Investment

プロジェクト

MMVと大日本住友製薬株式会社による新規抗マラリア治療薬のためのHit-to-Lead研究

イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリアは、毎年2億人以上が感染する蚊が媒介する疾病である。2016年には世界で445,000人がマラリアによって亡くなり、その大部分は5歳以下の子供である(1)。既存薬耐性に対抗できる選択肢とマラリア根絶に向けた化合物を提供するために、マラリアライフサイクルのあらゆるステージに作用する新規抗マラリア薬の創生が早急に求められている(2)。

本プロジェクトは、GHIT Fundから研究資金提供を受け、大日本住友製薬の化合物ライブラリーから選抜された28,810化合物のスクリーニングを由来としている。スクリーニングは、MMVと提携関係にあるオーストラリア(責任者:グリフィス大学のVicky Avery教授)と米国(責任者:カリフォルニア大学サンディエゴ校のWinzeler教授)の試験センターにて、blood stage (asexual(3)およびsexual(4))とliver stage(5)に対する活性を指標に実施された。同時に、ヒト細胞に対する細胞毒性評価も実施された。その結果、複数の新規化合物群が見出され、2017年にはヒット化合物群の更なる活性プロファイリングおよび薬物動態、物理化学データの測定を行った。本プロジェクトは、現在4つの化合物群でHit-to-Lead研究を実施している。これらの化合物群はいずれもblood stageにおいて高い活性を示し、うち2つの化合物群においてはliver stageおよびgametocyte形成試験においても優れた活性を示した。

 

プロジェクトの目的

本プロジェクトの目的は、2019年4月までにスクリーニング段階で見出された4化合物群の中から、動物モデルにおいて有効性を示す化合物群(リード化合物)を少なくとも1つ見出すことである。リード化合物は、Lead Optimization(LO)研究に進むためのGHIT/MMVクライテリアを満たす必要がある。また、Hit-to-Lead研究期間中に、各化合物群のマラリアライフサイクルへの活性プロファイリングやTarget Candidate Profiles(TCPs)の確認も予定している。

 

プロジェクト・デザイン

プロジェクトの第一段階では、LO研究クライテリア達成を目指し各化合物群のプロファイル改善を検討する。例えば、マラリア感染モデルでの薬効、薬物動態特性(特に、代謝安定性と溶解度等の物性値)が挙げられる。また、化合物の作用機序解明も検討予定である。最優先化合物群は、マラリアライフサイクルにおける各薬理評価系によってTCPsの確認を行う(6)。最有望化合物については、げっ歯類PK試験およびヒトマラリア感染モデルでの評価を実施する。本プロジェクトの最終ゴールは、LO研究申請を可能にする複数のリード化合物を取得することである。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリアは生命を脅かす疾病の1つであり、年間約50万人が死に至り、その大多数がアフリカ諸国の子供達である。国際社会は、マラリアの撲滅という共通のゴールへ向けて切磋琢磨を続けており、この戦いにおいて新薬は必要不可欠である。現在の標準治療はアルテミシニン併用療法であるが、依然として大きな治療ニーズが存在する。例えば、安価で、安全で、より治療効果の高い新薬との併用が求められている。マラリア撲滅については、人から蚊への伝搬阻止や肝細胞期の駆除等、新たな特性をもつ抗マラリア治療薬が求められている。

MMVは広範なネットワークと協力し、マラリア感染症の治療だけでなく撲滅に必要な次世代抗マラリア治療薬特性を定義するTCPを確立している(6)。本プロジェクトは、以下の少なくとも1つのTCPを満たす化合物を創出することに焦点を当てている。

i)    病態症状を迅速に緩和するblood stageの早期原虫駆除

ii)    Plasmodium vivax やPlasmodium ovale感染患者の再発防止

iii)   gametocytoを標的とした蚊への感染を防ぐ伝搬阻止

iv)   感染しやすい地域にいる集団の再発防止を可能とする予防法

薬理プロファイル評価の結果、ヒット化合物群はこれらの1つあるいは複数のTCPを満たすポテンシャルを有する。持続的な薬効を示す開発化合物群を創出することが、Hit-to-Lead研究の目的の1つである。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

全てのヒット化合物群から、構造の新規性、マラリアライフサイクルへの活性特性(特にgametocyte形成、liver stageでの阻害活性)、MMVのポートフォリオ戦略、を基に優先順位付けを行った。本プロジェクトの化合物群が、GHIT/MMVクライテリア(7)を満たし、かつ、MMVポートフォリオ上にある化合物との差別化が期待できる時のみLO研究提案を実施するが、本プロジェクトにおいて見出しているヒット化合物群は全て既存および臨床試験パイプラインにある他の抗マラリア治療薬とは異なる化学構造である。

各パートナーの役割と責任

プロジェクトチームは、大日本住友製薬とMMVの創薬研究者、および、MMVネットワークの寄生虫学や薬物動態研究の専門家で結成される。大日本住友製薬の役割は、MMV、グリフィス大学、モナッシュ大学の研究者と共に創薬戦略立案、高次評価化合物の選抜、ヒット化合物群のプロファイリングを行うことである。MMVの役割は、大日本住友製薬と密に連携して本プロジェクトを統括し、プロジェクトの戦略立案、マラリア創薬研究のノウハウ提供を担う。また、MMVはGo/No Go判断に必要なデータ取得のために、MMVネットワーク上の提携パートナーとの橋渡しも担う。Vicky Avery教授(グリフィス大学)とSusan Charman教授(モナッシュ大学)は本プロジェクトにおける化合物のin vitroのblood stage薬効評価およびin vitro/in vivo薬物動態評価を実施するMMVパートナーであり、プロジェクトメンバーの一員である。

他(参考文献、引用文献など)

1. World Health Organization (WHO). WORLD MALARIA REPORT 2015. (2015). DOI:ISBN 978 92 4 156515 8

2. Wells, T. N. C., Huijsduijnen, R. H. Van, Voorhis, W. C. Van, van Huijsduijnen, R. H. & Van Voorhis, W. C. Malaria medicines : a glass half full ? Nat. Rev. Drug Discov. 14, 424–442 (2016).

3. Duffy, S. & Avery, V. M. Development and optimization of a novel 384-well anti-malarial imaging assay validated for high-throughput screening. Am. J. Trop. Med. Hyg. 86, 84–92 (2012).

4. Lucantoni, L. & Avery, V. Whole-cell in vitro screening for gametocytocidal compounds. Future Med. Chem. 4, 2337–2360 (2012).

5. Meister, S. et al. Imaging of Plasmodium liver stages to drive next-generation antimalarial drug discovery. Science 334, 1372–7 (2011).

6. Burrows, J. N., Duparc, S., Gutteridge, W. E., van Huijsduijnen, R. H., Kaszubska, W., Macintyre, F., Mazzuri, S., Möhrle, J. J. & Wells, T. N. C. New developments in anti-malarial target candidate amd product profiles. Malar. J. 16:26 (2017). DOI: 10.1186/s12936-016-1675-x

7. Katsuno, K. et al. Hit and lead criteria in drug discovery for infectious diseases of the developing world. Nat. Rev. Drug Discov. 14, 751–8 (2015).

最終報告書

1. プロジェクトの目的

2019年4月までにスクリーニングで見出された4化合物群の中から、動物モデルにおいて有効性を示すリード化合物を少なくとも1つ見出すことであった。リード化合物は、LO研究に進むためのGHIT/MMVクライテリアを満たす必要がある。また、各化合物群のマラリアライフサイクルへの活性プロファイリングやTCPの確認も必要である。

 

2. プロジェクト・デザイン

LO研究移行のクライテリア達成のため、マラリア原虫モデルでの薬理活性、薬物動態特性の改善を目指した。優先2化合物群については、マラリア原虫ライフサイクルモデルにてTCPの確認を行なった。有望化合物については動物モデル評価を見据えてin vivo PK試験を実施した。2化合物群の作用機序も確認した。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

本プロジェクトでは、血液、肝臓、伝搬のいずれのステージにも活性を示した優先2化合物群にフォーカスして研究を行なった。

シリーズ1化合物については、その良い物理化学性質を保ちながら、asexual blood stage assayと代謝安定性の向上を目標とした。しかしながら、Hit-to-Lead研究期間内での活性の向上は達成できず、起点化合物が最もプロファイルの良い化合物であった。薬物動態特性に関する改善はみられたが、概してシリーズ1化合物群は、薬物排出、代謝安定性、膜透過性に課題が残った。親化合物と同等の薬理活性を示す代謝物も得られ、プロドラッグとしての可能性を精査した。SMFAモデルで強力なtransmission blocking活性を確認した。副次的薬理評価にて、本化合物群は高い選択性を有すことを確認した。耐性メカニズム検討の結果、本化合物群は既知の耐性メカニズムに感受性を示すことがわかった。

シリーズ2化合物については、溶解度を維持したままasexual blood stage assayでの活性を向上させることを目標とした。しかしながら、Hit-to-Lead研究期間内での活性の向上は達成できず、起点化合物周辺が最も良い化合物であった。PKプロファイルにおいて本化合物群は、シリーズ1化合物よりも優れていた。本化合物群はマウスへの経口投与後高い曝露を示し、合成面も優れていた。SMFAモデルでtransmission blocking活性を確認した。副次的薬理評価にて、本化合物群は他のターゲットにも相互作用することがわかった。STPHでのスクリーニングでは、本化合物群はいずれの耐性株に対しても感受性を示さなかった。

本プロジェクトで、化合物シリーズを早期に絞ることの大切さを学んだ。シリーズ3化合物群とシリーズ4化合物群の探索は最初の6か月続けた。そのためにリソースが分散し、有望化合物シリーズに割くべき探索期間が短くなった。また、化合物合成の負担を開始時点で十分に精査する必要性もあることも学んだ。化合物合成の複雑さゆえに1つの化合物群の合成期間が長引き、デザインサイクルが少なくなった。