Investment

プロジェクト

新規抗マラリア薬としてのnucleoside sulfamate化合物の研究開発

イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリア感染症は、熱帯熱マラリア原虫によって引き起こされる衰弱性疾患である。毎年2億人もの人々が感染し、およそ40万人の感染者を死に至らしめている。安全でかつ即効性があり、熱帯熱マラリア原虫の形質変換の各ステージ、そしてすべてのマラリア寄生虫種に対して有効で、さらに治療および予防の両面に適した単回投与で効果を示す新規抗マラリア薬の開発が急務である。今回我々は、これらの要件を満たす可能性のあるnucleoside sulfamate化合物群を特定した。その中でも有望な化合物は、生体内での半減期が長く、マラリア原虫に対し非常に強い阻害活性を示し、さらに、ヒト細胞に対して低毒性である。また、マウスモデルでの単回投与薬効試験でも良好な結果をもたらしている。

 

プロジェクトの目的

本投資案件は、MMVで設定されているリード化合物最適化ステップに進むための条件に見合う化合物を創出するために、nucleoside sulfamateシリーズの初期リード化合物探索研究を行うものである。

特に本投資案件は以下の事を目指す:

i.抗マラリア原虫活性、及びヒトに対する高い選択性を維持しながら経口バイオアベイラビリティの向上を目的とした創薬研究に着手する。

ii.熱帯熱マラリア原虫のそれぞれ異なる形質変換ステージに対する評価試験プラットフォームにおいて、経口投与可能なnucleoside sulfamate化合物の阻害活性の詳細な分析を行う。

iii.熱帯熱マラリア原虫のSCIDマウスモデルにおいて、nucleoside sulfamate化合物の有効性、また経口バイオアベイラビリティの許容性を実証する。

iv.抗マラリア原虫活性の作用機序の確証、ならびに既存治療薬耐性種への可能性を解明する。

 

プロジェクト・デザイン

Nucleoside sulfamate化合物の標的分子は、チロシンtRNAシンテターゼと呼ばれるタンパク質合成に重要な酵素と同定された。この標的酵素は、ヒトおよび熱帯熱マラリア原虫において活性部位構造の相違が認められており、本化合物群は高選択的に熱帯熱マラリア原虫阻害活性を示す。生理活性評価試験や、経口バイオアベイラビリティの向上を目指す創薬化学をサポートするためのより精査された一連の評価試験を確立し、阻害活性能や人に対する選択性を保持した医薬品に適した物性を有するnucleoside sulfamate化合物を創出する。我々は、良好な薬物動態特性(経口バイオアベイラビリティ、低クリアランス、長い半減期、良好な溶解性、そして適した脂溶性)が獲得できるものと期待し、本出資案件の一年間において、熱帯熱マラリア原虫の3D7細胞を50%成長阻害薬物濃度が100nM以下で細胞成長を阻害し、且つラットで25%以上のバイオアベイラビリティを示すnucleoside sulfamate化合物を創出する。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

近年のマラリア治療は、アルテミシニン併用療法に大きく依存している。アルテミシニンは生体内での半減期が非常に短いため、アルテミシニン併用療法は治療コンプライアンスの低い条件下で3日に及ぶ投薬計画が必要とされる。その結果、高確率で期待する治療結果が得られず(1)、更には既存の抗マラリア薬に耐性を示すマラリア感染を引き起こす重大なリスクを招いてしまう。本プロジェクトは、安全かつ高い効果を有し、そして治療、予防の両方に適した新規抗マラリア薬の開発を目指す。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本プロジェクトは、武田オンコロジーにおいてnucleoside sulfamates化合物を用いた抗がん剤開発に長年従事した創薬化学の専門家(ゴールド博士、ディック博士)、マラリア寄生虫学の専門家(ティルリー教授;構造生物学、生化学)並びに製品開発パートナー(ブランド博士、バウド氏;MMV)との共同研究で行われる。本研究における革新的な面は、マラリア原虫のすべての形質変換ステージにおいて効果を発揮する新規標的の探索である。

各パートナーの役割と責任

武田オンコロジー所属のゴールド博士が本プロジェクトの統括を担う。さらに新規nucleoside sulfamate化合物のデザイン、分析を行う創薬化学チームを指揮する。メルボルン大学のティルリー教授、ジー博士のグループは、種々の活性評価試験、組み換え熱帯熱マラリア原虫tRNA合成酵素の供給、活性の作用機構の解明、nucleoside sulfamateに抵抗性を示す寄生虫などの重要なツールの開発を行う。MMV所属のブランド博士は、戦略面ならびに創薬の専門的なアドバイスを提供する。また、最先端の活性評価試験の利用や専門的アドバイスを提供するMMV内パートナーと各チームとの情報共有を図る。MMVコンサルタントであるディック博士は、長年にわたる製薬企業での経験を生かし、専門である生化学の知識、学術的なアドバイスを提供する。バウド氏は、物資や化合物管理、アッセイ等の実務業務の調整を行う。

他(参考文献、引用文献など)

(1)van der Pluijm RW, Imwong M, Chau NH, Hoa NT, Thuy-Nhien NT, Thanh NV, et al. Determinants of dihydroartemisinin-piperaquine treatment failure in Plasmodium falciparum malaria in Cambodia, Thailand, and Vietnam: a prospective clinical, pharmacological, and genetic study. Lancet Infect Dis 2019 Jul 22.

最終報告書

1. プロジェクトの目的

ヌクレオシド・スルファミン酸塩の寄生虫スクリーニングから選択的なヒット化合物を開発し、MMVの早期リード基準を満たす化合物を提供する。またそのターゲットを原虫細胞質内チロシンtRNA合成酵素(PfYRS)と実証し、化合物の寄生虫学的プロファイルを検証し、薬効と選択性に影響を与える構造的・生化学的要因を理解する。

 

2. プロジェクト・デザイン

X線結晶学を用いた構造研究と連携したメディシナルケミストリーにより、薬効と選択性を向上する。また、in vitro(細胞および生化学的)およびin vivo評価系を用いて、薬効と選択性、寄生虫学的プロファイルを決定し、阻害メカニズムを理解する。また耐性変異体を用いて標的をYRSとして実証し、耐性リスクを評価する。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

一連のピラゾロピリミジンリボーススルファミン酸塩(ヌクレオシドスルファミン酸塩)を合成し、その特徴を明らかにした。薬剤耐性株を含む、試験したすべてのP. falciparum株の血液段階の培養物に対して、ナノモルレベルの強い薬効を示す化合物を同定した。リード候補化合物であるMMV1793207(ML471)は、TCP1(迅速な血液段階)、TCP4(化学的保護)及びTCP5(伝達遮断)の可能性を示した。耐性発現のリスクについては、リード候補化合物の1つはMMVの基準を満たしていたが(MIR=7)、もう1つの候補は基準を下回っていた(MIR=6)ため、さらに検討する必要がある。

生化学的検討により、寄生虫の死滅はタンパク質翻訳を阻害することによって起こることを明らかにした。ターゲットであるPfYRSはアデニル酸形成酵素であり、活性化されたアデニル酸中間体を持っている。我々はPfYRSがスルファミン酸ヌクレオシドとアミノアシルtRNA酵素産物との反応を触媒し、スルファミン酸ヌクレオシドと基質のチロシンとの安定した結合体を生成し、この結合体が酵素と非常に強固に結合することでその活性を阻害することを明らかにした。構造学的、生化学的研究により、ヒトと比較してPfYRSが選択的に阻害される根拠が明らかになった。

ML471は、哺乳類細胞株と比較して50,000倍以上の選択性を示した。本薬をSCIDマウスを用いたP. falciparum malariaモデルにおいて100mg/kgの単回経口投与で試験した結果、良好な忍容性と治癒効果を確認した。このシリーズは、MMVが決定した早期リード基準を満たした。

経口バイオアベイラビリティを向上させるため、我々は透過性の向上、LogDの増加、水素結合供与体の数の減少(または内部結合によるマスキング)によって吸収を促すというメディシナルケミストリー戦略を追求した。さらに研究を進めることで、ラットの経口バイオアベイラビリティーが30%以上の化合物を発見できると期待しており、そうなれば、我々はGHITにリード最適化のための資金を申請することが出来ると考えている。