗酸菌であり、この毒素が皮下脂肪織に浸透し壊死を起こすことで、深い皮膚潰瘍が形成されます。ブルーリ潰瘍は、アフリカに多い感染症ですが、世界33カ国以上の国からの報告があり、オーストラリア、フランス領ギアナ、そして日本でも症例が認められています。ブルーリ潰瘍による後遺症(外見変形、関節拘縮など)を防ぐためには、早期診断・早期治療が、現在ある唯一の方法です。確定診断はPCR法で行われますが、大きな機械等の設備が必要であり、多くの患者が住む地域から遠く離れたところでのみ可能です。早期診断のためには、もっと患者の近くで、もっと簡易に実施のできる診断法が必要であり、我々は、マイコラクトンを標的にした画期的なブルーリ潰瘍迅速診断キット(BU-MYCOLAC)を開発しました。検出を強化するために、新規的な磁性金ナノシェル、マイコラクトン特異的モノクローナル抗体、およびビオチン化プローブをキットに使用しています。本プロジェクトでは、プロトタイプのBU-MYCOLACの最適化、デザイン確定と製造、臨床評価を実施し、市場導入を提案します。

 

プロジェクトの目的 

本プロジェクトの目的は、マイコラクトンを標的としたブルーリ潰瘍のための迅速診断キットを開発し臨床評価を実施することで、特に医療の手が届かない地域に住むブルーリ潰瘍患者らの早期診断を可能とすることです。

プロジェクトの成功は、「顧みられない熱帯病に対するグローバル戦略2021-2030(NTDs Roadmap 2021-2030)」内のブルーリ潰瘍のための3つの達成目標:1) カテゴリー3(重症)の患者、10%以下、2) ブルーリ潰瘍の確定診断を受けた患者、95%以上、3) 満期の治療を受けた患者、98%以上への貢献が期待されます。

さらに、ブルーリ潰瘍の迅速診断キットは、これまでにまだ開発例がありません。我々の開発品が、第一号として、世界保健機関(World Health Organization; WHO)の承認を取得することを目指しています。

 

プロジェクト・デザイン 

本プロジェクトでは、1) まずはプロトタイプのBU-MYCOLAC迅速診断キットを用いて、多種多様な条件下におけるキットの運用特製の評価(ユーザー評価含める)を行い、2) キットを最適化し、デザインを確定し、製造への移管を実施、3)登録とCEマーキングを実施します。さいごに、4)正式な臨床評価を西アフリカの2カ国(コートジボワールとカメルーン)において実施し、市場導入を目指します。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

一人一人のブルーリ潰瘍患者が後遺症を残さずに完璧な治癒を遂げるためには、早期診断が一番の鍵を握るといっても過言ではありません。すなわち、診断はブルーリ潰瘍の疾病対策の中でも重要な位置を占めます。本疾患は経口抗菌剤での治療が可能であり、的確な、かつ、迅速な診断を、患者が住む地域レベルで実施できるようになることが現在期待されています。地域には、その他多種多様な原因で発症する皮膚潰瘍も多く、多くの医療者が、ブルーリ潰瘍との鑑別に苦慮を続けています。PCR検査に検体を送っても、結果が出るまでに24週かかることも少なくなく、その間に病巣は悪化し、難治となります。BU-MYCOLACキットは、このような悪循環を断ち、患者の早期診断・早期治療を可能とすることで、WHO の「顧みられない熱帯病に対するグローバル戦略2021-2030NTDs Roadmap 2021-2030)」の目標、特にその中でも「NTDsによる障害調整生命年(disability-adjusted life years; DALYs)の90%削減」達成への貢献が期待されます。さらに、医療の手がなかなか届かない遠隔地での診断を可能とすることで、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成にも貢献が期待されます。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

マイコラクトンは脂質親和性を示す非常に不安定な物質であり、その検出を可能とした点が最も革新的です。また、病原菌が生成するマイコラクトンをターゲットとしているため、診断のみならず、治療経過評価への応用も期待できます。これは、病原菌の存在の有無を確認する他の感染症のための診断検査と大きく異なる点です。ブルーリ潰瘍の治療は、現在どの患者に対しても2ヶ月の抗菌剤投与が推奨されていますが、治療経過の評価ができるようになることで、患者によっては治療期間の短縮化が期待、さらには、NTDsの治療としてはまだ他に例のない個別化医療への先駆けとなることが期待されます。

 

以下に示す2つの画期的な方法により、マイコラクトンの検出が可能となり、BU-MYCOLACのプロトタイプが作成されました。

・マイコラクトンに特異的なモノクローナル抗体の作成は非常に困難で、Swiss TPHにおける度重なる実験の末、作成されました。

・マイコラクトンをラテラルフローアッセイ(lateral flow immunoassays; LFIAs)で検出するためには、潰瘍表面から採取したスワブ綿棒を大量の液で溶解させ、それを濃縮してから、LFIAsに適応する必要があります。しかし、この方法はマイコラクトン濃度により結果が左右されやすく、それを防ぐために、DDTDがレポーターナノ粒子として磁性金ナノシェルの使用を導入しました。これにより希釈サンプル中からでもマイコラクトンの検出が可能となりました。また、このナノ粒子は非常に効率的に可視光を吸収するために、肉眼で結果を確認できるという特徴もあります。

各パートナーの役割と責任

Foundation for Innovative New Diagnostics (FIND): 本プロジェクトのコンソーシアムに対する全体の管理を担当し、RDTの登録とCEマーキングを開始し、NUと共に臨床評価に参画します。 

長崎大学熱帯医学グローバルヘルス研究科(NU):ブルーリ潰瘍蔓延国における活動を担当し、潰瘍からの臨床検体の採取、ならびにRDTのフィールド検証を実施します。また、検体の保存環境のアセスメント、フィールドと中央検査機関との結果の比較検討などを実施します。

Swiss Tropical and Public Health Institute (Swiss TPH): サンプル収集とマイコラクトン抽出のプロトコル確立、フィールドから送られる検体の検証(IS2404PCR、マイコラクトンELISA)を担当します。また、最終的に設計ロックされたRDTのパフォーマンスの評価を実施します。

Drugs and Diagnostics for Tropical Diseases (DDTD): ISO-13485:2016認定。フィールド検証で用いられるRDTを製造し最適化を担当します。また、設計ロックされたRDTを作成し、ISO13485規格に従って登録のための資料を作成します。

他(参考文献、引用文献など)

・Sarfo FS, Le Chevalier F, Aka N, Phillips RO, Amoako Y, et al. (2011). Mycolactone diffuses into the peripheral blood of Buruli ulcer patients--implications for diagnosis and disease monitoring. PLoS Negl Trop Dis. 5(7):e1237.

・Dangy JP, Scherr N, Gersbach P, Hug MN, Bieri R, et al. (2016). Antibody-Mediated Neutralization of the Exotoxin Mycolactone, the Main Virulence Factor Produced by Mycobacterium ulcerans. Plos Negl Trop Dis. 10(6):e0004808.

・Warryn L, Dangy JP, Gersbach P, Gehringer M, Schäfer A, et al. (2020). Development of an ELISA for the quantification of mycolactone, the cytotoxic macrolide toxin of Mycobacterium ulcerans. PLoS Negl Trop Dis. 14(6):e0008357.