Investment

プロジェクト

唾液を用いた無症候性および無性生殖体マラリアの迅速検査(SMAART-1)の商業開発
  • 受領年
    2019
  • 投資金額
    ¥138,269,665
  • 病気
    Malaria
  • 対象
    Diagnostic
  • 開発段階
    Product Development
  • パートナー
    株式会社セルフリーサイエンス ,  株式会社フロンティア研究所 ,  Oasis Diagnostics Corp. ,  ERADA Technology Alliance, Ltd. ,  フロリダ大学

イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリアは、世界の人口の3分の1が病気の危険にさらされており、依然として世界の主要な健康被害です。重要なことは、特にサハラ以南のアフリカでは、5歳未満の子供の主な死因であることです。マラリアの撲滅とそれに向けた取り組みは近年停滞しており、世界保健機関のマラリア撲滅に関する戦略的諮問グループは、現在の検査法の限界を克服するための検査法の改新を要求しています。マラリア迅速診断検査(Rapid Diagnostic Tests: RDT)はマラリア根絶の重要なツールでしたが、最近の研究では、熱帯熱マラリア原虫の変異体が出現し、現地にてマラリア感染を確認するRDTの診断能力が制限されてしまうことが示唆されています。私たちのプロジェクトは、唾液または血液を診断材料として使用し、無症候性の症例を高い信頼性で診断するのに十分な感度を持ち、特に子供の診断スクリーニングを容易にするRDTを作製することにより、現行の問題点に対処します。

 

プロジェクトの目的

フロリダ大学は、マラリア原虫ヒスチジンリッチタンパク質-2(HRP-2)の様な現在使用されている寄生虫マーカーを代替出来る、新しい熱帯熱マラリア原虫タンパク質マーカー「PSSP17」を特定しました。 PSSP17タンパク質は感染した赤血球に存在し、臨床的および無症状の感染者の唾液中に可溶性分子としても存在します。プロトタイプテストを使用した最近のデータでは、このマーカーを使用すると、無症状のマラリア感染の子供を高い精度で判定できることが実証されました。この実証データに基づいた結果により、ケア(クリニック)およびニーズがある場所(村)において、マラリア感染の高感度検出のためのPSSP17ベースの商用RDTを開発および検証しています。

 

プロジェクト・デザイン

唾液ベースのマラリア無症候性および無性生殖体迅速検査(SMAART-1)の開発と検証のため、以下の3つの目標を提案します。

目標1 –唾液採取装置とラテラルフローイムノアッセイカセットを含むSMAART-1キットの設計と小スケール(2,000個)の製造。

目標2 –品質保証された医療機器‐PSSP17を捕捉および検出する熱安定性および高親和性組換えヒト化モノクローナル抗体を用いたラテラルフローテスト-製造条件の設定。

目標3 –マラリアの流行国であるコンゴ民主共和国(DRC)、または代替地域としてウガンダでの商用SMAART-1キットのテストと検証。これら研究において、SMAART-1 RDTの許容性、使いやすさ、感度、および信頼性が、マラリア検出で使用される最も感度の高い分子生物学的手法と比較されます。プロジェクトの最終目標は、SMAART-1キットが安全基準適合を示すCEマーキングを取得し、次いでWHO事前認証取得のためのすべての基準を満たすことです。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリア検出が必要とされる地域では、適切な治療方法を決定し、マラリア伝播の監視を拡大し、世界のマラリア流行地域全体で他のマラリア対策の有効性を評価することが不可欠です。現地でのマラリア検査は、現在RDTまたは顕微鏡を使用した古典的な血液検査のいずれかであり、顕微鏡で確認出来ない無症候性のマラリア感染を個々人に対して頻繁に迅速に検出することはできません。無症候性のマラリア感染者は臨床的所見がないため、医学的支援を求めていませんが、彼らは依然として寄生虫の重要な保有者であり、蚊を介したマラリア伝播における主要な要因となっています。マラリア撲滅戦略を成功的に導くには、これらの隠れた寄生虫保有層を発見し、タイムリーな治療とより良い健康状態を確保することが出来る改良診断法に決定的に依存します。 SMAART-1 RDTは、マラリア原虫種の中で最も一般的で致命的なP. falciparum(熱帯熱)マラリアに感染したすべての個体を確実に検出する必要な感度および特異性を提供することが想定されています。ただし、三日熱マラリア原虫もPSSP17タンパク質マーカーを発現するため、このRDTによる診断に潜在的な有用性があります。したがって、このテストは、WHOマラリアレポート2018で表明されているように、マラリアの撲滅の主要目標に対処出来ます:「迅速な診断と治療は、マラリアの軽度症例が重篤な疾患と死に発展するのを防ぐ、最も効果的な方法です」 。さらに、このキットは、WHOのマラリア2016-2030年の世界的な技術戦略の柱で示された目標(マラリア調査監視をコア介入に転換する)を達成するための、有効な技術であることが証明される可能性があります。 なぜならこのキットは携帯型であり、非常に高感度であることに加えて、キット使用のための臨床的または医学的なトレーニングを必要としないからです。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

マラリアを検出するための新しいマーカーは、既存のRDTが直面している検出限界を克服するために必要です。つまり、現行のRDTでは、サハラ以南のアフリカ全体に広がっていると推測される特定の熱帯熱マラリア原虫株を検出出来ないという問題があります。本開発により、感度が全体的に低く、偽陰性率が高いという現在のマラリアRDTの原理的な問題に対し補填することが出来ます。私たちのプロジェクトは、寄生虫に感染したヒトの唾液中に存在する熱帯熱マラリア感染の新しいマーカーを、非常に高感度で尚且つ分子生物学的手法に頼らずに検出することにより、現行のマラリアRDTの限界に取り組んでいます。このプロジェクトでは、高度な機器に依存しない蛍光検出技術を使用して、今までにない感度と高い信頼性で新しいマラリアRDTを開発、検証します。さらにこのキットにより、採血を必要とせず、唾液からのマラリア原虫感染の非侵襲的テストが初めて可能になります。この新しいテスト形式により、子供への適用が大幅に増加すると期待されます。

各パートナーの役割と責任

University of Florida:プロジェクト全体の管理および運営、ラテラルフローテストの設計、RDTの開発と事前テスト、コンゴ民主共和国またはウガンダでの性能および使用感評価のためのフィールド調査実施。

株式会社セルフリーサイエンス: ラテラルフローテストの最適化および最終的にSMAART-1キットのポジティブコントロールとして使用する組換えPSSP17タンパク質の生産。

株式会社フロンティア研究所: ラテラルフローカセット上のPSSP17の捕捉と検出のための組換えヒト化モノクローナル抗体のプロセス開発とスケールアップ生産。

Oasis Diagnostics Corp.: 唾液回収装置、ラテラルフローストリップおよびラテラルフローストリップカセットの設計と製造、およびフィールド評価とWHO事前資格認定。

ERADA Technology Alliance Ltd.: ラテラルフローカセット上でPSSP17の捕捉と検出に用いるヒト化モノクローナル抗体(2種)発現安定細胞株提供のための共同資金支援対策。 ERADAはSMAART-1テクノロジーの独占的ライセンスを保有しており、RDTがCEマーキングおよびWHOの事前認証の要件を満たすための保証責任を負います。

他(参考文献、引用文献など)

WHO Malaria Report 2018: https://www.who.int/malaria/publications/world-malaria-report-2018/en/

Malaria eradication: benefits, future scenarios and feasibility. Executive summary of the report of the WHO Strategic Advisory Group on Malaria Eradication: https://www.who.int/publications-detail/strategic-advisory-group-malaria-eradication-executive-summary

A saliva-based rapid test to quantify the infectious subclinical malaria parasite reservoir.

Tao D, McGill B, Hamerly T, Kobayashi T, Khare P, Dziedzic A, Leski T, Holtz A, Shull B, Jedlicka AE, Walzer A, Slowey PD, Slowey CC, Nsango SE, Stenger DA, Chaponda M, Mulenga M, Jacobsen KH, Sullivan DJ, Ryan SJ, Ansumana R, Moss WJ, Morlais I, Dinglasan RR.: Sci Transl Med. 2019 Jan 2;11(473). - Free access as PMC Article: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6441545/

最終報告書

1.プロジェクトの目的

主な目的は、唾液を用いたマラリア無症候性・無性生殖体用迅速検査法、通称 SMAART-1 テストの商業版の製造です。本テストはラテラルフロー方式で、5歳以上のヒトの唾液から、バイオマーカーであるPSSP17を蛍光により高感度検出し、不顕性のマラリア感染者の早期特定を行うことにより、疾病発生前の抗マラリア治療を可能にします。

 

2.プロジェクト・デザイン

2年間のプロジェクトと無償延長(COVID-19パンデミックのため)期間内に、イムノアッセイカセットのデザインと小スケール製造、CHO細胞による組み換えヒト化モノクローナル抗体(捕獲側/検出側)の製造、更にマラリア流行国であるコンゴ民主共和国において、SMAART-1キットの受容性評価(副次目的)を実施しました。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

本プロジェクトの成果として、製造とバリデーションのワークフローの確立、SMAART-1 商用ラテラルフローアッセイ(LFA)におけるバイオマーカーPSSP17 の機能性検証、迅速検査法の構築に使用するヒト-マウスキメラモノクローナル抗体の、製造規模拡張プロセスによる安定製造、更にコンゴ民主共和国で想定されるエンドユーザーにおいて、本検査の受容可能性が確定したことが挙げられます。

また、SMAART-1の安定性試験を行った結果、1~8℃および52℃で0日、7日、14日、21日間安定であり、その結果、偽陽性は確認されませんでした。但し、これらの成果が得られたにも関わらず、COVID-19のパンデミックが大きな障壁となり、無償延長期間中に研究を完了することができませんでした。200テスト分の商用テストキット(唾液採取装置なし)を作製しましたが、最終的な乾式のフォーマットでは、我々が当初報告した非商用の湿式フォーマットでの迅速テストの検出限界(LOD)と比較して、PSSP17バイオマーカー抗原の検出感度が著しく低下することが確認されました。捕獲・検出用に用いたモノクローナル抗体各々のエピトープが近接しているため、乾式のフォーマットでは抗体と、検出抗原であるPSSP17が結合した抗原-抗体複合体が形成されないという潜在的な問題が確認されました。よって、乾式のフォーマットでも想定するLODに到達させるため、PSSP17の立体構造上離れたエピトープに対する新たなリコンビナントキメラモノクローナル抗体の開発を提案しています。