Investment

プロジェクト

内臓型リーシュマニア症の合併症を予防する免疫療法
  • 受領年
    2018
  • 投資金額
    ¥55,831,570
  • 病気
    NTD (Leishmaniasis)
  • 対象
    Vaccine
  • 開発段階
    Preclinical Development
  • パートナー
    東京大学 ,  International Center for Diarrheal Disease Research Bangladesh ,  Infectious Disease Research Institute

イントロダクション/背景

イントロダクション

リーシュマニア原虫Leishmania donovaniによって引き起こされる内臓型リーシュマニア症(VL)はインド亜大陸に広く見られる疾患です。脾腫や体重減少、貧血を主な症状とするVLは顧みられない熱帯病の中で最も多くの命を奪っています。古くから化学療法が治療に用いられてきましたが、副作用や薬剤耐性の問題を克服するために新しい治療法が探索されている現状です。これまで広く使用されてきたアンチモン製剤に代わる治療薬としてアムフォテリシンBやパロモマイシン、ミルテフォシンが使用されるようになってきました。しかしながら、3-30%VL患者で治療不全がみられ、その割合はHIV共感染症例では50-60%にもなります。また、VLにおいては再発や皮膚症状(PKDL)に時間を要することから、治療後も長期のモニタリングが必要となっています。

 

プロジェクトの目的

VL患者では、治療不全や再発、PKDL発症に対する対処法が効果的なマネジメントの鍵となります。私たちはこれまでに動物モデルにおいて有効な予防効果を示すワクチン候補を開発してきました。本プロジェクトでは、VLの合併症を防ぐ治療ワクチンとしてインド亜大陸(バングラデシュ)に適したワクチン候補の同定を目指し、動物モデルでの評価を行うことで、化学療法との併用による新たな免疫化学療法の確立を目指します。

 

プロジェクト・デザイン

VLに対する治療ワクチンの効果を最大限にするには、適切な抗原とアジュバントの選択が重要です。また、今回開発を目指す免疫化学療法においては、治療ワクチンが化学療法の効果を妨げることがないように設計することも大切です。そこで、本研究は主に3つの課題、つまり、1)VL患者におけるワクチン抗原の抗原性評価、2)ワクチンとAmBisomeの相互作用解析、3)長期感染モデルを用いた治療ワクチンの評価に取り組みます。本研究で良好な結果が得られたあかつきには、ヒトにおける臨床試験に向けた準備に取り掛かります。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

VLは熱帯、亜熱帯、地中海沿岸の広い地域で蔓延している疾患です。東アフリカやインド亜大陸においては、VLは主にL. donovaniの感染によって引き起こされます。VLの排除運動によって過去数年の患者数は減ってきましたが、不顕性感染者や再発症例、PKDLなどが本疾患の撲滅を阻んでいる現状があります。実際、VL患者の3.7%に治療後24か月以内の再発がみられ、PKDLにおいては東アフリカでは50%以上、インド亜大陸では10-20%のVL患者で治療後数か月以内に皮膚症状がみられます。しかしながら、VLの再発やPKDLを予防する有効な戦略はまだ開発途上です。さらには、AmBisomeによる単剤治療は薬剤耐性のリスクをはらんでいます。本プロジェクトでは治療ワクチンと化学療法を組み合わせた免疫化学療法の開発により、短長期的にVLの合併症やL. donovaniの伝播を制御することを目指します。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

免疫化学療法といった新たな治療法の開発につながり、従来の治療法で見られるVL患者治療後の続発症を減らす、もしくは未然に防ぐことが期待できます。

各パートナーの役割と責任

icddr,bはVL患者におけるワクチン抗原の抗原性評価を行うことで、免疫学的背景の異なる患者を広くカバーするワクチン抗原の選択に貢献します。IDRIは免疫療法と化学療法の併用による効果について評価を行います。治療ワクチンがAmBisomeの効果に与える影響を調べるのみならず、ワクチンによって誘導されるCD4陽性T細胞の応答が化学療法によって受ける影響を解析することにより、最適な免疫化学療法を確立します。東京大学では、独自のL. donovani長期感染モデルを用いて、これら免疫化学療法がVLの症状にもたらす効果について評価します。

最終報告書

1. プロジェクトの目的

VLの再発は24か月以内に治療を受けた患者の3.7%で発生しますが、PKDLは東アフリカのVL患者の> 50%、インド亜大陸で10〜20%で発生します。 PKDLの安全で非常に効果的な治療法は現在利用できず、治癒率60〜80%のミルテフォシン単剤療法では、治療後に16%がPKDLを再発します。 さらに、治療に単一の薬剤(AmBisome)を使用すると、耐性を発現するリスクがあります。 本研究提案は、L. donovani感染の合併症、および潜在的な感染に対する短期および長期の保護を提供するための免疫/化学療法レジメンを開発します。

 

2. プロジェクト・デザイン

本研究では、最新型のワクチン抗原(LEISH-F3、LEISH-F3 +)から適切なものを選択してアジュバント製剤と混合したワクチンについて、AmBisomeとの併用を含めて長期VLモデルにおける治療効果を評価することにより、以下に示す3つの具体的な目的の達成を目指している。

a。インド亜大陸のVL患者の免疫応答に基づく、好ましい抗原の選択

b。融合ワクチン抗原の個々の成分に対するT細胞応答の比較によって評価する、サブユニットワクチンとAmBisomeスケジュールの適合性、および免疫増強(または非干渉)をもたらすレジメンの特定

c。 症状と寄生虫数両者の評価による、最良の前臨床結果を提供する免疫化学療法スケジュールの特定

 

3. プロジェクトの結果及び考察

研究活動を通して、3抗原融合型のワクチン抗原LEISH-F3 +(N、SおよびC)、2抗原融合型のワクチン抗原LEISH-F3(NおよびS)、およびそれらのコンポーネントであるN、S、DCに対して、ほとんど全てのVL患者や再発者が血清中に抗体を有することが明らかとなった。PKDL患者においてはLEISH-F3よりLEISH-F3 +を認識する割合が高く、またその抗体価もLEISH-F3 +のほうが高いレベルで検出されました。 AmBisomeの存在下または非存在下で、TLR4Lを含む安定したエマルジョンとともにLEISH-F3またはLEISH-F3 +をマウスに免疫した結果、AmBisomeがワクチン投与による抗原特異的抗体や細胞性免疫の誘導に影響を与えないことが示唆された。さらなる研究により、TLR4L-SEによるアジュバント効果は、TLR7L-SEまたはTLR4L / TLR7L-SE同等またはより強いことも明らかになった。最後に、マウスを用いた長期疾患モデルに用いてワクチンを用いた免疫化学療法の効果を評価しました。このモデルにおいて、L. donovani感染3か月後に高用量アンビソームで治療されたマウスは、症状、原虫数ともに完全に改善してましたが、低用量アンビソームで治療された動物は不十分な治療結果を示しました。この化学療法にTLR4L-SEアジュバント添加LEISH-F3 +を含めると、低用量のAmBisomeの有効性が妨げられず、測定された症状の一部が改善されました。まとめると、これらの結果は、L. donovaniの影響を受けた個人の大部分における免疫認識パターンから、LEISH-F3 +がより好ましい抗原であることを示唆しており、またワクチンとAmBisomeの併用療法の適切性を示しています。非完全化学療法の動物モデルを用いた実験では、ワクチン+化学療法といった免疫化学療法がもたらす臨床的改善に関して、確固たる相乗効果などはまだ示していないですが、免疫化学療法を否定する結果も得られていません。加えて、この実験モデルでは再発やPKDLなどの効果の評価ができないため、それらに対する評価は今後行っている必要があります。