Investment

プロジェクト

長時間作用型抗マラリア薬としての DSM265 の開発
完了プロジェクト
 

イントロダクション/背景

DSM265は、Medicines for Malaria Venture(MMV)が有する臨床候補化合物であり、新規のマラリア原虫DHODH (ジヒドロオロト酸脱水素酵素) を選択的に阻害する薬剤として、現在、健常人を対象とした臨床第I相試験を実施中です。本薬は、マラリアの治療および予防を目的とした抗マラリア薬として期待されています。

 

DSM265は、マラリア原虫DHODHを選択的に阻害する薬剤であり、本プロジェクトでは、本薬を、現在アルテミシニン併用療法で用いられる4-アミノキノリン類またはアミノアルコール類の代替薬として開発することを目的にしています。4-アミノキノリン類やアミノアルコール類薬剤は薬剤耐性リスクを有すること、また必ずしも最適とは言えない安全性プロファイルであることから、DSM265は、その代替薬として期待される有望な化合物のひとつです。

 

MMVと武田薬品は、マラリア感染蚊に刺された健常人におけるマラリア予防を目的としたProof of Concept試験(Phase Ib)および感染予防を目的としたProof of Concept試験(Phase IIa)を実施することを目的とし、提携を開始しました。なお、2014年には、これら2つの試験におけるPOCが確認できる予定です。MMVと武田薬品のパートナーシップは、主としてMMVが主導で実施する臨床試験におけるものですが、日本の薬事規制下でのDSM265の開発および商品化に向けた長期的なパートナーシップの基盤と成り得る可能性もあります。

 

 

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリア治療薬の開発における最優先事項は、一度の薬剤投与によるマラリアの根治治療やその予防(SERCaP)を可能とする、次世代の薬剤を提供することです。ここで言う「根治治療」とは、肝での休眠期である休眠原虫(ヒプノゾイト)および無症候性生殖期即ち生殖母体を含む、全てのステージのマラリア原虫を患者から除去することを指します。新規の薬剤は、ある感染者から別の人への感染や三日熱マラリア原虫(P. vivax)および卵形マラリア原虫(P. ovale)による再発も防ぎ、意義ある治療後の予防(マラリア患者の治療により将来の感染も防げる)をも可能とする必要があります。抗マラリア薬は、妊婦、幼児やHIV、結核、栄養不良を併発している過敏な患者への投与において十分に安全が担保されている必要性があります。

 

DSM265は、アトバコンと同じ作用機序で、アトバコンよりも若干長い血中半減期(DSM265:104時間、アトバコン: 48-72時間)であると考えられます。同薬は、投与後24-48時間に作用が発現する遅効性の薬剤であるため、赤血球期マラリア治療のためには、速効性の抗マラリア薬と組み合わせる必要があると考えられます。現在承認されている抗マラリア薬は、アーテスネートのような速効性の治療薬とピペラキン、メフロキン、ルメファントリンのような遅効性、持続性の治療薬を組み合わせて使用します。これらの中には、その安全性のために使用制限(例えば、メフロキン)や1日2回投与を必要とする薬物動態(PK)プロファイル(例えば、ルメファントリン)を有する薬剤があります。DSM265の安全性プロファイルがメフロキンやピペラキンより優れ、またそのPKプロファイルにより1日1回投与治療薬として用いることが可能となった場合、DSM265は持続性マラリア治療薬を必要とする併用療法の代替薬となり得ます。更に、マラリア原虫の肝潜伏期に対する予防効果が証明された場合、マラリア流行国におけるマラリアの治療方法を劇的に変えると考えられます。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

SERCaPでは、3〜4つのマラリア治療薬を必要とすると考えられます。
• 速やかにマラリア原虫を除去する薬剤(標的候補プロファイル - TCP-1)
• 作用持続時間の長い薬剤(特に高度の流行地域において治療後の予防を可能とするため、1週間以上作用が持続することが望ましい)(標的候補プロファイル - TCP-2)
• マラリアの再発を予防する薬剤(標的候補プロファイル - TCP -3a)
• 伝播阻止する作用を有する薬剤(標的候補プロファイル - TCP -3b)

 

TCP-2とは、長い血中半減期で抗マラリア活性を有し、完全なマラリア原虫の駆除が可能である薬剤です。DSM265は、TCP-2に該当し、マラリア原虫除去率はTCP-1化合物ほどの速効性は期待できないものの、その血漿中薬物動態の結果により長時間の薬理活性半減期を有すると考えられます。DSM265は、ピリミジンのde novo合成およびマラリア原虫の成長に必須である酵素DHODHを阻害する新規トリアゾロピリミジン阻害薬であり、最近、初めてヒトでの臨床試験を開始しました。

DSM265は、げっ歯類マラリアモデルを用いた検討結果において、in vivoにおいて高マラリア活性を示し、ヒトにおいても低用量で有効性が示されています。また、動物において、最近では健常人において、低クリアランスで血中半減期が長いという薬物動態プロファイルを示しています。

 

現在、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)感染赤血球を接種した健常人に予想有効投与量を投与して、赤血球期の抗マラリア活性を調べています。

 

本検討により有効性を示すことができた場合、健常人への反復投与時のPKおよび安全性プロファイルを検討する試験の実施を予定しています。本投与計画は、マラリア流行国における間欠的予防治療を含むマラリア予防の効能取得に役立つ可能性があります。今後、健常人でのマラリア原虫スポロゾイトのチャレンジモデルにて、DSM265の肝潜伏期マラリア原虫の殺滅による予防効果活性を検討するとともに、ペルーにおける熱帯熱マラリア原虫および三日熱マラリア原虫感染マラリア患者を対象とした第IIa相/Proof of Concept試験を通じ、DSM265単回投与時の効果を検討する予定です。