プレスリリース

March 29, 2018

グローバルヘルス技術振興基金、発足から6年目を迎え、活動の第二期へアクセスと供給への取り組みを強化 有望な治療薬やワクチン、診断技術の開発に16.6億円の新規投資を決定し、累積投資額は132億円へ

住血吸虫症根絶のための取り組みや、多剤耐性結核への対策、シャーガス病の治療薬開発のためのCRISPRと呼ばれる遺伝子編集技術、

マラリア原虫によるヒト免疫系への侵襲を防ぐワクチンの開発などに新規投資へ

 

公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(以下、GHIT Fund)はこのたび、マラリラや結核、及びシャーガス病や住血吸虫症、リーシュマニア症などの顧みられない熱帯病の治療薬やワクチン、診断技術の開発を支援するために、10件のパートナーシップに対して総額約16.6億円の新規投資を決定しました。

 

GHIT Fundは2013年4月の発足から5年間にわたる第一期の活動を終え、2018年4月より活動の第二期目を迎えます。第一期での投資によって、多くの革新的な製品開発を飛躍的に前進させることができました。そして今、第二期を迎えるにあたり、GHIT Fundの製品開発パイプラインの中から、新薬を最も必要とする人々の手に届けることに注力していきます。GHIT Fundは、昨年の6月に発表した増資により確保された資金をもって、2022年度末までに2つの薬事承認を規制当局から得るという目標に向けて、探索研究から臨床試験に至る国際的なパートナーシップによる製品開発に継続的に投資していきます。

 

GHIT Fundは2013年の発足以来、日本の科学と創薬技術を活用した74件の国際的な製品開発パートナーシップに対し、総額約132億円の投資を行ってきました。現在、28件の探索研究、7件の非臨床試験、そして7件の臨床試験が低中所得国で進行中です。これまでに3件の臨床試験が第II相試験(概念実証)を終え、そのうちの1件が年内に第III相試験を開始する予定です。

 

GHIT FundのCEOであるBTスリングスビーは次のように述べています。「国内外のパートナーとともに私たちがこの5年間で築き上げた強固なポートフォリオを大変誇りに思います。これは、GHIT Fundが製品開発における触媒として、そして投資機関として機能していることを示していると考えています。しかし、本当の成功とは、人々の健康や生命を守るために有効な治療薬やワクチン、診断技術を、それらを必要とするすべての人々に、入手可能な価格で届けることにあります。このゴールを達成するためには、これから始まる第二期の活動こそが重要であり、私たちにはそのための準備が整っています。」

 

顧みられない熱帯病への投資

リーシュマニア症とシャーガス病のための治療薬開発 

GHIT Fundは現在、GHIT Fundの製品開発パイプラインにある、リーシュマニア症とシャーガス病に対する有望な新薬開発案件に対して継続的に投資を行っていきます。

 

 世界保健機関(WHO)によると、致死率が高いとされる内臓リーシュマニア症の発症例は年間5万から9万件に上るとされ、発熱、体重低下、膵臓肥大、そして貧血といった症状を引き起こすとされています。未治療の場合、95%以上の症例において致死的であるとされます。内蔵リーシュマニアの患者の90%以上が、7ヶ国(ブラジル、エチオピア、インド、ケニア、ソマリア、南スーダン、スーダン)で発症しているとされています。

 

そして、シャーガス病はラテンアメリカにおいて他のどんな寄生虫症よりも多くの死亡例を引き起こしています。シャーガス病は、クルーズトリパノソーマという寄生虫がサシガメの媒介により伝播するもので、年間800万もの人々が感染しています。多くの場合、目立った初期症状はみられませんが、時間の経過と共に深刻な心臓や腸への影響を引き起こし、それらが最大の死因や病後の障害の原因となります。例えば、米国疾病対策予防センター(CDC)によれば、米国内にも30万人のシャーガス病患者がいるとされ、そのほとんどが流行地域への渡航による感染とされています。

 

武田薬品工業株式会社(以下、武田薬品)とスイスのDrugs for Neglected Diseases initiative(DNDi)による、内臓リーシュマニア症治療薬の開発に対して、今回の公表案件の中で、最高額となる約6億円を投資します。内臓リーシュマニア症の既存薬は毒性があり、費用がかかり、通常は痛みを伴う皮下注射や静脈注射であるため、優れた治療薬や治療法の開発が喫緊の課題とされています。また、既存薬は薬剤耐性寄生虫やHIV患者に対して効果を失ってきています。

 

武田薬品とDNDiは、経口投与ができて、使用環境に適しており、HIV患者にも使えて、より安全で効果的な、短期間の治療法の開発を目指します。武田薬品とDNDiはこれまでの研究で、すでに複数のリード化合物を同定しており、それらを用いて非臨床試験および、ヒト初回投与試験(第I相試験)で用いるための薬剤開発を行うとともに、毒性試験・安全性試験などの非臨床試験を行います。

 

また、GHIT Fundはシャーガス病とリーシュマニア症への取り組みとして、「顧みられない熱帯病(NTDs)創薬ブースター」プロジェクトに対して継続投資を行います。DNDiが主導するこのプロジェクトは、シャーガス病とリーシュマニア症の化合物探索の促進を目指し、2015年にエーザイ株式会社、塩野義製薬株式会社、武田薬品、アストラゼネカの4社との連携により開始され、その後、アッヴィ、セルジーン、Merck KGaAなどの欧米の製薬企業が参画しています。複数の製薬企業が各社の英知を提供するこの画期的なプロジェクトにより、化合物探索のコストを下げるとともに、候補化合物同定までのプロセスを早めることに成功しています。DNDiは複数の製薬企業が保有する、数百万もの質の高い化合物ライブラリーを同時に探索することにより候補化合物を同定します。これまでに、17の異なるシード化合物が同定されるとともに、8つの ヒット化合物群に関して更なる研究が進んでいます。さらに、今回からアステラス製薬株式会社がこのプロジェクトに加わることが決定し、治療薬候補となりうるさらに多くの化合物の探索が可能になります。GHIT Fundではこのたび、この「顧みられない熱帯病(NTDs)創薬ブースター」プロジェクトに対して約1.5億円の追加投資を行います。

 

GHIT Fundは日本の長崎大学熱帯医学研究所、国立研究開発法人産業技術総合研究所、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)と、イギリスのロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)によるパートナーシップに約88百万円を投資します。このパートナーシップは、CRISPR/Cas9と呼ばれる遺伝子編集技術を用い、シャーガス病を引き起こすクルーズトリパノソーマの1,000もの遺伝子を解析することで、シャーガス病の治療薬の開発に有望な創薬標的遺伝子群の同定を行います。

 

さらに、第一三共RDノバーレ株式会社とDNDiのパートナーシップによる、リーシュマニア症とシャーガス病の治療薬開発のための天然物ライブラリーのスクリーニングに対して約12百万円を投資します。

 

住血吸虫症への投資

住血吸虫症を根絶するために

住血吸虫症は、住血吸虫と呼ばれる寄生虫によって引き起こされる感染症です。住血吸虫は淡水産巻貝を宿主として成長、繁殖するため、“マキガイ熱”と呼ばれることもあります。感染の約90%が、安全な水を確保することが難しいアフリカ地域で発生しています。致死率こそ高くないものの、治療しないまま放置しておくと、貧血や発育不全、学習障害、そして肝臓や脾臓の慢性炎症を引き起こします。WHOによると、2016年には住血吸虫症の治療を必要とする患者は2億600万人以上とされています。通常、治療には標準治療薬であるプラジカンテルが使用されますが、住血吸虫症を制圧、根絶するためには、新たな発症事例や再発事例を検知することも重要です。既存の診断薬では軽度の感染を検出することができません。入手可能な価格で、扱いやすく、高感度の診断技術がなければ、患者に治療を届けることは困難です。 

 

GHIT Fundは長崎大学熱帯医学研究所、オランダのLygatureとライデン大学メディカルセンターによる共同プロジェクト、「DTECT-Schisto」に対し、約76百万円を投資します。本プロジェクトでは、住血吸虫由来の特定のタンパクあるいは糖鎖に対する抗体を血中・尿中に迅速に検出します。究極的なゴールは住血吸虫症の制圧(排除)プログラムの評価に資する新規迅速診断ツールの開発です。2年間の研究終了時点には、血液と尿を用いて高感度診断を可能とするタンパクと糖鎖抗原のショートリストを提供します。本研究は技術的可能性を実証する研究の開始点となります。

 

マラリアへの投資

マラリア原虫のヒト免疫系への攻撃を防ぐ

2016年のマラリアの発症例は2億件に上ります。熱帯熱マラリアによって毎年40万人以上が命を落としており、その大半はサハラ以南のアフリカの5歳以下の子どもたちです。治療薬や蚊帳、屋内スプレーなどを通じた対策が講じられていますが、効果の高いワクチンは将来的なマラリア撲滅のためには有望な解決策になると期待されています。 

 

GHIT Fundは、長崎大学熱帯医学研究所、米国のペンシルベニア州立大学と Antigen Discovery Inc.,のパートナーシップによる、マラリア原虫によるヒト免疫系を利用した赤血球への侵入を阻害するマラリアワクチンの開発に約88百万円を投資します。このプロジェクトでは、体が病気と闘うのを助ける免疫系の一種である「補体系」が、病原体と認識せずマラリア原虫を受け入れ、感染を強めてしまう可能性について研究を行います。最近のデータでは、熱帯熱マラリア原虫は補体系を弱体化させ、免疫系を攻撃することで、自らを守ることが分かっています。こうしたメカニズムをより深く理解することで、将来的にワクチンに用いることができる、補体系を脅かすマラリア原虫に対する抗体の開発が期待されています。

 

GHIT Fundは、米国のフロリダ大学が株式会社セルフリーサイエンスとのパートナーシップにより先駆的に開始されたマラリアワクチンプロジェクトに引き続き投資します。今後は株式会社浜松ファーマリサーチ(HPR)、Centre Pasteur du Cameroon(CPC)、Ology Bioservices Inc.、およびthe Infectious Disease Research Institute(IDRI)がパートナーとして加わります。 開発チームは、コミュニティー内のマラリア原虫伝達ベクターである蚊によるマラリア伝搬を妨げるように設計された「伝搬阻止ワクチン」(TBV)の開発を継続します。 開発中のワクチンの中で、このTBVは、マラリアの最も一般的な原因としての熱帯熱マラリア原虫と三日熱マラリア原虫の両方を潜在的にブロックする可能性がある唯一の候補です。GHIT Fundではこのたび、この研究に追加的に約3.5億円を投資し、ワクチン製剤の非臨床開発を行い、ヒト初回臨床試験(第I相試験)を目指します。

 

さらにGHIT Fundは、より優れた抗マラリア薬の開発を目指し、大日本住友製薬株式会社とスイスのMedicines for Malaria Venture(MMV)のパートナーシップに対し、約45百万円の継続投資を行います。今回の投資では、これまでに同定されたヒット化合物群の更なる精査を行い、非臨床試験における安全性評価を含む「リード化合物の最適化」を目指します。

 

また、MMV、武田薬品とメルボルン大学のBio21 Molecular Science and Biotechnology Instituteのパートナーシップに対し、約46百万円の継続投資を行います。薬剤耐性マラリア原虫対策を目的として、革新的なマラリア研究のアプローチである、抗がん剤の一種であるプロテアソーム阻害薬を用いた研究を行います。マラリア原虫のもつプロテアソームは、損傷した細胞のタンパク質を分解・除去する役割を担っており、人々を病気や死に至らしめる複雑なマラリアの生活環に関与しているとされています。GHIT Fundのこれまでの投資により、マラリア原虫のプロテアソーム活性を阻害する可能性が高いとみられる化合物が同定されました。今回の投資では、薬剤耐性マラリアに対する新薬開発の取り組みとして、これらの化合物からリード化合物を導出することを目指しています。

 

結核への投資

薬剤耐性を持つ結核増加への対策

GHIT Fundは、結核薬の開発に対して継続的に投資を行います。一般的な結核は治療が可能ですが、専門家たちは多剤耐性結核菌や超多剤耐性結核菌による感染拡大がグローバルヘルスにおける深刻な危機をもたらすと懸念しています。薬剤耐性結核に感染すると、数十年使われてきた既存の治療薬の効果が徐々に弱まり、完全に効かなくなってしまうこともあります。耐性菌の増加に対抗する新薬開発に向け、一刻を争う事態となっています。

 

GHIT Fundは、エーザイ株式会社および米国のブロード研究所、コロラド州立大学抗酸菌病研究所、シカゴ大学、TBアライアンスのパートナーシップによる、新規作用機序を有する抗結核薬の開発を目指した革新的な共同研究に対し、約2億円の投資を行います。このパートナーシップでは、多様性指向型合成(DOS)化合物ライブラリーから同定された新規作用機序を持つ化合物群を用いて、効果や薬物動態が改善された化合物をデザインおよび合成し、マウスモデルを用いてその安全性を評価していきます。