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1995年〜2004年の間にアメリカで承認された新薬の総数は1,556でしたが、そのうち開発途上国の感染症向けに開発された新薬は、わずか1.3%でした。

全世界の7人に1人が、HIV、マラリア、結核、顧みられない熱帯病が何らかの感染症に感染し、全世界のうち7人に3人が何らかの感染症に感染するリスクがあるにも関わらず、なぜ新薬が開発されてこなかったのでしょうか。

その背景には、新薬開発までの需要と供給の仕組みや、企業のビジネスモデルが深く関わっています。
新薬が開発され患者に届くまでの一般的な流れは右図の通りです。
何らかの病気にかかった患者がいるとします。その患者数がある一定数存在すると、そこに医薬品の必要性が生じ、商品の需要が生まれます。その医薬品が収益を生むビジネスと考えられる場合、企業はその新薬の研究開発に対して投資を行い、研究開発を進めることができます。新薬の研究開発・製品化に成功すれば、新薬は消費者である患者のもとに届き、患者の健康を改善し、時に命を救うことが可能となります。

しかし一方で、新薬の研究開発および製品化の成功確率は極めて低く、また膨大な費用と時間を要するため、企業にとっては大きなリスクを抱えながら研究開発を行わなければならないのが現実です。新薬開発は、開発側・患者の両者にとって望ましいことです。しかし、新薬開発が失敗すれば、開発側にとっては大きな痛手となります。従って、企業はどの疾患の研究開発を行うか、あるいは、行わないかを慎重に見極め、経営上の判断を行わなければならないのです。
次に開発途上国の感染症の場合を考えてみます。

患者が何らかの病気にかかり、そこに大きな需要が生まれるのは先ほどと同じです。しかし、開発途上国で問題となっている感染症に対して、企業は新薬開発を積極的に行ってきませんでした。その理由としては、新薬開発の投資に見合う収益が期待できず、投資リスクが高く、開発のインセンティブが小さいことが大きな要因と言われています。また、世界の最貧困層である開発途上国の患者は、一日1ドル未満で生活する人々であり、購買力が未だ小さいために、消費者としてはみなされてこなかったのです。

このように、研究開発費の投資に見合うだけの収益を期待出来ない場合は、ビジネスとしては成り立たず、民間企業が積極的に新薬開発を行う可能性は小さくなります。その結果として、患者の手元には必要とされる医薬品が、必要な時に届くことはありません。このように、市場原理を基盤とするビジネスモデルでは、開発途上国向けの新薬を開発することに構造上限界があるのです。こうした背景があり、開発途上国の患者や疾患が「顧みられない」状態が続いて来たのです。
患者が、必要な薬を、必要なときに、安心して服用・使用できることを、「医薬品アクセス」と呼びます。

医薬品アクセスを決定する要因は、大きく分けて4つのA、Architecture(基盤)、Availability(入手可能性)、Affordability(購入可能性)、Adoption(服用の際の品質・安全)があります。

開発途上国の最貧困層の医薬品アクセスを阻んでいるのは一体何でしょうか。単純に医薬品が開発されないことや、価格が高いことだけがその要因ではありません。実は、いくつもの要因が複雑に絡み合って医薬品アクセス問題を引き起こしています。国の保健医療システムの基盤が弱いこと、保険制度が未整備であること、病院・薬局への物理的・地理的障害、医薬品の特許、粗悪・偽医薬品の流通など、さまざまな要因が、グローバル、国、地域レベルで患者の医薬品アクセスを阻害しています。こうした諸課題は、一国や企業だけで解決することは極めて難しく、先進国、開発途上国のあらゆるステークホルダーが共に解決策を見いださなくてはならない問題なのです。