Investment

プロジェクト

シャーガス病予防のための弱毒生ワクチンの創出、最適化ならびに前臨床試験 ~CRISPR/Cas によるCyp19遺伝子欠損クルーズ・トリパノソーマを用いて
  • 受領年
    2019
  • 投資金額
    ¥109,792,791
  • 病気
    NTD (Chagas disease)
  • 対象
    Vaccine
  • 開発段階
    Lead Optimization
  • パートナー
    長崎大学熱帯医学研究所(熱研) ,  オハイオ大学 ,  オハイオ州立大学

イントロダクション/背景

イントロダクション

クルーズ・トリパノソーマTrypanosoma cruziがヒトに感染するとシャーガス病が引き起こされる。慢性感染ではおよそ 20-30% に心臓の線維化ならびに心筋症が認められ、南米における感染に起因する心不全の主な原因である。シャーガス病は、主として持続感染者の移住により南米以外でも増加しており、少なくとも米国で30万人、世界では 800-1100万人が感染している。米国では感染した媒介昆虫(サシガメ)による20歳以下のT. cruzi感染者が増加している。感染者の同定と治療は困難を伴う。僅か2種の既存薬であるnifurtimoxとbenznidazoleが治療に使用可能であるものの、宿主から虫体を完全に除去するには薬効が不十分であり、また顕著な副作用のために使用が難しい。したがってT. cruzi感染を予防可能な安全なワクチンと優れた治療法の開発が喫緊の課題である。我々はT. cruziのサイクロフィリン19 (Cyp19)*の生化学的・生物学的解明を展開する過程でCyp19欠損株を作成した。その結果、Cyp19はT. cruziの感染性と病原性に不可欠であり、同分子が同症治療に適応可能な小分子阻害剤の潜在的なターゲットになりうることを証明した。Cyp19欠損T. cruziは動物で病気を引き起こすことはなく、一方モデルマウスへの繰り返し接種は急性シャーガス病を完全にコントロールし、Cyp19欠損T. cruziが有望な弱毒生ワクチン株となりうることを実証した。

*Cyp19:タンパク質分子中のプロリン残基のシス・トランス異性化を触媒するペプチジルプロリルイソメラーゼ Peptidylprolylisomerase:略称PPIase)であり、異性化酵素(イソメラーゼ)の一種である。

 

プロジェクトの目的

本研究開発の最終的な目的はヒトや動物で使用可能なシャーガス病に対する安全で極めて有効な弱毒生ワクチンを開発することにある。本プロジェクトの具体的な目的は1) CRISPR/Cas9編集技術によるCyp19遺伝子欠損T. cruzi株の創出、ならびに同株の特徴・安定性・安全性・毒性の検証、2) 同ワクチン株による誘導される防御免疫を担うT・B細胞応答の解明、3) マウスでの急性・慢性シャーガス病の予防効果、その持続期間、多様な株に対する交差防御の実証、 4) 免疫不全宿主での安全性、5) 昆虫ベクターを介した伝播リスクの検証、にある。

 

プロジェクト・デザイン

本プロジェクトは以下に示す明確な目的に従ってデザインされる

目的 1: CRISPR/Cas9編集技術を用いたCyp19遺伝子欠損T. cruzi株の創出ならびに同株の特徴・安定性・安全性・毒性の検証

目的 2: 同ワクチン株によって誘導されるT・B細胞応答のプロファイリング、防御免疫の決定因子の解明を通したワクチン戦略の最適化

目的 3: 同ワクチン株によるマウスでの急性・慢性シャーガス病予防効果の検証、防御免疫の持続期間、および多様な株に対する交差防御能の検証

目的 4: 同ワクチン株のサシガメの中での生存・増殖能、およびサシガメと動物間での伝播能の検証

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

本プロジェクトの成功は中南米に蔓延するシャーガス病のワクチン開発に直結する。シャーガス病は同地域における心不全の主原因であるので、本ワクチンは同症に起因する有病率と死亡率の低下に寄与する。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

予防ワクチンが現存しない寄生虫感染症に対してCRISPR/Cas技術を用いて遺伝子編集新規弱毒生ワクチンの開発と前臨床試験に取り組む点が革新的である。

各パートナーの役割と責任

McGwire博士 (オハイオ州立大学) はプロジェクト全体を統括し、規制当局による認可取得、法令遵守の確認、各パートナーへの予算配分、GHIT への進捗状況報告を行う。彼のラボはCRISPR/Cas9編集技術を用いたCyp19遺伝子欠損T. cruzi株の創出、マウスでの急性・慢性シャーガス病の予防効果、その持続期間、多様な株に対する交差防御の実証を行う。またSatoskar博士のラボと共にワクチン接種したマウスでの免疫応答を解析する。

Satoskar博士 (オハイオ州立大学) はMcGwire 博士によるプロジェクト統括を補佐し、ワクチンを接種したマウスでの免疫応答を解析すると共に感染実験を補完する。

濱野博士 (長崎大学) はワクチン株と野生株の日本への輸入許可を取得し、免疫不全マウスを用いた安全性試験を行うと共に、前臨床試験を監督・調整する。

Grijalva博士 (オハイオ州立大学and CIDR, Ecuador) はワクチン株と野生株のエクアドルへの輸入許可を取得し、CIDRでの研究を調整し、ワクチン株のサシガメの中での生存・増殖能、およびサシガメと動物間での伝播能の検証に参画する。

Villacis博士 (CIDR, Ecuador) はCIDRでのサシガメを用いた研究を統括する。