Investment

プロジェクト

乳幼児用純国産マルチステージマラリアワクチン
  • 受領年
    2019
  • 投資金額
    ¥52,690,000
  • 病気
    Malaria
  • 対象
    Vaccine
  • 開発段階
    Concept Development
  • パートナー
    北海道大学 ,  自治医科大学 ,  富山大学 ,  ケンブリッジ大学 ,  金沢大学

イントロダクション/背景

イントロダクション

効果的なマラリアワクチンの開発には、使用環境を考慮してコールドチェーンを必要としない保存・保管方法および乳幼児に対する安全かつ効率的な接種方法が求められる。加えて、ワクチンの有効性を著しく損なう可能性のある宿主因子を考慮する必要がある。我々は、予想されるアフリカの乳幼児に特有の健康・環境要因から、特に腸管寄生虫感染と母親からの移行抗体がマラリアワクチンを開発する際に考慮すべき重要因子であると想定している。マラリアワクチン開発のもう一つの難点は原虫の遺伝子多型と突然変異である。これらはワクチン効果の劇的な低下を引き起こし、ワクチンの失敗につながる大きなリスクがある。最近の研究では、前赤内期原虫に対する感染防御効果と蚊への伝播を阻止する伝播阻止効果の両方を誘導できるワクチンは、感染地域でのマラリア発生率の著しい低下に導く強い相乗効果があることが報告されている。

 

プロジェクトの目的

アフリカの乳幼児に効果的でかつ生涯にわたりマラリア感染を防御し、さらに伝播阻止能力を有するマラリア乳幼児用ワクチンの開発を行う。このワクチンの特長は効果に加えて、使用される環境に適応してコールドチェーンを必要としない理想的なワクチンとなる。

 

プロジェクト・デザイン

マラリア原虫前赤内期と蚊期の両方の抗原を発現する2つのウイルスベクターワクチンを開発する。異種プライムブースト免疫法をマウスに行い、感染防御および伝播阻止効果は、実績のあるスポロゾイト感染チャレンジおよび直接膜吸血アッセイ(DMFA)によって評価する。異種プライムブースト免疫法は最適化(投与量 、投与経路、投与間隔、および非近交系マウス)する。感染防御とリンクする免疫マーカーの特定を行う。これは、感染防御率の測定を可能にする鍵となる。加えて、通常の液性・細胞性免疫応答も検証する。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

アフリカでのRTS,SフェーズIII臨床試験が残念な結果に終わり、WHOはマラリアワクチン開発の戦略方針を変更した。WHOが提示した新しいマラリアロードマップは、2030年までに次の2つの目標を達成することである。

(1)マラリア感染を少なくとも75%防御する効果を持つマラリア感染防御ワクチンの開発。

(2)マラリア感染の拡大を大幅に減らすために、マラリア原虫の蚊への伝播を阻止するマラリア伝播阻止ワクチンの開発。

この新しいロードマップを達成するためには、アフリカの乳幼児に対して、EPIワクチン、腸管寄生虫感染、移行抗体等からの干渉阻害を受けない新しい効果的なマラリアワクチンが必要である。我々のワクチンはこれらの問題を解決できるようデザインされた予防と伝播阻止の両方に効果的なマルチステージマラリアワクチンである。アフリカの乳幼児向けの次世代マラリアワクチンとして効果が十分に期待される。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

マルチステージワクチンは、1つのコンストラクトでマラリア原虫のライフサイクルのさまざまな段階をターゲットとするワクチンであり、シングルステージワクチンの混合物よりも費用対効果の高いワクチンを提供する。最も革新的な点は、感染防御と伝播阻止の両方に効果的な2価ワクチンであり、遺伝子変異と遺伝子多型によるワクチンの有効性を低下させる潜在的なリスクを克服する大きな利点を持っていることである。 2つのウイルスベクターワクチンで構成される2価ワクチンプラットフォームは、リコンビナントサブユニットワクチンを凌駕する強い細胞性免疫を誘導し、肝臓期マラリア原虫の排除に効果を発揮する。アフリカ乳幼児に特有の健康・環境要因をも克服し、さらにコールドチェーンも不要である理想的なワクチンである。我々のウイルスベクターワクチンは、未だマラリアワクチン臨床試験に使用されたことはない全く新規の独創性のあるワクチンである。

各パートナーの役割と責任

(1)金沢大学:プロジェクト統括と研究デザイン、ウイルスベクターワクチンの作製・製造、マウス免疫試験、免疫学的アッセイ、感染チャレンジテスト。金沢大学には、スポロゾイトに感染した蚊を使用して感染防御効果を評価できる洗練された施設がある。

(2)自治医科大学:ウイルスベクターワクチンプラットフォームの研究デザイン/相談および生産。

(3)北海道大学:ウイルスベクターワクチンプラットフォームの研究デザイン/相談および生産。

(4)富山大学:研究デザイン、免疫学的アッセイ。

(5)ケンブリッジ大学(英国):研究デザイン、マウス免疫試験、ブルキナファソでの伝播阻止実験。ケンブリッジ大学には、熱帯熱マラリア原虫のガメトサイト培養とマラリア患者からの血液サンプルを使用して伝播阻止ワクチンを評価できる高度な施設がある。

すべてのパートナーは、データの解析・評価について共同で実施する。

他(参考文献、引用文献など)

(1.)   World Health Organization (WHO). World Malaria Report 2019. Geneva: WHO; 2019 Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO.

(2.)   Sherrard-Smith E et al.:  Synergy in anti-malarial pre-erythrocytic and transmission-blocking antibodies is achieved by reducing parasite density. eLife 7,2018.

(3.)   Moorthy VS et al.: Malaria vaccine technology roadmap. Lancet. 2013 Nov 23;382(9906):1700-1. doi: 10.1016/S0140-6736(13)62238-2.

最終報告書

1. プロジェクトの目的

アフリカの乳幼児に効果的でかつ生涯にわたりマラリア感染を防御し、さらに伝播阻止能力を有するマラリア乳幼児用ワクチンの開発を行う。このワクチンの特長は効果に加えて、使用される環境に適応してコールドチェーンを必要としない理想的なワクチンとなる。

 

2. プロジェクト・デザイン

ワクシニアウイルスワクチン株LC16m8∆とアデノ随伴ウイルスAAVよりなる独自のワクチンプラットフォーム(m8∆/AAV)を技術基盤としてマラリア原虫前赤内期抗原と蚊期抗原の両方の抗原を発現する2種類のウイルスベクターワクチンを開発する。動物実験により感染防御および伝播阻止効果を検証する。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

感染防御・伝播阻止両機能を発揮する熱帯熱マラリアマルチステージワクチンm8∆/AAV-Pf(s25-CSP)を開発した。このワクチンは、ヒトで認可済みのウイルスベクター用いた安全性の高いワクチンである。ワクチン抗原として、スポロゾイト期抗原PfCSPとオオキネート期抗原 Pfs25をコードする遺伝子を導入した。マウスにm8∆初回免疫/AAV追加免疫でワクチンを接種し、PfCSP遺伝子組換えネズミマラリア原虫のスポロゾイトをチャレンジ感染したところ、100%の完全防御効果を示した。ブルキナファソの熱帯熱マラリア患者の感染血液を用いたDirect Membrane Feeding Assayでは、100%の伝搬阻止効果を示した。さらに、ワクチンによって誘導された抗体価は7カ月以上持続し、複数回のスポロゾイト暴露に対しても完全な防御を示した。

ヒトに近い霊長類モデルでワクチンの安全性、抗原性、ワクチン効果を検証した。ワクチンをアカゲザル4頭に接種後、採血した血液の生化学的検査では異常値は全く現さず、高い安全性が立証された。ワクチンによって誘導された抗体価は6カ月間高い値を維持していた。重要な結果として、その抗体価には強い抗スポロゾイト中和活性および伝播阻止活性が含まれていた。

m8∆/AAVワクチンは潜在的にサル痘ワクチンとしても機能すると予想し検証を行った結果、ワクチン接種サル血清には抗サル痘ウイルス中和活性が含まれることが明らかとなった。我々のワクチンの優位性がまた一つ示された。

我々のワクチンはマウスモデルおよび霊長類モデルで高い感染防御・伝播阻止両効果を立証することに成功した。さらに2回接種で長期間に渡って高い抗体価を維持し続けたことはヒトでも生涯にわたって有効な感染防御効果と伝搬阻止効果を発揮できる可能性がある。今後は臨床試験に向けてGMP製造〜非臨床安全性試験を実施する。