Investment

プロジェクト

複数の原虫生活環へ効果を示す熱帯熱マラリア原虫リジルtRNA合成阻害剤の最適化研究
  • 受領年
    2020
  • 投資金額
    ¥353,873,865
  • 病気
    Malaria
  • 対象
    Drug
  • 開発段階
    Lead Optimization
  • パートナー
    エーザイ株式会社 ,  Medicines for Malaria Venture (MMV) ,  University of Dundee

イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリアは、世界の大部分、特に低中所得国において大きな被害をもたらしています。近年マラリアの感染者数と死亡者数は減少していますが、いまだ毎年40万人以上がこの恐ろしい病気で亡くなり、特にアフリカ大陸のサハラ以南における5歳未満の子供と妊婦の死亡が顕著になっています。マラリアの制圧には、新薬、蚊帳、殺虫剤、ワクチンなど、複数のアプローチが必要です。本プロジェクトでは、新たなマラリア治療薬として、リジルtRNAシンセターゼと呼ばれる酵素の阻害剤を開発します。この酵素は全ての細胞においてタンパク質合成を行うために不可欠であり、細胞における必須の構成要素といえます。我々は、病原体であるマラリア原虫のリジルtRNAシンセターゼを阻害する化合物を見出し、この阻害剤がマラリアの治療と予防のいずれにも効果を示す可能性があることを示しました。 

 

プロジェクトの目的

このプロジェクトでは、臨床においてマラリア治療に用いることのできる、より改善された化合物の創出を目的としています。とりわけ、単回投与でのマラリア治療に適した化合物を創出することを目指しています。 

 

プロジェクト・デザイン

プロジェクトにおいては、まず、単回投与での治療を達成しうる化合物を目指して最適化研究を実施します。次に、得られた化合物のより詳細なプロファイリングを行います。ここでは、in vitroでの一連の実験に加えて、マラリア治療に十分な体内濃度を獲得できるかどうかをin vivo薬物動態試験で解析し、同時に、この濃度で毒性が見られないことを確認します。その後、前臨床安全性試験に必要となる化合物の大量調製法について検討を行います。 

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

既存薬に対する耐性化が進んでいることから新薬を創出する必要があり、また、マラリアの制圧に向けては新しいツールが必要とされています。本プロジェクトでの標的に作用する化合物は、血液感染期における治療効果と、予防効果の両方に使用できる可能性があります。リジルtRNAシンセターゼ阻害剤は抗マラリア薬としては新規のメカニズムであり、2つの重要な利点があります。第一に、既存の抗マラリア薬に対して交差耐性を持つことはありません。第二に、併用療法のオプションとして新たな作用機序を提供します。今後の新規抗マラリア薬は全て併用療法となるため、併用の薬剤を選択するうえで作用機序の幅を広げておくことが重要です。予防投与はマラリア制圧の鍵となるものであり、予防効果のある薬剤は最も脆弱な集団、すなわち妊婦や子供たちにとって非常に有用なものとなります。 

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

リジルtRNAシンセターゼは、新たに見出された抗マラリア薬の薬剤標的です。この酵素について我々が有する知識を活用し、ヒトの酵素よりもマラリア原虫の酵素に高い選択性を有する化合物を創出することに成功しています。 

各パートナーの役割と責任

本プロジェクトにはダンディー大学およびエーザイ株式会社(エーザイ)、Medicines for Malaria Venture(MMV)が参加しています。

ダンディー大学は抗寄生虫薬の薬剤開発における幅広い経験を有しており、合成化学、計算化学、結晶学、酵素学、薬理学での試験を担当し、マラリアの単回投与による治療を目標として候補化合物を同定します。

エーザイは創薬における豊富な経験を有しており、薬物動態および安全性を含む化合物のプロファイリングおよび、代謝経路についての解析を行います。さらに、化合物の大量合成ルートの最適化、前臨床安全性試験のための化合物の合成、製剤検討を実施します。

MMVは抗マラリア薬開発における幅広い経験を有しており、様々な形態の原虫とマラリアの各段階において化合物の効果を確認する一連の高度なアッセイを実施します。これらの結果は、臨床おける投与量を予測するために重要なデータとなります。 

最終報告書

1. プロジェクトの目的

マラリアは、世界の広い範囲、特に低中所得国において大きな被害をもたらしています。近年マラリアの感染者数と死亡者数は減少していますが、いまだ毎年60万人以上がこの恐ろしい病気で亡くなり、その多くはサハラ以南のアフリカにおける5歳以下の子供と妊婦です。この病気に対処するには、新規治療薬、蚊帳、殺虫剤、ワクチンなど、複数のアプローチが必要です。本プロジェクトの目的は、単回投与でのマラリア治療に適した経口投与可能な化合物を創出することでした。

 

2. プロジェクト・デザイン

当初、本プロジェクトは、単回投与可能に改良された化合物を同定するための最適化研究に重点を置いていました。第二段階では、マラリア感染症治療に十分な体内濃度が得られることが可能かどうかを判断し、その化合物濃度で一般的な毒性が認められないことを確認するための実験が計画されました。また、最適な分子を十分に大量に調製し、その化合物がヒトの臨床試験に入るのに十分な安全性を有することを示すための毒性試験を行うことが計画されていました。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

このプロジェクトでは、新しいマラリア治療薬の候補として、リシルt-RNA合成酵素と呼ばれる酵素の阻害剤を開発しました。この酵素は、細胞内の必須構成要素であるタンパク質を作るのに不可欠なものです。私たちは、マラリアの原因となる寄生虫のこの酵素を特異的に阻害する化合物を開発しました。そして、この酵素の阻害剤が、マラリアの治療とマラリアの予防の両方に役立つ可能性があることを実証しました。最も有望な分子は、実験では、非常に低い濃度でマラリア原虫を殺すことができます。この分子に対して寄生虫が耐性を獲得するリスクは、比較的低いと判断しました。初期の安全性試験では、さらなる開発を妨げる安全性の懸念はありませんでした。非常に心強いことに、この分子は体内に長く留まり、ヒトでは1回の投与でマラリア感染を除去できると予想されました。一方、この分子には、経口投与後の吸収が悪いという大きな欠点がありました。マラリアの新しい治療法には経口投与が必要なため、この問題を克服することが今後の課題でした。 

この問題に対処するため、経口投与後の腸管吸収を改善することが知られている構造を持つ200以上の分子を準備しました。 しかし、これらの新分子の中にマラリアの単回投与治療薬としての条件をすべて満たすものは見いだせませんでした。この初期研究の方向性を諦め、体内に入るとリード分子に変化する修飾化合物を特定する別のアプローチに取り組みました。しかし、この新しいアプローチでは、リード分子の吸収率を高めることはできませんでした。プロジェクトチームは、この結果を踏まえ、代替戦略や選択肢を徹底的に検討した上で、このプロジェクトを終了することを決定しました。 

本プロジェクトは、エーザイ株式会社、Medicines for Malaria Venture、ダンディー大学のDrug Discovery Unitの3機関による共同プロジェクトでした。これら3機関の科学者は、抗マラリア薬の創薬に関する異なる分野の専門知識を持ち寄り、一体化したプロジェクトチームとして協力し合いました。このプロジェクトから得られた重要な知見は、今後の創薬研究に役立てるため、学術誌に掲載し、科学会議でも発表する予定です。