Investment

プロジェクト

すべての血清型のデングウイルスに対して中和活性を有するヒトモノクローナル抗体の医薬品応用を目的とした研究
  • 受領年
    2016
  • 投資金額
    ¥534,889,409
  • 病気
    NTD (Dengue)
  • 対象
    Drug
  • 開発段階
    Preclinical development
  • パートナー
    中外製薬株式会社 ,  シンガポール科学技術研究庁 シンガポール免疫ネットワーク

イントロダクション/背景

イントロダクション

デングウイルス(DENV)は、熱帯および亜熱帯の都市化された地域に、急速に広がっている。デング熱感染は、4つの異なった血清型ウイルスによって引き起こされる蚊媒介熱性疾患で、ときに、致死的で重篤なデング熱(デング出血熱(DHF)とデングショック症候群(DSS))に進行する。今日、重篤なデング熱は、アジアおよびラテンアメリカの多くの国の小児や成人における入院と死亡の主要な原因になっている。世界保健機関(WHO)によると、約3億9000万人がDENVに感染し、毎年推定で50万人が入院治療を必要としているが、有効なデング熱治療薬は、未だ存在しない。

 

プロジェクトの目的

このプロジェクトは、DENV感染によるデング熱患者に対して、安全かつ有効なモノクローナル抗体(mAb)による治療法の確立を目的としている。デング熱による症状を軽減し、発症した患者を早期に回復させること、また、致命的かつ重篤なDHF/DSSへ進展予防することにより、多くの発展途上国を含む流行性地域でDENV感染による医療の負担を軽減することができる。

 

プロジェクト・デザイン

本プロジェクトで実施する試験研究:

1)新規抗DENV抗体の製剤と製造プロセスの開発

2)医薬品の安全性に関する非臨床試験研究とIND申請に必要な薬効・薬理試験、薬物動態試験、予備的な安全性試験

3)医薬品の安全性に関する非臨床試験研究に必要な抗体の生産と供給

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)、シンガポール免疫学ネットワーク(SIgN)の研究者によって新規かつユニークなヒト抗DENV抗体が分離された。この抗体は、4種類すべての血清型のDENVを中和する活性を有し、デング熱の予防と治療の両方に有用である。SIgNと中外製薬は、2015年に共同研究を開始し、この抗体の最適化を行い、臨床応用可能な開発候補抗体を同定した。今後、本抗体をデング熱の予防・治療に有効な薬剤として開発するため、必要な前臨床研究に着手する。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

現在進められているデング熱予防ワクチンは、単回投与後速やかに4種の血清型すべてのDENVに対して高い抗体価を達成することを目指している。開発中のワクチンが全ての血清型のDENVに対して強い免疫応答を誘発することができない場合は、免疫応答が弱い血清型のDENVに対して抗体依存性感染増強(ADE)による重篤なデング熱発症の危険性が生じる。従って、治療効果を有するモノクローナル抗体は、デング熱ワクチンの予防接種が効果を示さなかった患者、および、ワクチンを接種されなかった患者において、補完的な治療として有用である。

加えて、アウトブレイク時に2次感染する危険のある医療関係者や警察官などに対して抗DENV 抗体を予防的に使用することで、DENV感染の蔓延と医療機関の麻痺を防ぐことができる。

各パートナーの役割と責任

SIgNは、デング熱の流行性地域の1つであるシンガポールに位置し、DENVに関するバイオロジーの専門性とデング熱研究ネットワークを有する。中外製薬およびそのシンガポールの子会社である中外ファーマボディ・リサーチは、種々の高度な抗体改変技術に加えて、前臨床から臨床開発に至る抗体医薬品の研究開発で長年の経験を有している。

最適化された抗DENV抗体の開発を更に進めるために、SIgNはin vitroおよびin vivoでDENVを用いた薬効・薬理学的な研究を実施する。中外製薬は、処方検討と安全性研究を含む非臨床試験を実施すると共に、マスターセルバンクの構築、抗体の生産と供給等を行う。本研究を通して、特に大きな課題が見出されなければ、引き続き、中外製薬は、GLP安全性試験とそれに必要な抗体生産を行う。

他(参考文献、引用文献など)

Xu M. et al. A potent neutralizing antibody with therapeutic potential against all four serotypes of dengue virus. npj Vaccines 2, 2 (2017).

最終報告書

1. プロジェクトの目的

デングウイルス(DENV)には4種の異なる血清型があり、抗体依存性感染増強(ADE)が2回目のDENV感染における重症化に関連すると考えられています。本プロジェクトでは、ADEリスクのないデング熱の治療薬として、4種すべての血清型を中和できる安全かつ有効性の高い抗DENV抗体の開発を目指しています。

 

2. プロジェクト・デザイン

中外製薬とSIgNはGHIT fundのパートナーとして新規抗DENV抗体の前臨床開発に取り組んでいます。今回のプロジェクト(G2016-217)では、以下の活動が完了しました。

①    非臨床薬効試験

②    予備的な毒性ならびに交差反応性試験

③    抗体製造のプロセス開発

④    GLP毒性試験に用いる抗体製造

 

3. プロジェクトの結果及び考察

非臨床薬効試験において、開発抗体が4種すべての血清型に対して高い中和活性を示すことが確認されました。また、ウイルス感染後に開発抗体を投与するマウスモデルでは、4種すべての血清型においてウイルス血症を効果的に低減しました。ヒト細胞株を用いたADEアッセイでは、開発抗体によるウイルス感染の亢進は認められず、重症化に関連すると考えられているADEのリスクが低いことが示されました。

カニクイザルを用いた予備毒性試験において、開発抗体に関連する毒性所見は観察されておりません。また、陽性対照組織を用いた予備的な交差反応性試験により、本試験のための実験条件が決定されました。

生産性の高い細胞株が作成されており、抗体製造のためのプロセス開発も問題なく完了しています。治験薬製造のためのマスターセルバンクも確立されました。

IND申請に必要となる前臨床試験を実施するための原薬が製造され、それぞれの試験を実施するために供給されました。

これらの成果により、この開発抗体は血清型の制限を受けることなく、デング熱の治療および予防の新たな選択肢になることが期待されます。GHIT Fundとの強力なパートナーシップの下、継続プロジェクト(G2018-106)では臨床試験の開始に向けた準備を進めています。