Investment

プロジェクト

マラリアワクチン開発を加速する候補抗原の新規検証法
  • 受領年
    2013
  • 投資金額
    ¥59,139,656
  • 病気
    Malaria
  • 対象
    Vaccine
  • 開発段階
    Technology Platform Identification
  • パートナー
    愛媛大学 ,  株式会社セルフリーサイエンス ,  PATHマラリアワクチンイニシアティブ

イントロダクション/背景

マラリアは、人類に重大な影響を及ぼす世界的な保健課題の1つです。蚊で媒介されるこの寄生虫病は、発展途上国において死亡者数、患者数ともに上位を占め、毎年世界で数億人が罹り、死亡者数も百万人におよんでいます(1)。現在流行地でのマラリア対策としては、治療薬に加えて、媒介蚊に対する対策として蚊帳や殺虫剤も有効ですが、マラリア撲滅に必須なワクチンは未だありません。最も開発が期待されているワクチンは、感染阻止ワクチン(PE-V)と呼ばれており、蚊からヒトへの感染を防ぐワクチンです。従来のワクチン開発では、多人数の被験者を必要としていたため、ほんのわずかのPE-V候補しか臨床試験まで進んでいませんでした。最近、監視下におけるマラリア感染(CHMI)法という、新しい臨床試験法が開発され、PE-Vの臨床試験が少人数の被験者で迅速に実施出来るようになりました。そこで、PE-V候補の探索が急務となっています。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリアワクチン開発の現在の課題は、新規ワクチン候補の迅速で安価な探索法の確立です。PATHマラリアワクチンイニシアティブはCHMI法を含むPE-Vの臨床試験の経験を、愛媛大学はWGCFSを用いたマラリアタンパク質合成とマラリアワクチン研究の経験を、株式会社セルフリーサイエンスは、WGCFSの技術開発やスケールアップの経験を、いずれも豊富に持っています。そこで、この3者のパートナーシップは、世界に先駆けて新規PE-V候補の探索とその前臨床試験を実施するのに最適な組合せです。もしこの研究が成功すれば、従来のマラリアワクチン開発法に比べて迅速かつ安価に新規PE-V候補抗原を見つけることができるため、新規PE-Vの開発を加速し、マラリア撲滅対策が推進できます。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

このプロジェクトでは、WGCFSで作製した高品質マラリアタンパク質と、それを用いて作製した単クローン抗体、その抗体を用いてマラリア原虫感染阻止効果を測定することにより、CHMI法による臨床試験に向けたPE-V候補抗原の絞り込みが、迅速かつ安価に達成できるところが革新的です。

 

これまでの愛媛大学の研究では、他の方法では合成が難しいことで有名なマラリアのタンパク質を、WGCFSを用いれば短時間でmgレベルの可溶性タンパク質を得ることができ、しかもそれはマラリアのタンパク質が持つ本来の形を再現できています。したがって、WGCFSは素早く多数のマラリアワクチン候補抗原を高品質に作製する方法として最適と考えられます。そのため、この抗原を用いて作製した抗体も高品質で、ワクチン候補抗原の選択のみならずその後の開発研究にも有用です。

他(参考文献、引用文献など)

1. World Health Organization (WHO). World Malaria Report. Geneva: WHO; 2012.

最終報告書

1. プロジェクトの目的  

マラリアは、人類に重大な影響を及ぼす地球規模保健課題の1つです。マラリアの流行を止めるマラリアワクチン(VIMT)は、マラリア撲滅に必須ですが未だ実用化されていません。そのうちの感染阻止ワクチン(PE-V)は、蚊からヒトへの感染を防ぐワクチンです。しかし、現在までに研究されているワクチン候補抗原はわずかでした。そこで、本プロジェクトは新たなPE-V候補を効率的に探索することを目的に実施しました。  従来、マラリアワクチンの臨床試験は、流行地において多人数の被験者を必要としていたため、これまでほんのわずかのPE-V候補しか研究されていませんでした。最近、監視下におけるマラリア感染法(CHMI)が開発され、PE-Vの臨床試験が少人数の被験者で迅速に実施できるようになりました。

 

2. プロジェクトのデザイン

本プロジェクトでは、PATHマラリアワクチンイニシアティブ、愛媛大学、株式会社セルフリーサイエンスが共同で、高品質なマラリアタンパク質を合成出来るコムギ胚芽無細胞タンパク質合成法(WGCFS)を用いてPE-V候補になりうる原虫タンパク質を合成し、動物で作製した抗体の原虫感染防御作用を測定することにより、PE-V候補抗原を同定しました。

  

3. プロジェクトの結果及び考察

WGCFSを用いることにより、23種の新規マラリア抗原を合成することに成功しました。それらをマウスに免疫して得られたポリクローナル抗体を用いて、マラリア原虫への結合の有無、ならびに培養細胞に対するマラリア原虫の侵入阻害活性を測定しました。それらの結果を総合して、13種類のPE-V候補抗原を選択しました。これらの抗原は、ヒューマナイズドマウスを用いてヒト型単クローン抗体を作製する際の免疫抗原として用いる予定であり、上記と同様の方法で効果判定されます。その結果により、CHMIで効果判定するヒト型単クローン抗体を2017年上旬に決定する予定です。  このストラテジーは、CHMIを利用することによって臨床開発の初期段階でヒトの中での抗体の効き目を確認することができるため、ワクチン候補抗原の選択が適切にできるため、新規マラリアワクチン開発を加速できます。また、活性のあるヒト型単クローン抗体は、新規ワクチン抗原を生産する際の、抗原デザインや品質管理にも非常に有用と考えられます。