Investment

プロジェクト

DNAクロマトグラフィーを用いた一体型ブルーリ潰瘍診断キットの開発
  • 受領年
    2020
  • 投資金額
    ¥89,558,400
  • 病気
    NTD(Buruli ulcer)
  • 対象
    Diagnostic
  • 開発段階
    Concept Development
  • パートナー
    慶應義塾大学 医学部・医学研究科 ,  株式会社 TBA ,  株式会社ファスマック ,  Raoul Follereau Institute Côte d’Ivoire ,  Institut Pasteur de Côte d'Ivoire ,  Hope Commission International ,  長崎大学 ,  帝京大学

イントロダクション/背景

イントロダクション

ブルーリ潰瘍は、西アフリカを中心として世界で年間約2,000例の新規患者が報告されている皮膚抗酸菌感染症です。池や川などの環境中の水系に存在する抗酸菌M. ulceransに感染することで子供に多く発症し、診断や治療が遅れると皮膚に広範な難治性潰瘍を形成し、治癒後も関節の可動域が制限されるなどの後遺症を残します。潰瘍はその他の原因による皮膚病変と区別することは困難な場合も多く、確実な診断のためには潰瘍から検体を採取してPCR法によって確定するしかありませんが、そのような高度な技術と高額な装置を必要とする検査法を患者が多く発生する西アフリカ地域で日常的に実施することは困難です。私達はこれまでに、高額な装置を用いずにM. ulcerans DNAを増幅する手段とDNAクロマトグラフィーによる判定法を確立したことから、それらの技術を組み合わせて新しい検査法を開発します。

 

プロジェクトの目的

顧みられない熱帯病の1つであるブルーリ潰瘍は、簡便な検査法が無いために診断や治療が遅れ、重篤な後遺症を残す例が多く存在します。世界保健機関(WHO)に報告されるブルーリ潰瘍の新規患者数は年間約2,000例程度ですが、これはこの疾患そのものが未だにあまり認知されていないので診断自体がなされていないという事実に加えて、適切な検査法が無いために正しく診断されること無く放置されたり、誤った治療が行われている例が多く存在している可能性を示しています。現在WHOが推奨する唯一の診断法であるPCR法を行うためには、高額な装置を備えた専門の検査室と高度な知識と技術を持った検査担当者が必要であり、患者が多い地域では実際的ではありません。本プロジェクトでは、どこでも誰でも検査可能なブルーリ潰瘍診断のための検査キットを開発します。

 

プロジェクト・デザイン

LAMP法などのDNA等温増幅法を行うためには、特殊な酵素や様々な試薬を正確な割合で検体と混合して反応させることが必要です。このプロジェクトでは、これらの試薬類を安定化した状態で固着乾燥させ、検体を加えるだけで反応が起こるような小さなキットを開発します。DNA増幅反応終了後に液を加えることで、増幅したDNAはクロマトグラフィーに展開し、M. ulcerans DNAが存在する場合は目視で確認できる線が現れます。検出感度はPCR法と同程度で、検査に必要なコストや時間が大幅に削減されたキットの開発を目指します。日本で開発したキットは、多くの患者が発生するコートジボワールで現地の医療スタッフに実際に使用してもらい、必要な改良を加えるなどして最終的なキットとして完成させます。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

ブルーリ潰瘍診断のための簡易検査キットが出来ることにより、疑わしい皮膚病変を有する患者を早期に診断し、WHOが推奨する抗菌薬で適切に治療することが可能となります。これにより、顧みられない熱帯病の1つであったブルーリ潰瘍に対して初めて適切な検査と治療を行うことが可能となり、それによって関節可動域に後遺症を残す子供達を減らすことにつながります。また、この診断キットによりブルーリ潰瘍が否定された症例も、その他の可能性が検討されることでより診断や治療の精度を上げることが出来ます。そのようにして、ブルーリ潰瘍だけで無くその他の皮膚疾患をかかえる患者を減らすことに貢献出来ます。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

これまで検査キットが存在しなかったブルーリ潰瘍に初めての検査法を提供します。その方法は特別な装置や技術を必要としない簡便なものであり、キットも室温で長期保存が可能であり、その保存のために冷凍庫や冷蔵庫も必要としません。これらを可能としたのは、試薬類を安定的に固着乾燥させる技術とともに、DNAの増幅を特別な装置無しに行われる技術を組み合わせたことや、その検出も簡単に目視判定可能なDNAクロマトグラフィーを用いたことなど、複数の技術の利点を組み合わせて全く新しい革新的な検査法を構築したことにあります。

各パートナーの役割と責任

帝京大学が中心となり、慶應義塾大学と協力してキットの開発に当たります。株式会社TBAおよび株式会社ファスマックは、DNAクロマトグラフィーやLAMP法に用いるプライマーの製造や必要な改良を行います。Hope Commission InternationalはRaoul Follereau Institute Côte d’IvoireおよびPasteur Institute Côte d’Ivoireと協力してコートジボワールにおける臨床検体の収集とキットの評価を行います。長崎大学はコートジボワールにおけるこれらの活動に対して必要な協力や支援を行います。

他(参考文献、引用文献など)

https://www.who.int/health-topics/buruli-ulcer#tab=tab_1

Suzuki K, Luo Y, Miyamoto Y, Murase C, Mikami-Sugawara M, Yotsu RR and Ishii N. Buruli Ulcer in Japan. In: Pluschke G., Röltgen K. (eds) Buruli Ulcer. Springer, Cham, 87-105, 2019. 

Yotsu RR, Suzuki K, Simmonds RE, Bedimo R, Ablordey A, Yeboah-Manu D, Phillips R, Asiedu K. Buruli ulcer: a review of the current knowledge. Curr Trop Med R 5(4), 1-10, 2018.

Scherr N, Bieri R, Thomas S, Chauffour A, Kalia NP, Schneide P, Ruf M-T, Lamelas A, Malathy SSM, Gruber G, Ishii N, Suzuki K, Tanner M,. Moraski GC, Miller MJ, Witschel M, Jarlier V, Pluschke G, Pethe K. Targeting the Mycobacterium ulcerans cytochrome bc1:aa3 for the treatment of Buruli ulcer. Nat Commun 9, 5370, 2018.

Yotsu RR, Murase C, Sugawara M, Suzuki K, Nakanaga K, Ishii N, Asiedu K: Revisiting Buruli ulcer. J Dermatol 42, 1-9, 2015.

最終報告書

1. プロジェクトの目的

顧みられない熱帯病の1つであるブルーリ潰瘍は、早期に診断や治療が行われないと大きな後遺症を残すことがあります。しかし、患者数が多い西アフリカを中心とする国々では、確定診断に必要なPCRのような高度な検査を実施するのは困難です。我々は、この点を解決するために、迅速診断キットの開発を行いました。

 

2. プロジェクト・デザイン

開発にあたっては、1)特別な装置や高度な知識あるいは技術がなくても、誰でも簡単に検査が可能であること、2)室温での長期保存が可能であり、検査結果がわかりやすい形で短時間で得られること、3)増幅された菌のDNAが外部に漏れ他の検体の検査結果に影響を与えないこと、の3つを要件として開発を行いました。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

私達は、ブルーリ潰瘍の起因菌であるMycobacterium ulceransのDNAを簡便に検出するキットの開発を行いました。先行する日本医療研究開発機構(AMED)の研究課題で、LAMP法によりDNA等温増幅を行い、DNAクロマトグラフィー紙で可視化する技術を開発済みでしたが、これは1.5 mLチューブ内で反応を行う方法であり一定の設備や技術を必要としました。また、LAMP法で増幅後のチューブの蓋を開けることで発生するエアロゾルによるコンタミネーションが大きな問題であることが良く知られていました。

これらの問題を解決するために、DNAの増幅から検出までが一つの閉鎖系の中で完結するall-in-oneタイプの小型POCTキットの開発を行いました。LAMP法の試薬類を担体上に固着乾燥させる技術を開発し、37℃で少なくとも1年間は保存可能であることを確認しました。3Dプリンターで作成したモデルで検証を行った結果、1時間以内にDNA増幅と検出が完了し、1個の菌体由来DNAを検出出来る感度であることを確認しました。

コートジボワールで臨床検体を用いた評価を行う予定でしたが新型コロナウイルス感染症蔓延のため渡航出来ませんでした。そこで、現地保健省や医療機関と連携し、医療従事者のトレーニングを行った上で、山間部農村地帯の集落を訪問して皮膚潰瘍部のぬぐい液検体の採取と日本への輸送を委託しました。それらの検体を測定したところ、事前の検討と同じ感度で検出出来ることを確認しました。

今後、更なる研究支援を得た上で、このキットを世界に無償配布するための枠組みを構築するとともに、量産に向けたキット内部構造の変更やそれに伴う反応条件の最適化などの検討を行う予定で準備を進めています。将来的には、multiplex検査法に拡充して他のskin NTDsを同時に検査可能なキットの開発を目指します。