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受領年2019
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投資金額¥96,077,193病気Malaria対象Vaccine開発段階Technology Platform Identificationパートナー東京医科歯科大学 , ペンシルベニア大学 , マヒドン大学
イントロダクション/背景
イントロダクション
三日熱マラリアは、アジア太平洋地域や中南米で流行しているマラリアです。アフリカで流行している熱帯熱マラリアとは異なり、蚊の吸血によりヒトに感染した後に、一部の原虫が肝臓内で発育を停止し肝内休眠型になることが特徴です。そのため、最初の発症が治癒した後、数ヶ月後に「再発」することがあり、これが三日熱マラリアの撲滅を困難にしています。通常の治療薬に加えて、肝内休眠型に対する治療薬であるプリマキンまたはタフェノキンを使用しますが、マラリア流行地の人々に多いG6PD欠損症の方に投与すると重篤な副作用がおこることが知られています。そこで、マラリア対策の切り札としてワクチン開発が求められていますが、実用化された三日熱マラリアワクチンはありません。
プロジェクトの目的
三日熱マラリア原虫のヒトから蚊への伝搬を阻害するワクチンの開発を目指します。Pvs25は、蚊の体内のマラリア原虫表面に発現するタンパク質で、それに対する抗体が蚊の体内で原虫発育を阻害することから、伝搬阻止ワクチンの候補抗原として着目されています。本プロジェクトでは、新規のmRNAワクチン技術を用いて、Pvs25に対する伝搬阻止抗体を実験動物に長期間十分に誘導する方法を開発します。
プロジェクト・デザイン
マヒドン大学と愛媛大学のこれまでのマラリアワクチン共同研究実績と、ペンシルバニア大学が開発した新規mRNAワクチン技術とを組み合わせて、三日熱マラリアに対する伝搬阻止ワクチンを開発します。ワクチン標的抗原として、これまで最も研究されてきた蚊ステージ原虫の表面タンパク質Pvs25を用います。Pvs25をmRNA-lipid nanoparticles (LNP)として動物に接種します。その際、抗原のデザイン、投与量、投与経路や時期、mRNAワクチンとタンパク質ワクチンの組合わせなど、様々な条件を比較検討し、最も有効なものを決定します。伝搬阻止効果は、タイ王国の感染患者血液中の三日熱マラリア原虫と免疫した動物の抗体を混合し、人工吸血法により蚊に吸血させた後、蚊体内で形成された原虫数によって評価します。また同時に、ワクチン効果のメカニズムを解析します。
本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?
マラリアは、依然として開発途上国における保健や経済に大きな負担となっています。WHOは、マラリアグローバル技術戦略(2016〜2030年)において、さらに35ヶ国からのマラリア撲滅を目標にしています。しかし、蚊に刺されなくても再発を起こす三日熱マラリアの対策は困難です。本プロジェクトで開発を目指す伝搬阻止ワクチンは、マラリア原虫保有蚊を減少させることにより、地域的なマラリア撲滅に貢献できます。
短期的には、本プロジェクトで、マウスに長期間持続可能な伝搬阻止抗体を誘導するPvs25 mRNA-LNPワクチンを開発します。ついで、サル、さらには最近マヒドン大学で確立されたヒト感染試験を用いて、ワクチン効果が検証できます。
長期的には、本伝搬阻止ワクチンと、開発中のPvCSP mRNA-LNP感染阻止ワクチンを組合わせることにより、ヒトから蚊、蚊からヒトへの両方のマラリア原虫伝搬を阻害するワクチンとして、三日熱マラリア撲滅に重要なツールとなることが期待されます。
本プロジェクトが革新的である点は何ですか?
これまでに、Pvs25タンパク質抗原を用いた第一相臨床試験が2回行われましたが、ヒトへの免疫原性が低く、一方強いアジュバントを用いると副作用が出て、開発に難渋していました。そこで、より強力かつ安全な新規ワクチン技術や投与法の開発が急務となっていました。本研究で用いるmRNA-LNPは、他の感染症に対するワクチンの基盤技術として、ヒトでの有用性が最近証明されました。そこで、mRNA-LNP技術を導入することにより、これまでのPvs25タンパク質ワクチンの欠点を克服し、長期間の強い伝搬阻止ワクチン効果の誘導が期待できる点が革新的です。
各パートナーの役割と責任
本研究は、タイのマヒドン大学、米国のペンシルバニア大学、愛媛大学の3機関が共同で行います。
マヒドン大学:研究代表者として、プロジェクトマネージメント、動物への免疫実験、タイの三日熱マラリア流行地における伝搬阻止効果測定実験、研究データの解析ならびに報告書の作成を担当します。
ペンシルバニア大学:Pvs25 mRNA-LNPワクチンのデザインと作製、およびそのワクチンコンストラクトによる培養細胞を用いたPvs25タンパク質の発現確認を担当します。
愛媛大学:独自のコムギ胚芽無細胞タンパク質合成技術を用いたPvs25組換えタンパク質を発現します。さらに、タイの三日熱マラリア流行地における伝搬阻止効果測定実験をマヒドン大学と共同で実施します。
他(参考文献、引用文献など)
WHO Global Technical Strategy for Malaria 2016-2030.
https://www.who.int/malaria/publications/atoz/9789241564991/en/
最終報告書
1.プロジェクトの目的
本プロジェクトは、アジア、オセアニア、東アフリカ、中南米に広く分布している三日熱マラリアに対するワクチンの開発です。本ワクチンは、マラリア原虫のヒトから蚊への伝搬を阻害し、マラリア患者や無症候性感染者を媒介蚊が吸血しても、蚊への原虫感染が阻害され、その結果地域全体から三日熱マラリアを排除できます。
2.プロジェクト・デザイン
流行地株に対して防御抗体を長期間誘導できるワクチンを開発するため、我々はPvs25を抗原とする複数のmRNAワクチンを作製し、マウスで免疫経路、投与量を検討しました。ワクチン効果は、タイの三日熱マラリア原虫株とPvs25 mRNAワクチン免疫マウス抗体を混合し、人工吸血装置で蚊に吸血させ、原虫感染阻止効果を測定しました。
3.プロジェクトの結果及び考察
Pvs25を抗原とする強力なmRNA-LNPマラリア伝搬阻止ワクチンを開発できました。このワクチンは、標的である蚊ステージ原虫を認識する抗体をマウスに誘導しました。このワクチンの2回筋肉内投与により、抗体は蚊への感染を100%阻止するレベルに達し、6カ月以上にわたって完全なワクチン効果を持続しました。このmRNAワクチンは、Montanide ISA-51をアジュバントに用いたPvs25タンパク質ワクチンよりもはるかに優れた性能を発揮しました。さらに、Pvs25 mRNAワクチンは、抗体誘導の持続に必要な免疫細胞も誘導できました。このプロジェクトにより、新しい三日熱マラリア伝搬阻止ワクチン候補が得られ、霊長類を用いたワクチン投与試験への準備が整いました。さらにこの研究は、mRNA-LNPプラットフォームを用いて従来のワクチン候補を最適化することにより、マラリアワクチン効果の大幅な改善が期待できることを示唆しています。
Investment
プロジェクト
新規mRNAワクチン技術を用いた三日熱マラリア伝搬阻止ワクチンの開発